【注目自治体】大西一史・熊本市長 新型コロナ禍はまだ終わらない~常に最悪を想定し、危機に対応する (後)
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第33代熊本市長 大西 一史 氏
九州では福岡県と並んで新型コロナウイルスが猛威を振るっている熊本県。指定都市の熊本市では一時期病床稼働率が100%を超えるなど、医療体制がひっ迫する事態になっていた。市長就任以来、熊本地震と新型コロナ禍などの危機管理に直面してきた大西一史市長。危機対応の要諦を「常に最悪を想定すること」と語る大西市長に現状を聞いた。〈インタビュー実施日:5月25日〉
――「新型コロナ禍中でオリンピックをすべきなのか」というテーマで国内が二分されています。熊本市内やあるいは県内で、オリンピック選手団の事前キャンプなど受け入れの予定は。また、大西市長ご自身は開催についてどのようなご意見をお持ちですか。
大西 水球については、日本チームが5月末から合宿を行いました。あとはドイツの水泳チームが直前合宿をする予定ですが、現在のところキャンセル等の話は聞いておりません。
オリンピックの開催については、政府が重い判断をしなければなりません。私自身は、まずは人命を最優先すべきであり、さまざまな事情があるとはいえ、感染を落ち着かせることが先だと考えています。アメリカのCDC(疾病予防管理センター)から、日本への渡航を禁止する勧告がありました。報道では、オリンピックとリンクしないという話ですが、国民的に納得が得られるか、政府にはしっかり考えて重要な判断をしていただきたいと思います。感染拡大防止の対策をとることはもちろんですが、アスリートの皆さんが気持ちよく試合ができる環境を整えることもオリンピックにとっては非常に重要だと思います。歓迎されない状況の中で無理に開催することについて私は否定的な考えを持っていますが、そういう意味においてもより慎重に対応する必要があると思っています。
自治体間競争で発信力アップ
――国がやや迷走状態に見えるのと対照的に、発信力のある自治体首長が増え、積極的に発言してリーダーシップを発揮しています。他方では地域間競争の時代に入り、たとえば観光面では熊本市は鹿児島市とライバル関係にあります。地域としての発信力をどのように高めていくべきでしょうか。
大西 たしかに、地域間競争という意味では首長のリーダーシップはとても大きいと思います。ただし、私だけが発信してそれで事足りるということではないことも事実です。私が職員に対し常々言っているのは、職員自身が多様な感度を持って効果的な発信ができるようになるということ。職員全員が意識して「自分が市長だ」と思い、常に市政のことを考えて、「どうアピールすべきか」と考える土壌をつくれば、誰が市長になろうと発信力が高い自治体が生まれると思います。
いま、広報部門も含めた各セクションがSNSやYouTubeを工夫して活用しています。他の地域の良いアイデアも参考にさせていただいて、お互いに良い競争が生まれれば、それぞれの地域にとって非常にプラスになっていくでしょう。新型コロナウイルスの感染拡大という非常にネガティブな状況では、自治体トップの発言はどうしても叩かれがちです。それは受け止めながらも、市民の皆さんや全国の皆さんに信頼していただけるような発信をし続けることが重要だと考えています。
――鹿児島市の下鶴(隆央)市長もおっしゃっていましたが、コロナがそれほどまん延していない時期であれば、たとえば熊本・鹿児島・宮崎の3県で「南九州連合」みたいなものをつくって、そこの地域間だけの越境はOKにするなど、行動自粛下においても工夫ができたのではないかと。ある程度自治体が主導権を握って国に提案していくということも必要になりますね。
大西 鹿児島市の下鶴市長とは、頻繁に電話でやりとりしています。ワクチン接種について、鹿児島市は比較的順調に進めていらっしゃると感じています。熊本市より人口は少ないものの、人口60万人の中核市ですから、私自身もいろいろうかがって参考にさせていただいているところです。
ライバル関係にある都市同士が、互いに補完しながらエリアで盛り上げていくことはとても重要になってくると思います。鹿児島、宮崎、熊本エリア、あるいは長崎と大分、佐賀と福岡など、個別の連携はあり得ますし、「オール九州」で盛り上げることも可能です。かつては「九州は1つ」と言いながら、一方で「九州は“1つひとつ”でバラバラだ」とよく揶揄されていましたが、まさにいま、1つになってコロナ禍に立ち向かうことが必要なのだろうと思います。
首長間の連携は非常に重要で、観光資源などそれぞれの地域の特色を出すことに切磋琢磨しながら、今のうちに地域を盛り上げる作戦を意見交換しながら練っていくことは非常に重要ですし、呼びかけもぜひ行いたいと思います。
「危機管理」市長として~常に最悪を想定する
――大西市長が就任されて以降、まさに「危機管理市長」といいますか、熊本地震と水害があり、そして今度はコロナ禍。市民をどう救うかというところに常に目配りされてきたのでは。
大西 就任から1年4カ月目に熊本地震が発生しました。「新しい大西カラーの市政をスタートさせよう」というときの被災でしたので、出鼻をくじかれた感じでした。しかし復旧・復興は時間との勝負で、最悪を想定しながらも可能な限り迅速に進めなければならない。そのためには何が必要かというと、「現状をどれだけ的確に把握できるか」ということです。私は地域主義をずっと掲げてきましたが、地域の区役所からさらにもう1つ小さな単位として「まちづくりセンター」を設置し、地域担当職員を配置して、地域のさまざまな困りごとや実情などを網羅的に把握させるようにしました。熊本地震の際、そういった地域コミュニティーを再構築したことが、今回のコロナ禍対策においても生きているのだと思います。
危機管理は、最悪の状況を想定しながら早めに手を打つことに尽きます。熊本地震のときも1回目より2回目の揺れのほうが大きかったのですが、これはつまり最悪を想定しきれなかったということです。ただ、そういうことが起こったからこそ、「また大きい揺れが来たらどうしよう」と考えながら計画を立ててきました。桜町バスターミナルや駅前広場についても防災力を高めるため、帰宅困難者に対する施設利用など、地震前には想定し得なかった利用法を付加しました。そういう意味では、転んでもただでは起きないというような感覚をいつも持ちながら考えてきました。
2期目に入り、熊本地震からの復興を確実なものにし、市役所改革についてもさらに進めようとしていたときに、新型コロナが襲ってきました。コロナの場合、深刻なのは熊本だけではなく、全国、全世界が同じ状況だということです。熊本地震のときは各地からご支援いただき立ち直ることができましたが、コロナ禍においてはどの自治体も非常に厳しい状況にありますので、まずは地元でできる感染症対策を徹底しなければならないわけです。じつは今年の3月頃、5月には感染状況が悪化すると予測していました。その通りになったという意味では最悪を想定していたことが結果的には良かったことにはなりますが、今後も第5波、6波、7波が起こるだろうという想定をしながら、メリハリの効いた対策をとっていくしかないと考えています。
――ワクチン接種については、現場に権限を委譲することでスムーズに実施できるという指摘もあります。
大西 今回の新型コロナ対策においては、新型インフルエンザ等対策特別措置法で都道府県にさまざまな権限が与えられています。感染症ですから広いエリアで見ていくのは当然大事な視点ですが、一方で、対策としては局所的にならざるを得ない面もあります。熊本市などの一定の人口集積のある基礎自治体に権限を下ろしておいた方が、独自に早めのブレーキを踏むなり、あるいはきめ細かな対策ができるということにもなります。財源にしても、感染が広がっている政令指定都市などに、より重点的に下ろしていったほうが迅速な対応ができるのではないかと思います。新型コロナウイルスとの戦いは今後もしばらく続きますので、迅速にきめ細かい対応が行えるよう、随時、国に対して要望していきたいと思います。
(了)
<プロフィール>
大西 一史(おおにし・かずふみ)
1967年12月、熊本市生まれ。92年日本大学文理学部心理学科卒業。日商岩井メカトロニクス(株)に入社し、94年に退職。内閣官房副長官秘書を経て、97年に熊本県議に就任(5期)。2014年12月に熊本市長に就任し、現在2期目。関連キーワード
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