【熊本】JR肥薩線と空港アクセス鉄道 明暗分ける2本の鉄路(前)
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昨夏の熊本豪雨に襲われたJR肥薩線「八代―吉松」間は復旧めどが立たないまま1年が経過。JR九州は復旧費も明かさず廃線の危機に直面する。一方、16年春の熊本地震で被災した熊本空港復興の一環で計画されたJR豊肥線と空港を結ぶアクセス鉄道は、熊本県が費用便益比1.0超と試算、事業着手の端緒を開いた。明暗を分ける2つの鉄道の現状を紹介する。
肥薩線は、JR鹿児島線八代駅(熊本県八代市)とJR日豊線隼人駅(鹿児島県霧島市)間の延長124.2km。昨年7月の熊本豪雨で球磨川と並走する熊本県の「八代駅―人吉駅」間(51.8km)、宮崎県えびの市経由の「人吉駅―吉松駅(鹿児島県湧水町)」間の35kmの計86.8kmが被災し全面通行止めになった。
熊本豪雨の1カ月余り前。JR九州は管内の鉄道路線のうち20線区の2018年度の収支と1日1kmあたりの平均通過人員(輸送密度)を公表した。87年4月の会社設立以来初めてで、バスなどほかの代替交通機関への転換を示唆したとの見方が広がった。
肥薩線は八代―人吉、人吉―吉松、吉松―隼人の3区間の輸送密度と収支を公表。八代―人吉は455人、5億7,300万円の赤字、人吉―吉松は105人、2億6,100万円の赤字。八代―人吉間の赤字額は20線区中ワースト2位。人吉―吉松間の輸送密度はワースト1位だった。
しかし、明治末期から昭和初めにかけて肥薩線は鹿児島本線だった伝統がある。2007年、肥薩線の駅舎や橋梁などが国の近代化産業遺産群(文化遺産)になった。球磨川沿いを縫うように走る車窓からの景観も魅力の1つ。観光客や鉄道ファンの人気が高い。コロナ禍前は九州新幹線から乗り継ぐインバウンド客も少なくなかった。
昨年10月になって、熊本、宮崎、鹿児島3県の沿線16市町村でつくる肥薩線利用促進・魅力発信協議会はJR九州に鉄道での全線復旧を訴えた。今のところ、最初で最後の要望だ。
JR側は、球磨川水系の治水計画が固まらないと橋梁や線路の高さを決められないとして復旧協議を避けたが、6月30日になって、同社の青柳俊彦社長は復旧工事費の概算を来年3月末までに示すと表明。「鉄道を復旧するとなれば、一から建設するのと同じ。運行再開に5年以上かかる」と付け加えた。
対する同協議会事務局の人吉市は「JR九州が復旧すると言わない限り、こちらから動こうにも動けない」(地域コミュニティ課)と“待ちの姿勢”を強調する。
復旧工事費は100億円を超えるという。鉄道軌道整備法を適用し特例も認められると、国と自治体の補助が手厚くなり、JR九州の負担分は40%程度に低下する。しかし鉄道再開後は運行コストもかかる。一度、“不採算路線”の俎(そ)上に載った人口減少エリアの鉄道復活は容易ではない。
(つづく)
【南里 秀之】
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