2024年11月27日( 水 )

【横浜市長選】混迷+候補者乱立で注目の横浜市長選 ポイントはIRと「反スガ」「親スガ」

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真に「ぶれない」候補者は誰か

 菅義偉首相(神奈川2区=横浜市西区・南区・港南区)お膝元の横浜市長選(8月8日告示・22日投開票)で、カジノ誘致の是非に加えて“菅直系市政”イエスかノーかが争点になってきた。菅首相が幼馴染の小此木八郎・前国家公安委員長への全面支援を表明、自民党横浜市議36人中30人も同調して実質的な自民党推薦に近いかたちとなった。その結果、「菅首相直系の準自民推薦の小此木候補 対 非自民の反カジノ候補」という構図に様変わりしたのだ。

山中竹春・元横浜市立大学教授が挨拶をした決起集会

山中竹春候補
山中竹春候補

 畑野君枝・衆院議員(共産)は7月25日、立民推薦の山中竹春・元横浜市立大学教授が挨拶をした決起集会で、次のように訴えた。

畑野君枝・衆院議員
畑野君枝・衆院議員

 「これまでカジノ推進で林市長を支えてきた自民党と公明党は、市民の『カジノ誘致反対』『勝手に誘致を決めるな』という大きな声を前に行き詰まり、こっそりとカジノ誘致撤回という候補の支援に回るという驚くべき状況が起こっています。何よりもカジノ誘致推進を進めた張本人の菅首相が、『横浜へのIR取止め』という小此木さんに対して『私は小此木さんのぶれない信念と横浜の未来への責任ある決断を支持します』という推薦状を各団体に送っているのです」

 ここで畑野氏が「ぶれない信念」と言った瞬間、集会参加者から笑いが起こったが、カジノ推進から取止めへと豹変した小此木氏との不釣り合いさの産物に違いなかった。ただし、「菅首相を支える」という意味では小此木氏は首尾一貫していた。横浜市長選が「自公推薦カジノ推進候補 対 野党系反カジノ候補」という構図になれば与党の敗色は濃厚で、「お膝元の市長選で勝てない菅首相」「選挙の顔として失格」と見なされて“菅降ろし”が本格化する恐れがあった。そんな危機的状況が迫るなかで小此木氏はカジノ取止めを掲げた出馬会見に打って出たのだ。閣僚として政権を支えた後、閣僚辞職によっても菅首相の窮地を救おうとしたといえる。

山中氏挨拶の決起大会
山中氏挨拶の決起大会

 閣僚辞任をしてまで尽くす小此木氏に対して、菅首相が全面支援を口にしたのは至極当然のことだったのかもしれない。7月21日のNHK政治マガジン「横浜 IR・カジノに揺れる 史上最大の混戦を制すのは」には、菅首相の発言が次のように紹介されていた。

小此木八郎・前国家公安委員長
小此木八郎・前国家公安委員長

 「(小此木氏が自民党に推薦を求めた)この時点で菅は、市長選をめぐる考えを公に示していなかった。しかし、小此木が立候補表明した後、周辺に『小此木を徹底的にやる』と話していたという」

 また自主投票を決めた自民党横浜市議団も、8割以上が菅首相と足並みをそろえた。何と36人中30人がカジノ取止めの小此木氏支持に回り、カジノ推進の立場で出馬表明をした林文子市長から離反したのだ。4年前は自公の支援を受けて反カジノ候補にダブルスコアで勝利した林市長だが、その“主力支援部隊”が欠ければ、集票力の大幅減は避けられない。菅首相に見捨てられて有力候補から脱落したともいえるが、こうして大本命となった小此木氏と非自民の反カジノ候補が激突する様相が色濃くなったのだ。

菅首相とは「切っても切れない関係」小此木氏

 混沌としていた横浜市長選の構図が鮮明になりつつあった7月23日、JR横浜線鴨居駅前での街宣を終えた小此木氏を直撃。菅首相の全面支援などについて聞いてみた。

 ――「菅さんから支援してもらえる」という記事を読んだのですが。

 小此木氏 支援してもらえるも何も最初からだもの。切っても切れない(関係だ)もの。みんな喧嘩したと思っている、(メデイアが)面白おかしく伝えいると。

 ――(菅首相が)応援するのは当たり前だと。

 小此木氏 当たり前とは言わないよ。そんな偉そうな感じではない。面倒臭いのは、みんな藤木さんとかこっちを聞くから。心のなかはみんな、あれだからね。

 ――(自民党)市議の8割以上(36名中30名)応援してくれると。

 小此木氏 それは自分がしっかりしないといけないということですよ。

 ――実質的には「自民党推薦」とあまり変わらないのでは。

 小此木氏 というか、心と心だから。もうそういう取り決めの話ではなくて、気持ちと気持ちだから。

   市長の任期途中でカジノ誘致に方針変更する可能性についても聞いてみた。山中氏の出馬会見に同席した江田憲司代表代行(立民)は「もう騙されないぞ!」と銘打ったフリップを手に、小此木氏と林市長を次のように重ね合わせていたからだ。

 「小此木さんの会見を聞いていると、なぜカジノ取り止めなのかは『まだ横浜誘致は環境が整っていない』と(言っていた)。それでは環境が整ったら(カジノを)やるのでしょう」(江田氏)

 そこで、「将来的にはカジノ誘致はあるという考えか」と聞くと、小此木氏はこう答えた。

 「『将来的』というのはどれくらいのことを言っているのか。(当選した場合の任期中)4年間はやらないのだから。その後は、次の市長選で当選するのかどうかわからないのだから。目の前の選挙で僕が当選するのかどうかさえわからない。(市長になったら)『取止める』ことが仕事だから。取止めたら、東京とかほかのところにもって行くでしょう。その間に僕はIRに代わるほかの仕事をやるのだから。(横浜にはカジノが)将来必要なくなるのでしょう」

 ここで江田氏の疑念をストレートにぶつけてみた。

 ――ほかの候補は(小此木氏は)「環境が整ったら(カジノ)誘致するのではないか」ということを言っていたが、そういうことはないのか。今は整っていないが(将来的に整えばカジノを誘致すると)。

 小此木氏 それは「嘘をついている」ということでしょう。「取止める」と言っているのだから。「俺が嘘つき」と思われているのは知っている。疑われている。

 ――(市長任期中の)4年間は「取止め」続けるということか。

 小此木氏 取止めてカジノに代わるカーボンニュートラルなどの取り組みをして雇用をつくるということをみんなで考えましょうと言っている。

 横浜市長選の注目ポイントが浮き彫りになっていく。1つは、小此木氏が林市長と違ってカジノ取止めを貫く「反カジノ候補」と捉えられるのか、それとも市民を再び騙す“隠れカジノ候補”と見なされるのか。もう1つは、菅首相直系市長による横浜市政を続けるのか、それとも脱・菅支配の非自民系市長による市政を選ぶのかということだ。横浜市長選は、カジノ誘致に加えて新たな争点が加わったかたちだ。

【ジャーナリスト/横田 一】

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