長崎・小浜温泉、未利用温泉で約220世帯分の地熱発電~雲仙市は地熱の保護・活用条例も(前)
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長崎・雲仙岳の麓にある小浜温泉には、温泉水を利用した地熱発電「小浜温泉バイナリー発電所」がある。約30もの源泉がある小浜温泉では、温泉水の約7割が使われずに海に流されていたため、再生可能エネルギーとして活用している。地熱資源が豊富な日本で、地元の温泉産業と共存できる地熱発電の可能性を探る。
未利用の温泉水で地熱発電
「小浜温泉バイナリー発電所(125kW)」は、一般家庭約220世帯分の電気を発電している。温泉バイナリー発電とは、蒸気になりやすい液体を温泉水で沸騰させて、その蒸気の力でタービンを回して発電する方法だ。すでに湧き出している温泉水でも発電が可能なため、地下の高温の熱源を使う通常の地熱発電とは異なり、新たに井戸を掘らなくてもよい。
小浜温泉では、1日あたり1万5,000tもの温泉が湧き出ているが、その7割以上が使い切れずに海へ流されていた。そのため、使われていない温泉水をエネルギーとしてうまく活用できないかという地元の課題と、「日本一長い足湯」に続く観光資源づくりが、小浜温泉バイナリー発電所を設けるきっかけになった。2011年3月、温泉の源泉所有者を中心に大学や自治体が主導する「小浜温泉エネルギー活用推進協議会」が発足。同年5月には、発電プロジェクトを進めるために(一社)小浜温泉エネルギーが設立された。
小浜温泉バイナリー発電所は、環境省の温泉発電実証事業(環境省チャレンジ25 地域づくり事業)として13年に運転を開始し、実証事業の終了後はシン・エナジー(株)(旧・洸陽電機)が買い取り、15年から事業化している。小浜温泉の先進的な取り組みが、全国から多数の視察者を集め、温泉地で温泉発電が広まるきっかけにもなった。
事業化するにあたり、最も大きな課題となったのが、温泉成分が白く固まる「湯の華」が熱交換器や配管にたくさん付いて詰まってしまうため、頻繁にメンテナンスを行う必要があり、その負担が大きいことだ。
実験開始当初は2週間に1回、1~2日かけて清掃作業を行う必要があり、清掃期間は発電ができないため、発電効率が下がってしまう。そこで、源泉の井戸のそばで熱交換を行い、高圧のまま熱交換器に通し、温泉水の温度を急激に下げる方法などによって「湯の華」を付きにくくすることで、メンテナンスの負担を大きく軽減した。
発電所では、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)により、発電したすべての電力を売電しており、年間売電売上は約2,500万円(地熱発電のFIT期間は15年、買取価格40円/kWh)。実証事業終了後に発電所の大規模な改修や発電機のリニューアルを行ったため、FIT期間を通じて投資費用を回収できる見通しという。
小型温泉発電を地元エネルギー利用に
小浜温泉では、地域でつくったエネルギーを地域で使う仕組みの構築を目指している。中規模の温泉バイナリー発電所は初期投資がかかり、地域だけで設置するのは負担が大きいことや、立地条件により新たに設置する場所を確保することが難しいため、低予算で導入できる小型の温泉バイナリー発電の事業化に向けて、実証実験を重ねている。
(一社)小浜温泉エネルギー事務局長として、発電所の設置や管理に携わってきた雲仙市役所環境水道部環境政策課新エネルギー推進班・佐々木裕氏は、「将来的には地域に根付いた発電所として、小型の温泉バイナリー発電設備を温泉旅館などの施設に導入できるようにすることを目指しています。発電した電気は蓄電池に溜めて施設や家庭で自ら消費し、災害時の活用も想定しています。今は実験段階のため発電設備は高価格ですが、需要が高まれば量産化されて価格も下がると期待されるため、事業性を高めて成功事例をつくりたいと考えています」と話す。雲仙市では今後、温泉発電所と既存の水力発電所、間伐材を利用したバイオマスボイラー設備などを組み合わせた再エネを観光資源としても活用していく予定だ。
小型の温泉バイナリー発電設備は従来、米国製など海外製が主流であったが、FITが始まってからは国内メーカーも展開している。小浜温泉では、NEDOの共同研究事業などにより、民間企業や大学がそれぞれ小型温泉バイナリー発電設備(100W~3kW)を設置して実証実験を行っており、温泉街への普及を目指す。
(つづく)
【石井 ゆかり】
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