ブラック社員にご用心!やっかいな合同労組絡みの労使トラブル(後)
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ある日突然、聞いたこともない労働組合から団体交渉の申し入れを受ける。個人でも加入できる労働組合の活動が活発化している。深刻な労働問題に直面した労働者の救済支援を目的とする合同労組(ユニオン)が介入した労使トラブルには、労働者の身勝手な要求が正当化されるケースも見られ、企業経営の新たなリスクとして浮上している。
最短6カ月で失業給付
Bさんはなぜ、合同労組に加入したのか。組合に加入するためには組合費を支払わなければならない。そのため、9,600円の残業代請求のためだけでは、計算が合わない。A社に対して感情的な恨みがあっての仕返しならば、そうした行動をとる可能性もあるが、おそらく真の目的は失業給付の受給だったのではないかと推測される。
厚生労働省が所管する雇用保険法では、パートやアルバイトも31日以上の雇用で、週20時間以上のシフトが見込まれる場合は、雇用保険の被保険者となる。また、自己都合による退職でも、離職日以前の1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あれば、特定の条件を満たすことで失業給付を受けられる。
つまり、悪意のあるアルバイトが最短で失業給付を受給しようと思えば、雇用保険の被保険者となる業務量で雇用契約を結び、6カ月間の勤務を経て、「特定受給資格者および特定理由離職者」として離職すればよいのである。
「特定受給資格者および特定理由離職者」の範囲は多岐におよぶが、Bさんが3カ月ごとの労働契約更新時期を前に、突如1カ月の長期休暇を申請した背景として、「期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る)」という特定理由離職の条件を満たすためであった可能性も十分に考えられる。
また、Bさんが退職理由の1つに挙げた「毎週水曜日の1本の植木への水やり」と「コップを洗わされたこと」は、「労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者」の条件に該当している。労基法では、事業主から明示された労働条件が就職後の実際の労働条件と著しく相違することを理由に、就職後1年を経過するまでの間に離職した場合には特定受給資格者としての条件が満たされる。
従来以上の経営リスクに
現在、Bさんが無事に失業給付を受けながら転職活動を行っているのかは不明である。20代の失業保険の給付日数は90日なので、極端に考えれば、180日就業して90日失業というライフスタイルも可能なのかもしれない。しかし、会社にとっては、新入社員の採用、教育、設備に投資して、さらに社会保険や雇用保険などを負担し、退職者が出れば事業計画の進捗にも影響する。本来、立場の弱い労働者を守るための法律が、悪意のある解釈によって乱用されていることは非常に残念なことである。
ブラック企業は被害者からの告発で行政の監督の下、是正される。しかし、ブラック社員に対しては社会的制裁もなく、ほぼ野放し状態である。さらには合同労組が次々と誕生している昨今の情勢が、そういった行動を助長しているようにも思える。もちろん、転職を繰り返す行為は本人にとって健全であろうはずがない。
労働の意思と能力のある者がすべて働けるという完全雇用の時代において、企業経営者はブラック社員との労使トラブルをこれまで以上にリスクとして認識すべきだろう。なかには、最初から会社を陥れようと面接に赴き、次第に休みがちとなり、気づけば退職して合同労組との団体交渉で1,000万円単位の支払いを要求するケースもあるようだ。
経営者はそういったリスクに対応していかなげればならないが、個人情報保護が盾となり、ブラック社員に関する情報の共有は困難とみられる。企業防衛の観点から、そうした面についても環境の是正が望まれる。
(了)
【児玉 崇】
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