2024年12月23日( 月 )

地上のオリンピックを他所に、過熱する宇宙旅行開発レース

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年8月6日付の記事を紹介する。

   このところ世界の大富豪たちが相次いで宇宙に飛び立ち始めている。先月にはリチャード・ブロンソン卿に遅れること9日となったが、アマゾンの社長を退任したばかりのジェフ・ベゾス氏が3人の同乗者とともに11分間の宇宙旅行を満喫した。

 ベゾス氏の場合は、「ブルー・オリジン」に慈善事業家の弟、82歳の女性、そして18歳の学生を乗せての宇宙飛行だった。実は、この女性は9歳の時から飛行訓練を始め、アメリカ空軍のパイロットとして長年活躍してきた筋金入りの飛行士。1960年代初頭、NASAの宇宙飛行士として、初の女性宇宙飛行士の夢を追求していたのだが、計画そのものが財政難で中止になってしまい、見果てぬ夢で終わりそうだった。

 しかし、ブロンソン卿の「バージン・ギャラクティック」が民間人の宇宙旅行への扉を開いたため、2010年の時点で、20万ドルで搭乗チケットを予約し、最後のチャンスに賭けていたとのこと。ただ、ブロンソン卿が進める宇宙飛行の人気は凄まじく、日本円で2,000万円を超える高額にも拘らず、あっという間に600人を超える予約者が殺到し、彼女の順番がいつ回って来るのかわからないという有り様だった。

 そのことを聞きおよんだベゾス氏は「あなたほど長年、宇宙飛行を待ち望んでいた人はいない。ご招待したいので、ぜひ、一緒にどうですか」と声をかけたという。結果、彼女は「史上最高齢の宇宙飛行士」の称号を手に入れたわけだ。地上から107㎞の上空に到達し、4人で10分20秒の無重力を体験。彼女の驚きと喜びの声は82歳とは思えぬ若々しいものだった。

宇宙 イメージ 無事帰還した後の記者会見で、ベゾス氏は「宇宙への道を開くことができた。これは子どもたちや孫たちの未来へ続く道だ。我々は地球を見捨て、他の惑星に移住する考えはない。なぜなら太陽系のなかで、地球ほどすばらしい星はないからだ。宇宙から見れば、そのことが実感できる。この地球を大切に守っていきたい」と語っている。

 火星への移住計画を進めるスペースXのイーロン・マスク氏を意識した発言に違いない。

 しかも、ベゾス氏は計画中の「ブルー・ムーン」号を使い、宇宙飛行士を月へ再度送り込む計画も発表。これも、NASAとの独占契約を売り物にするスペースXに対抗しようとする目論見と思われる。

 地上では東京オリンピックが熱気を帯びているが、宇宙では空前絶後の開発レースの幕が切って落とされたといえそうだ。とはいえ、アメリカの連邦航空局(FAA)では「ジェフ・ベゾス氏やリチャード・ブロンソン卿は宇宙飛行士とは認められない」との立場を鮮明にしている。その理由は明らかだろう。

 なぜなら、「地上から80キロ以上の上空に飛び立つ」という条件はクリアーしているものの、「人類の安全な宇宙飛行に貢献する」という条件を満たしていないからである。確かに、ベゾス氏の場合でいえば、「宇宙空間で10分ほどの無重力を体験しただけ」で、何かの実験に取り組んだり、成果をもたらしたことは皆無だった。

 うがった見方をすれば、「大金持ちの道楽」に過ぎない。とくにベゾス氏は「地上のゴミや公害をもたらす製造工場を宇宙に移動させたい。そうすれば、地球の環境問題を解決できる」との自説を披露したことで、大ヒンシュクを買っている。

 しかも、20万人もの人々が「ベゾス氏が宇宙から地上に帰還することを阻止する」という嘆願書に署名している。というのは、同氏の経営してきたアマゾンはコロナ禍で大きな収益を上げているのだが、従業員には組合の結成も認めず、過酷な労働条件でトイレ休憩もままならない、との批判が集中しているからだ。彼らの言い分は「たった数分の無重力を体験するために550万ドルも使うなら、もっと貧しい社員のための給料を上げたり、福利厚生を充実させてはどうか」というもの。もっともな意見であろう。

 しかし、ベゾス氏もブロンソン卿もまったく耳を傾ける気配はないようだ。それどころか、宇宙旅行は新規ビジネスとしてますます大きな収益が期待できるとの考えで、両人とも次なる「月旅行」に向けての準備に余念がない。ベゾス氏曰く「ブルー・オリジンのチケット予約はすでに1億ドルを突破した」。さらには「オークションでは1席2,800万ドルでの落札もあった。これから毎年2回の打ち上げを計画している」とのこと。

 日本の若き大金持ちの代表を自任する前沢友作氏もイーロン・マスク氏の「スペースX」と契約し、「8人の仲間をともなって月への旅行に飛び立つ」と豪語して止まない。そのプロジェクトは「ディア・ムーン」というもので、12日間の宇宙への旅になるらしい。

 前沢氏曰く「同乗したいと希望を寄せてくれた人は全世界から100万人を超えた。中にはオリンピックの選手もいる。彼らから送られたビデオを精査して、同乗者を決定したい。宇宙で何をすべきか、アイデアも募集中だ」。

 夢のある事業との見方もあろうが、地上で悪化する一方の環境破壊やコロナなど感染症の蔓延などの問題を放置して、宇宙への旅立ちに血眼になるのは、どう考えても本末転倒ではなかろうか。それとも、そうした発想は貧者の妬みに過ぎないのだろうか。


著者:浜田和幸
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