2024年09月28日( 土 )

オンラインで日韓ビジネスをサポート 日韓経済交流の維持・拡大に尽力(前)

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大韓貿易投資振興公社(KOTRA)福岡貿易館
館長 許 珍原 氏

 大韓貿易投資振興公社(通称:韓国貿易センター、KOTRA)は韓国・産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)傘下の貿易促進・投資誘致などに従事する政府組織で、福岡貿易館は1987年に開設され、九州、沖縄、山口県を管轄している。コロナ禍により日本と韓国の往来が制限されるなか、同公社が行っている日韓企業へのサポートや九州―韓国経済関係、韓国経済・社会のコロナへの対応などについて同館長・許珍原氏に話を聞いた。

コロナ禍の両国経済関係

 ――コロナ禍で業務はどのように変わりましたか。

大韓貿易投資振興公社福岡貿易館 許 珍原 館長
大韓貿易投資振興公社福岡貿易館 許 珍原 館長

 許珍原氏(以下、許) 商談のオンライン化が進むなど、当公社の業務は大きく変わっています。昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大により、両国間の人的往来が制限され、日韓の企業がそれぞれの国を訪問することが難しくなり、また主催または主管している展示会が中止・延期となったことを受け、対面による商談の代わりとして、オンラインによる商談の活用を始めました。

商談会の様子(2019年)
商談会の様子(2019年)

 当初、オンライン商談は未経験という企業が多く、消極的な姿勢を示し、実際の商談にも不慣れな様子でしたが、時間が経つにつれ適応し、浸透しています。福岡貿易館では、昨年800件以上の両国企業のオンライン商談を設定するなど、マッチングに尽力しました。今年もコロナ禍において両国企業の交流を促進するための架け橋としての役割をはたしていく考えです。

 ただ、商談をオンラインでしか行えなくなったことにより、企業の意思決定が遅くなったなどの問題が挙げられます。もっとも、コロナで日本国内の一部の需給が先延ばしとなり、取引が遅くなったことの影響もあります。

 韓国企業の日本進出の動向については、日本のEコマース市場の拡大にともない、韓国のアパレルメーカー、化粧品メーカーがアフターサービスや物流機能を有する支店または法人を積極的に設立しており、ITサービス企業も同様で設立支援を行っていますが、コロナ禍で動きが停滞しています。

 福岡・九州は韓国に近いことから、韓国人人材に対する需要が大きく、総領事館などと提携して学生向け説明会なども行ってきました。とくに高齢化対策やIT需要などを意識して採用を検討している日本企業が増えています。しかし、コロナの影響により、企業側が採用を延期・中止、韓国人側も就職をあきらめるケースもしばしば見られます。

九州―韓国間の貿易・投資

 ――九州―韓国間の貿易について、コロナ以前と比較して変化は見られますか。

 許 実務面において大きな影響が出ています。税関への書類提出が非対面となり、フォワーダー(貨物利用運送事業者)が直接訪問できなくなったため、以前よりも貨物の受け取りなどの手続きに時間がかかるようになっています。

 また、往来の制限により、九州と韓国の近さというメリットが損なわれています。日本企業が韓国企業から購入した機械の故障や、商品に問題がある場合、以前は韓国側の担当者が数時間後には直接商品を持参するなど、手厚いアフターサービスを実行できていましたが、現在はそれができず、地理的近接性を生かせていません。なお、昨年下半期までビジネストラックなどの隔離免除制度が実施されてきましたが、今年から無効になり、ビジネス出張でも到着国において2週間の隔離が必要となったほか、旅客便では福岡―仁川線が週1~2便に減り、福岡―釜山・大邸線が停止しています。なお、EMSなども以前より日数を要するようになっていて、サンプル品のやりとりも同様です。

 輸出額【表1】については、コロナ以前から若干減少しており、大きな変化は見られません。九州から韓国への輸出は、韓国の半導体産業のものづくりを支える半導体装置などの一般機械類が最も多く、続いてプラスチックや有機化合物、ICと電気計測器などの電気機器、鉄鋼材料の順です。反対に九州の韓国からの輸入は、鉄鋼と金属製品が最も多く、続いてプラスチックと有機化合物、自動車部品、魚介類の順です。

 2019年から日本は韓国に対し輸出管理(半導体製造用レジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミドが対象)を行っていますが、韓国では技術の国産化のための開発や海外企業からの投資誘致に積極的に取り組んでいます。このほか、韓国の主力産業である製品製造のための中間部材について、日本からの輸入はコロナ禍においても増加する傾向が見られます。

【表1】九州―韓国の輸出入の動向(万円)
【表1】九州―韓国の輸出入の動向(万円)
※門司税関発表データを基に韓国貿易センター福岡貿易館が作成、提供

 ――コロナ以前と比較して投資の状況に変化は見られますか。

 許 日本の対韓国直接投資(FDI)【表2】は増加傾向にあり、実行ベースで見ると、16年は約8億米ドル、17年は約13億米ドル、18年は約11億米ドル、19年は約12億米ドルであり、20年には5億2,000万米ドルに減りました。21年は緩やかながら回復傾向が見られ、6月末時点で3億3,000万米ドルを記録しています。

 主な投資分野は貿易構造と同様に、世界に輸出している韓国の主力産業に集中しています。韓国が世界シェアトップを占める蓄電池の製造に必要な部材、電気電子部品に使用されるプラスチックフィルムの製造分野に対してはコロナ禍により減少しているものの、投資が着実に行われています。電子製品に必要な合成樹脂、ガス、フォトレジストなどの分野もFDIに占める比率は高いです。東京などが中心になりますが、ソフトバンク、大和証券、野村証券などの金融業界が、韓国のプライベート・ファンド、消費者金融・信託、スタートアップ関連ファンドなどへの投資を増やしていることにも注目しています。

【表2】日本の対韓国直接投資の推移(到着基準) (単位:億米ドル、%)
【表2】日本の対韓国直接投資の推移(到着基準)(単位:億米ドル、%)
※INVEST KOREA発表データを基に韓国貿易センター福岡貿易館が作成、提供
世界韓人経済貿易協会(OKTA) 福岡支部への表彰 (左から)許館長、OKTA副会長
世界韓人経済貿易協会(OKTA) 福岡支部への表彰
(左から)許館長、OKTA副会長

 逆方向の韓国から日本への投資・進出では、韓流ブームの影響もあり、化粧品や食品などの販売・サービス提供を目的とした案件の増加が目立ちます。

 当公社が受ける相談に関しては、衛生・防疫関連商品に関するものが最も多いです。肌ざわりが良く機能性の高いKF94(マスク)、廉価で安全・安心という評価を受けている検温器については多くの問い合わせを受けています。化粧品も問い合わせが増えています。韓流キャラクターとの融合、パッケージの質向上が日本での評価につながったとみています。

 韓国の化粧品企業も、日本市場においてニーズが大きいと注目しています。化粧品販売の許認可を得るため、進出形態としては、早く販売できるよう、独自で現地法人を設立するよりも福岡の企業との代理店契約によるものが主流です。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
許 珍原
(ホ・ジンウォン)
1967年生まれ。大韓貿易投資振興公社入社後、オマーン、フィリピン、リビア勤務などを経て、2019年福岡貿易館館長に就任。

(後)

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