2024年11月23日( 土 )

米中対立が深刻化 最悪のシナリオを避ける方策は?(後)

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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

 米国と中国では貧富の格差が広がる一方だ。米中の対立は、国民の不満を「外敵」へ向けさせるという常套手段なのか。台湾を舞台とした危険な駆け引きは、一歩間違えれば核戦争を引き起こしかねない。

拡大する貧富の格差

台湾 台湾海峡 イメージ アフガニスタンとは比べ物にならないほど、「台湾海峡問題」は日本の目前に迫りくる危機である。菅総理も岸防衛大臣も「台湾有事は日本有事だ」と発言し、アメリカと一体化した防衛戦略を打ち出している。しかし、どこまでアメリカの真意を把握しているのか、大いに疑問である。日本にとってアメリカは最大の同盟国。とはいえ、日本にとって最大の通商貿易相手国は中国である。我々は日本の命運を左右しかねないアメリカや中国の実態や本音をどこまで理解しているのだろうか。

 まず、知るべきはアメリカの国内経済が破綻の極みに追い込まれている事実である。このままではアメリカ社会そのものが崩壊する恐れすら現実のものとなるだろう。富める国民と貧しい国民の格差は拡大する一方で、社会の分断は深まるばかりである。

 1902年に出版された『帝国主義論』は英国の批評家ホブソンの名作といわれる。彼は19世紀後半に欧州を飲み込んだ帝国主義の嵐の元凶は、欧州の主要諸国における貧富の格差拡大に見出せるとの分析を明らかにした。当時は産業革命の初期であったが、富裕層は新たな技術を駆使し、労働者階級の搾取に邁進したわけだ。その結果、一般消費者は貧しい生活を余儀なくされ、国内経済の発展はストップする。状況を打開するため、海外に新たな市場を求めることになり、それが帝国主義的な戦争に結び付いたのである。

 実は、それと似た状況が今日のアメリカにも中国にも見られる。アメリカでは国内の経済格差が拡大し、少し前までは「1%の富裕層と99%の貧困層」と揶揄されていたが、今では「0.1%の超富裕層と99.9%の一般国民」といわれるまでに状況は悪化している。

 シリコンバレーやウォールストリートを牛耳る一部のエリート層は我が世の春を謳歌している。また、新型コロナによって「ワクチン大富豪」が続々と誕生し、在宅勤務やロックダウンが広がったため、アマゾンなどのデリバリー需要が急拡大中である。アマゾンの社長は世界最大の資産家の地位を確保している。

 しかし、大多数のアメリカ人は教育の機会も奪われ、失業者が溢れるような「ラストベルト」が各地に出現。最も深刻な問題は、アメリカが直面する増え続けるばかりの負債である。30兆ドルを超える赤字は国家財政の破綻を意味する。

 そうしたアメリカの赤字国債を買い支えているのが日本と中国である。ただ、日中の立ち位置は対照的で、日本は「アメリカへの忠誠心を示すために買い支えている」のだが、中国は「アメリカの弱点を突く武器にするために買い増している」に過ぎない。

 アメリカは致命的な財政的弱点を抱えているにもかかわらず、国防予算を増加させるばかりである。バイデン政権下では過去最大の軍事予算を承認した。これでは経済格差も縮まらない。そうした財政問題から国民の目を反らせるために、外に敵を設けては「自由と民主主義を守る」という大義名分で戦争ビジネスに走ってきたのが歴代のアメリカ政権であり、バイデン大統領も「同じ穴の狢(むじな)」になりつつあるわけだ。

同じ病に罹った米中

 絶対的な貧困を撲滅したと宣言する中国共産党であるが、その裏側ではアメリカ以上に貧富の格差が広がっている。こうした格差社会を放置したままでは、社会不安や政権批判の芽が膨れることになりかねない。最近、アリババのジャック・マー創業社長の言動がおかしいとの指摘が相次いでいるが、超富裕層に対する政府の締め付けの影響と思われる。

 アメリカでも中国でも前例がないほどの貧富の格差が国内で広がっているのである。このまま推移すれば、大多数の国民の不満や怒りは抑えが効かなくなるだろう。デモやテロなど破壊的な行動が社会不安を一層拡散させることになる。そうした状況を回避するために、為政者が「外に敵を見出し、戦争という非常事態に持ち込む」という道を選ぶことは歴史が証明している。

 残念ながら、同じ病に取りつかれている今日のアメリカと中国は、国民の関心を外に向けることを狙った「言葉のミサイル」の応酬に忙しい限りである。しかし、いつ現実の戦争に発展するかは予断を許さない。台湾有事はまかり間違えれば、人類最後の日となるかもしれない。なぜなら、核ミサイルの応酬に発展する可能性も秘めているからだ。

 そこに至らなくとも、南シナ海から東シナ海へのシーレーンは世界貿易の40%を超える海上輸送路である。この海上航路が遮断されれば、中国のみならず日本や韓国の経済は即死状態にならざるを得ない。

 その現実を肝に銘じる必要があるだろう。アメリカも中国も戦争という非生産的な手段に空前絶後の税金を投入するのではなく、国内の貧富の格差を是正する方向に国家予算を振り向ける時期である。日本はこれまでアメリカのいうままに、「キャッシュディスペンサー」の役割を担ってきた。一刻も早く、より健全な目的、すなわち地球温暖化対策や新エネルギー開発、コロナ感染症対策などの健康医療分野への資金や人材の投入を優先すべきである。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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