2024年12月23日( 月 )

不透明感を増すアフガニスタンの行方

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年8月20日付の記事を紹介する。

   ロシアからの報道によれば、アフガニスタンのガニ大統領は迫りくるタリバンに恐れをなしてか、首都カブールから家族や側近とともに1憶6,900万ドルの現金をもってアラブ首長国連邦(UAE)に脱出してしまった。国家の最高指導者が敵前逃亡したのである。アフガニスタン政府はインターポールを通じて、ガニ大統領の逮捕を要請している。

 とはいえ、受け入れたUAEは「人道的観点から保護している」との立場を崩していない。アフガンへの影響力を求めてきたロシアのプーチン大統領は、「ガニ大統領は現金を持ち逃げする可能性が高いので、要注意だ」と、今回警告を発していたが、誰も止めることはできなかった。

 思い起こせば、2001年から21年までの20年におよぶアメリカ政府やNATO軍の支援があったにも係わらず、アフガニスタンの経済再生は思うような成果を上げることができなかった。確かに、アメリカ政府は「アフガンのために2.3兆ドルもの資金を投入した」という。しかし、その大半は国防総省の軍事予算であり、残りは国務省の経費として露と消えてしまったというわけだ。

 アフガニスタンの国民生活は期待されたほどの改善は見られず、国民の不満は高まる一方で、「アメリカの傀儡政権よりタリバンのほうがましだ」という雰囲気が蔓延していた。さまざまな要因が指摘されているが、政府崩壊の最大の原因はアフガニスタンの国民感情を理解しないまま、「テロとの戦い」と称して、「9.11テロ」以降、アフガンへの軍事介入を続けてきたアメリカの「軍需産業優先」政策に見出せるだろう。「お金をつぎ込めば、治安を回復できる」と高を括ったようだが、そのお金は一部の為政者を潤わせただけだった。

 しかも、アメリカ軍は890億ドルを投入し、「アフガニスタンの政府軍30万人の兵士を養成した」と宣伝してきたが、わずか7万人のタリバン兵に蹴散らされた挙句、戦う前に敵前逃亡する有り様だった。8月15日、首都カブールがタリバンに奪還された際にも、アフガンの政府軍はタリバンに対して1発も撃ち返すことはなかった。それどころか、政府軍の幹部らはアメリカの武器や弾薬をタリバンに横流して、私腹を肥やしてきたのである。

 要は、「お金で国民の意思を買うことはできない」ということだ。アフガニスタンの兵士や警察官の間では「自国を自力で再生させる」意思も気概も育っていなかったのである。アフガンの兵士や警察官はタリバンが近づいてくるとわかると、制服を脱いで、自宅に逃げ帰るという体たらくであった。これでは勝敗は戦う前から決していたと言っても過言ではない。

地球儀 アフガニスタン イメージ 実は、アフガニスタンは石油、天然ガスやレアメタルなど地下資源が豊富であり、日本企業も開発には前向きであった。ところが、アメリカ政府はテロとの戦いに拘り、日本の商社や石油会社を排除し続けた。当時の小泉首相はブッシュ大統領からの要請を受け、2兆円を超える復興支援金をアメリカに貢いできたにも係わらずである。

 さらに始末が悪いのは、アメリカ軍とアフガン政府はタリバンと裏で手を結び、麻薬ビジネスに手を染めていた。筆者は以前、15カ国での取材を基に、『アフガン暗黒回廊』(講談社)を出版し、そうした「アメリカの戦争ビジネスの闇」を明らかにした。

 今回のガニ大統領の国外脱出劇を見ていると、46年前の「サイゴン陥落」を思い出さざるを得ない。当時も南ベトナムの最高指導者グエン・バン・チュウは北ベトナムの攻撃でサイゴンが陥落すると見るや、7,300万ドル相当の金塊をもってアメリカに亡命したものである。受け入れたアメリカはボストン郊外の高級住宅をあてがい、終生、破格の待遇で庇護のもとに置いていた。

 今回のガニ大統領も初代のカルザイ大統領の下で外務大臣を務めていた。その当時から、アメリカのみならず日本を含む国際社会からの復興資金をすべて管理する立場にあった。そうした立場を利用して、海外からの支援金を国内の利権確保のためのワイロに使ったことが判明している。

 最も深刻な犯罪行為は大統領に就任した後、カブール銀行から10億ドル近い現金を詐取したことである。その片棒を担いだ仲間は15年の懲役刑を宣告されたが、ガニ大統領は無罪放免されている。こうした大統領自らが汚職、公金横領に血眼になっていたわけで、アフガニスタンは政府の腐敗が深刻で、「汚職指数」では「世界ワースト20」にランクインしているほどだ。

 とはいえ、こうした腐敗の元凶をつくってきたのは歴代のアメリカ政府による「金権支援体質」であったことは否定できない。残念ながら、日本政府も日本企業もアメリカに「地下資源利権」というエサをぶら下げられ、見事に食いついたわけだった。しかし、資源開発プロジェクトは空手形で終わってしまい、アメリカの石油大手ユノカルなどが売り込んできたパイプライン計画などもすべて絵に描いた餅のままである。

 そして、今日のタリバンによる首都奪還という緊急事態に直面しながら、肝心のアメリカではバイデン大統領とトランプ前大統領が「カブール陥落」の責任をめぐって非難合戦に忙しい。これではまったく頼りにならない。バイデン大統領曰く「アフガンのことはアフガン人に任せたい。アメリカ軍は予定通りに撤退する」。アメリカがここまで事態を悪化させてきたという認識も責任感もなさそうだ。これでは、アフガニスタンの未来は漂流し、多くの難民が溢れ、テロの温床が拡大することになるだろう。


著者:浜田和幸
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