2024年12月22日( 日 )

小売こぼれ話(4)神さまのクレーム(後)

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お客のいうことは正しい

 店頭に掲げられた石板に刻まれている言葉で有名なスチューレオナルドという店がアメリカ東海岸にある。

「ルール1 お客さまは正しい」
「ルール2 もし、お客さまが間違っていると思ったらもう一度ルール1を読め」

 一昔前のことだが、そのスチューレオナルドで店内写真を撮っていたところ、従業員から厳しい口調で遮られた。彼は数人連れの私たちに「ツアーだろう?写真はだめだ」と言ってきたのだ。たまたま事前に買い物をしていたので、その袋を見せて私は客だと言った。それでも彼はだめだという。「それでは表の言葉は嘘か」とダメもとで入り口を指さして言ってみた。すると不満顔ながら彼はすごすごと引き下がった。プレートの威力は偉大だった。

スーパーマーケット イメージ 午後8時過ぎ、ある店でクレームの電話が鳴った。夕方に買った白菜漬けの味がおかしいというのだ。自宅にうかがい、試しにその商品を食べさせてもらった。味はおかしくない。しかし、ここで普通の味だといってはいけない。なぜなら、お客がおかしいといっているからだ。

 この場合の問題は正誤ではない。ここで言うべきは、「少しおかしい」というお客のクレームを肯定する言葉だ。そのうえで、代替えにもってきた同じ白菜漬けを試食してもらう。反応は当然のことながら、これは大丈夫だということになる。その返事をもらったところで、お詫びの印として別途持参したキムチを差し出す。

 こんなケースでは返金すべきである。そうすれば、たいていのお客は恐縮しながら納得してくれる。店とすれば3点の商品の価格分を損するが、大した額ではない。そうすることでお客は従来通り店にきてくれる。もし、悪くないものは悪くないとお客に商品の正当性を主張すればクレームが解決しないだけでなく、そのお客が使ってくれるだろう年間数十万円の売上を失うことにもなりかねない。

 同じ商品なのに評価が分かれる例は少なくない。いろいろな事情からそうなるのだろうが、それぞれの評価はいずれも正しい。なぜなら、お客がそう思うからである。

 この場合、やってはいけないことはクレームを否定すること。お客の主張を否定したところで、二次クレームという解決しがたい状況に陥るだけである。やるべきは素直にそれを認めること。認めたうえで、どのような対応で納得してもらうかだ。

 お客のクレームを認めた時点で、そのクレームは九分九厘解決したのも同然だ。こじれて長引くクレームは、お客の言い分を認めないで優柔不断な態度をとることによって生まれる。そうなると、お客は振り上げたこぶしの降ろしようがなくなる。クレームはこじれにこじれて、挙句の果てにお客は2度と店で買い物をしなくなる。数百円の商品クレームが数十万円の売上を失うことにつながる。

商売の原点

 前述のスチューレオナルドのルールが生まれたのは、創業者夫婦のやり取りからだという。創業時、店で買い物をした老婦人からクレームが付いた。感謝祭用に買った七面鳥が黒焦げになったというのだ。その理由が七面鳥の品質にあるという。

 店主は「とんでもない。うちの七面鳥に問題があるはずがない。あなたの焼き方が悪かったのだ」と老婦人と言い争いになった。そこに割って入ったのが店主の奥さんである。彼女は老婦人の言い分を認め、新しい七面鳥を手渡した。

 理不尽なクレームに憤る店主に夫人がいったのは、わずか数十ドルの商品のために、彼女が当店で使ってくれるだろう数千ドルを捨てるのかという内容だった。商売の原点をこの逸話は示している。「お客さまは正しい」という原則はおそらく今後も続く。お客さまが神さまである限り。

(了)

【神戸 彲】

(4)-(前)
(5)-(前)

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