2024年12月23日( 月 )

ストラテジーブレティン(286号)テーパリングの先に見える長期趨勢(1)(前)40年間の金利低下トレンドの終焉と米国株リスク~

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年8月26日付の記事を紹介。

テーパリングは金融市場に何を惹き起こすか???

 年内のFRB(連邦準備制度理事会)のテーパリング(資産買い入れの圧縮)がいよいよ射程に入ってきた。しかし、それがどのように市場見通しに結び付くのか、見当がつかない。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニスト、J・マッキントッシュ氏は、“What we still don’t know about the Fed’s bond buying spree?”(2021年8月23日付、和訳:FRBの債権買い入れに関してまだわからないこと) において、(1) テーパリングは金利上昇要因か否か? (2)金利上昇は株高要因か否か? (3) 長期的株価と金利の関係は変わったのか否か? どれも本質的疑問だが、まったく解釈ができない、と述べている。

図表1/図表2

(1) テーパリング(資産購入の減少)は金利上昇要因か否か?

 常識的には金利上昇要因であろう。しかし2021年2~3月からテーパリング懸念が台頭し、7月のFOMC(連邦公開市場委員会)では年内開始の意見が大勢になった。にもかかわらず、長期金利はここ5カ月間低下した。常識とは逆の動きである。金利低下はテーパリングが景気減速を惹き起こすことを先読みしているのだろうか?しかしこの間の米国株価か史上最高値を更新し続けていることを見ると、そのようには解釈できない。

(2) 金利上昇は株高要因か否か?

 常識的には株安要因。しかし20年8月以降21年2月までは金利上昇と株高が進行した。他方21年3月以降は金利低下と株高が進行、と相反する動きが展開された。セクター別の反応の違いも無視できない。金利上昇が景気拡大予想によりもたらされたと考えれば、景気敏感のバリュー株が上昇する。他方金利上昇は将来収益を現在価値に還元する割引率の上昇を意味するので、将来収益が大きなグロース株にはマイナスに働く、と考えられる。確かに今年5~7月の長期金利急低下局面(1.69%から1.17%へ)では、バリュー株の代表であるダウ輸送株指数は10%下落し、グロース株の代表であるナスダック指数は12%上昇している。つまりバリュー株とグロース株で金利に対する反応は相反している。しかし、そうした関係も時間帯で変化しており、必ずしも一般化はできない。

目先は潤沢な投資資金、高投機性によるランダムウォーク

 このように目先の市場は論理的解釈が困難であるが、それはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)や論理ではなく需給で動いているからであろう。今のウォール街は潤沢な投資資金と高まる投機熱で染め上げられ、もっぱら需給により左右されている。まるで酔っぱらいの足取りのようなランダムウォーク()の世界にある、と考える方がすっきりする。市場の短期的動きを合理性や法則で解釈することは、もともと無理なのではないか。

 しかし1年以上の長期を展望すれば、大きな趨勢の変化はほぼ見えている。第一にコロナパンデミックは終息に向かい、経済へのダメージは顕著に減衰していくだろう。第二に景気回復と財政金融一体緩和が資金需要増加と貯蓄余剰の減少をもたらし、テーパリングも加わって長期金利は上昇していくだろう。10年国債利回りは22年には、コロナ前19年の2.5~3%に容易に戻るだろう。その後さらに金利が上昇することはないとしても、金利上昇のリスクに市場が敏感になる可能性は十分に考えられる。

(つづく)

※:株価の動きが予測できず、過去の動きとは一切関係がないとする考え方。 ^

(1)-(後)

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