2024年11月22日( 金 )

自然災害の発生と被災した九州の鉄道の復旧(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

台風14号による集中豪雨で高千穂鉄道が廃止

旧高千穂鉄道 高千穂駅 イメージ 鉄道事業者にとって、自然災害による被害は、会社の存続に関わる重要な出来事になる。少し古い事例を挙げると、2005年9月の台風14号による集中豪雨により、橋梁や路盤が流失した高千穂鉄道は、復旧に要する費用が莫大であったため、復旧することなく廃止された。

 この当時も、鉄道が被災した際には、鉄軌道整備法により、国や地方自治体などから、復旧に要する費用に補助が実施されていた。

 しかし国からの補助率が1/4であり、各自治体からの補助率が1/4であったことから、災害の規模が大きくなれば、復旧に要する費用も莫大となる。復旧費の半分は、鉄道事業者が負担しなければならず、経営基盤の脆弱な地方民鉄や第三セクター鉄道では、鉄道の存続を断念せざるを得なくなる。

三陸鉄道の東日本大震災による被害の復旧

 その後、11年3月11日に東日本大震災というマグニチュード9の巨大な地震が発生した。それにともなう津波などにより、JR東日本の路線だけでなく、第三セクター鉄道の三陸鉄道も、180億円という甚大な被害を受けた。

 従来の鉄軌道整備法による補助では、国からの補助率が1/4であり、地方自治体からの補助率が1/4であるから、90億円は三陸鉄道が負担しなければならない。三陸鉄道は、国鉄の赤字ローカル線であった盛線、久慈線、宮古線から転換された第三セクター鉄道である。

 当初は、国鉄から転換された最初の第三セクター鉄道である上、風光明媚な海岸線の魅力もあることから、多くの観光客が押し掛けた。また当時は、金利も高かったことから転換交付金の運用益で、損失を補てんすることが可能であった。

 しかしバブル崩壊後は、不況以降に高校を卒業する第二次ベビーブーマー世代が減少したこともあり、赤字経営に陥ってしまう。そして転換交付金を取り崩してしまったことから、09年に地域公共交通・活性化再生事業費補助を国に申請した。沿線自治体が、鉄道用地とトンネル・橋梁を所有し、三陸鉄道へ無償で貸し付けるかたちで上下分離経営が実現している。この場合、線路の維持管理は三陸鉄道が実施しているため、三陸鉄道が第一種鉄道事業者となる。

 そのように公的支援を受けながら存続していた鉄道が、東日本大震災で180億円の損害を受けた。JR東日本の大船渡線や気仙沼線も、津波などで甚大な被害を受けたが、JR東日本は「黒字の鉄道事業者である」という理由から、国からの補助金が1/4に据え置かれた。結果として、鉄道として復旧させるのではなく、BRT化()する道を選ばざるを得なくなった。それゆえ三陸鉄道の復旧は、絶望的と見られていたが、幸か不幸か当時は、民主党政権であった。

 民主党政権は、三陸鉄道を復旧させたく、国から支給される補助金の補助率を1/2に引き上げた。そして残りの半分は、岩手県と各自治体が1/4ずつを負担することになったが、これに対しては特別交付税を充てることにした。また車両も被災していたため、クエートからの援助により、三陸鉄道は鉄道として復旧させることが可能となった。

 三陸鉄道の復旧により、三陸地方が公共交通空白地域になることが回避されただけでなく、復旧のシンボルとして、地域住民に希望を与えることに繋がった。

「交通政策基本法」が成立

 その後は、14年に「交通政策基本法」が成立し、理念法ではあるが、従来の法律よりも格上の法律となり、公共交通を重視する姿勢が鮮明となる。そして17年には、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」という制度が設けられた。

 この制度では、鉄軌道整備法の補助率が、国が1/4であり、地方自治体が1/4であったところを、国からの補助率が1/2に引き上げられ、地方自治体からの補助率が1/2に引き上げられた。それにより鉄道事業者の負担がなくなった。

 それゆえ鉄軌道整備法に基づく災害復旧の補助と比較すれば、大幅に向上したといえる。この制度が確立した後、20年7月に集中豪雨により球磨川が氾濫したことで、JR九州の肥薩線だけでなく、第三セクター鉄道のくま川鉄道も、全線で運転を見合わせる被害が発生した。そこで「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」を適用して、くま川鉄道を復旧させることになった。

 しかし、この制度が適用されるには、さまざまな条件をクリアする必要がある。まずは、災害を受けた鉄道事業者が、過去3年間の経営が赤字であり、かつ当該路線の年間収入以上の損害を出していなければならない。そして再生協議会を設けたうえで、上下分離経営を実施するなどの施策が必要である。

 JR九州は、鉄道事業が赤字であっても、不動産事業の利益で鉄道事業の損失を内部補助することが可能であることから、肥薩線が被災したとしても、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」は、適用されない。

 これがJR北海道の路線が被災したならば、JR北海道は完全に赤字経営であることから、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」が適用される。

 くま川鉄道の場合、熊本県と関係する10の市町村で、「くま川鉄道再生協議会」を創設している。

(つづく)

※:連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーンなどを組み合わせることで、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステム(国交省「BRT導入促進に向けて」)にすること。 ^

(後)

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