岸田氏が総裁選出馬で会見、「政治とカネ」に斬り込む“戦闘力”欠如を露呈
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菅義偉首相が全面支援した小此木八郎・前国家公安委員長が「横浜市長選」(8月22日投開票)で敗北した4日後の8月26日、岸田文雄・元政調会長が総裁選への出馬表明会見を開いた。「菅首相では選挙は戦えない」という声が党内で広がったことを受けて、いち早く“菅降ろし”に名乗りを上げたのだ。
県連会長として陣頭指揮を取った「広島参院再選挙」(4月25日投開票)で自公支援候補が保守王国でまさかの敗北を喫し、菅首相と同様に「選挙に弱い」という烙印を押された岸田氏だが、今回の出馬表明については大手メディアが好意的に取り上げた。
目玉政策として掲げた党役員任期厳守も「二階幹事長交代宣言」として紹介され、優柔不断なイメージから「戦う政治家」へと変身したかのような印象を与えることに成功した。この時点では、不人気な菅首相との一騎打ちの構図となり、岸田氏を一気に本命に浮上させようとする称賛報道がワイドショーなどで溢れ始めた。
しかし、出馬会見で河井事件について質問した私の実感は、岸田氏の戦闘力不足は以前と変わらず、安倍晋三前首相への配慮(忖度)が目に付くだけだった。最大派閥・細田派を実質的に率いる安倍氏に媚を売って、総裁選で支援してもらおうという魂胆が透けて見えた。
私の前に質問した中国新聞の記者と岸田氏との質疑応答を受けて、私は次のように問いただした。
――先ほどの河井買収事件の確認だが、菅政権の真相解明、説明が不足しているから岸田さんが総裁・総理になった場合には、もっと徹底的に調査すると。(自民党総裁でもあった)安倍前総理の関与や1億5,000万円の闇にもメスを入れると理解していいのか。今日の週刊文春の報道で、菅総理に対する1,000万円献金要請疑惑の記事が出て、“影の市長”とも呼ばれている菅さんの側近といわれている平原副市長が、横浜カジノ業者に1,000万円の(献金)要請をしたという、しかも接待を受けたという内容だが、この受け止めと、同じように徹底調査をするのか。
岸田文雄氏(以下、岸田) まず1点目は、その「1億5,000万円の闇」という言葉を使われたが、1億5,000万円のポイントは先ほど申し上げた通りです。党から1億5,000万円出たことは法律に何も反していません。あえていえば、(1,500万円だった溝手氏との)不公平という問題はあるが、これは法律に反しているわけではなくて、それが大型買収事件の原資として使われていないことを確認することが大事だというのが、この問題のポイントだと思っています。
そして、先ほど申し上げた(捜査関連の)書類が返ってきた。今(真相解明の)作業が進められているわけだから、ぜひ、これはしっかりと進めなければならない。そして、「政治とカネの問題について国民に説明をし、透明感を高める」と申し上げたのは広島の事件だけではなくて、ほかの地域においてもいろいろな事件があるので、しっかり必要な説明責任ははたすことが大事だということを申し上げた。
2点目の献金の話、週刊誌の中身、まだ全然読んでいないから何とも判断のしようがない。
――(自民党本部から出した)1億5,000万円が買収に使われていた可能性は考えていないのか。
岸田 それがないことをしっかりと証明していくことが大事だということで、党の執行部に「ぜひ早く書類が返ってきたら、説明してくれ」という要望を広島県連からしているということだ。
――(「買収資金に使われなかった」という)シロを前提に話しているが、買収資金として使われていたクロの可能性もあるのではないか。
岸田 資料に基づいてしっかりと説明することが大事だと思っている。
さらに再質問をしようとしたが、ここで司会者が質疑応答を打ち切ったため、会見を終えたばかりの岸田氏を直撃、質問を続けた。自民党総裁だった安倍前首相が出した1憶5,000万円が買収資金に使われていなかったと決めつけているような説明に違和感を覚えたからだ。
――(前首相の)安倍さんへの配慮か。1億5,000万円の闇、(買収資金に使われたという)クロの可能性は十分あるのではないか。
岸田 いやいや、言った通りです。(買収資金に使われていなかったことを)しっかりと証明してもらいたいと思っている。
――(政治とカネの問題を徹底追及の)石破さんと同じように見られると(総裁選の勝利が)厳しいから(批判を)控えているのではないか。
岸田氏は無言のまま立ち去った。
そもそも参院選広島選挙区(定数2)が舞台となった河井買収事件は、安倍前首相への批判的言動で恨みを買ったとされる岸田派重鎮の溝手顕正・元参院議員を落選させるべく、新人候補の河井安里・元参院議員候補に1億5,000万円(溝手氏の1,500万円の10倍)を提供、その一部が買収資金として使われたのではないかと疑われている事件である。
当時の安倍首相(自民党総裁)の私怨が発端で、溝手氏の政治生命を断つために刺客が送り込まれたという構図になっていた。溝手氏に比べて10倍も潤沢な資金が買収に使われていないはずがないと考えるのが普通なのに、岸田氏は「大型買収事件の原資として使われていないことを確認」という真逆の捉え方をしていた。これは、「安倍前首相の責任が問われないように配慮している」と見られても仕方がないだろう。
広島の市民団体「河井疑惑をただす会」の山根岩男事務局長にも、岸田氏の発言について聞いてみた。
「河井買収事件では、『安倍、菅、二階ら当時の三役と正面から対決してでも』とは考えていないように思われます。1億5,000万円で一番肝心なのは、誰が、何の目的で、どのように決めたのか、です。岸田氏が1億5,000万円は『合法』というところは、絶対に国民の理解が得られないと思う。1億5,000万円がなければ、2,871万円を買収資金に回す余裕もないはずだ。金には色はついていない。どのように使われたかはいくらでも操作できる。私たちは近々、自民党本部に対して1億5,000万円についての公開質問をするつもりだ」。
私と同じような岸田氏への違和感は、地元広島の市民団体関係者も抱いていた。「政治とカネ」の本質に斬り込む“戦闘力”は、岸田氏には依然として欠如したままとしか見えない。大手メデイアが垂れ流し始めた“岸田氏変身説”は、見掛け倒しで実態がともなっていないともいえる。昨年秋に菅首相を「叩き上げ」「苦労人」と持ち上げた大手メデイアが今度は、代わり映えのしない岸田氏に乗り換えて菅降ろしの流れをつくり出そうとしているのだ。自民党総裁選をめぐる報道には、十分注意することが必要だ。
【ジャーナリスト/横田 一】
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