ストラテジーブレティン(287号)テーパリングの先に見える長期趨勢(2)米国株式資本主義の軌道修正と日本株劣位の終わり(後)
-
NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2021年8月30日付の記事を紹介。米国企業の高レバレッジがもたらした高株式バリュエーション
このレバレッジを高め、最大の株主利益である株価上昇を実現するという、株価本位の財務戦略は、米国企業にことさら強いものである。図表5は米国、日本、欧州企業の負債資本倍率(D/Eレシオ)であるが、米国企業のレバレッジ化が大きく進行してきたことがわかる。
配当・自社株買いによる利益還元→ROE上昇(1株あたりの利益増)と需給改善による株高→市場価格ベースの自己資本(株式時価総額)増加→市場価格(株式時価総額)ベースの債務負担能力向上→債務増加という連鎖が、米国においてはとくに強く定着してきたのである。
このように重要な役割をはたしてきた米国企業の財務バランス悪化をともなう株価本位財務政策、米国企業の高レバレッジ体質は、今後予想される金利上昇局面における企業収益の耐久力によって試されることになる。上述の自社株買いを起点とした株価上昇の好循環が減衰し、時には逆転する可能性も排除できない。注意深い観察が求められる時代に入っていく。
2022年、米金利上昇、ドル高、日本株優位の時代の可能性も
米国金利上昇は米国企業の財務戦略転換(レバレッジ化からデレバレッジ化へ)を引き起こすのだろうか。とすれば、その影響は株価にもおよび得る。債務の抑制→自社株買いの抑制などが起きないかどうか、注視すべきである。
それは株価本位の米国企業の財務政策がもたらした、米国の突出した株式バリュエーションの修正を意味する可能性もある。株式バリュエーションを日米で比較すると、株式時価総額対GDP比率は米国268%、日本133%(図表6参照)、PBRは米国4.59倍、日本1.23倍(図表7参照)と極端に開いている。
図表8によりTOPIX/S&P500倍率の歴史的推移を見ると、1990年の日本株バブル時に9倍を付けて以降、一貫して低下し、現在過去最低の0.5倍となっているが、その過程は米国長期金利の低下(米国企業の高レバレッジ化)とほぼ一致している。
長期金利の低下局面で米国株式はレバレッジを高めることで日本株式を凌駕し続けたのである。その結果が上述のような日米株式バリュエーション格差であったとすれば、金利趨勢の転換は日米株式バリュエーション格差の是正に結びつくのではないだろうか。
長期にわたる日本株劣位はそろそろ終焉する時期にきている、といえるかもしれない。金利の長期趨勢の転換は、米国企業と好対照な世界で最もレバレッジの低い日本企業と日本株式に有利に働くのではないか。また米国金利上昇はドル高・円安を促進するとみられ、日本株式にはダブルの追い風となりそうである。2021年2月から8月まで続いてきた日本株式のパフォーマンス劣位は、22年にかけて大きく是正されていくかもしれない。
(つづく)
関連キーワード
関連記事
2024年12月20日 09:452024年12月19日 13:002024年12月16日 13:002024年12月4日 12:302024年11月27日 11:302024年11月26日 15:302024年12月13日 18:30
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す