【コロナで明暗企業(13)】ワタミ創業者・渡邉氏の社長復帰、息子への事業承継の布石か!?(前)
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「ワタミの渡邉美樹会長が2009年以来の社長復帰」。新聞・テレビが一斉に報じた。渡邉氏はかつて「ブラック企業」の批判を浴び、「ワタミには1,000%戻らない」と公言していたが、19年に会長に復帰。10月1日からは会長兼社長として前線の指揮を執るという。その狙いは何か。「息子への事業承継」の意図が透けて見える。
「創業者は生涯創業者」と復帰の理由を語る
「『焼肉の和民』や『ワタミの宅食』など8つの営業系の事業本部長を、実質のCOO(最高執行責任者)と位置づけ、意思決定権を大幅に拡大させスピード経営を実現することが狙いだ」、「私は、40代のころには50歳で引退すると言い続けてきた。企業を第2、第3の成長段階に入れ、100年企業の礎を築いてもらいたいと思っていたが、間違いだと気付いた。創業者は生涯創業者であり、ゼロからつくった会社を誰よりも理解し、愛している。とくにこのコロナ危機においては、いちばん気力のある人が担うべきだ」。
渡邉氏は『夕刊フジ』で「経営者目線」というコラムを連載している。8月28日に「ワタミ『ワクチン接種済バッジ』で接客 12年ぶり『社長復帰』の理由」を掲載した。変異株が猛威を振るい、コロナは想定された以上に長引いている。経営は緊急事態だとして、経営復帰の理由をこう綴った。
コロナ禍で外食と宅食の売上が逆転
ワタミ(株)の2021年3月期連結決算は、売上高が前期比33.1%減の608億円、営業損益が97億円の赤字(前期は9,200万円の黒字)、最終損益が115億円の赤字(同29億円の赤字)だった。
居酒屋「ミライザカ」「三代目 鳥メロ」など国内外食事業が、前期比で6割を超える記録的な減収となった。新型コロナウイルスの影響で、一時休業や営業時間の短縮を強いられたことが響いた。一方で、外出自粛により、弁当を届ける宅食事業は増収増益となった。
売上高構成は外食事業がこれまで5割以上を占めていたが、売上激減の結果、弁当や総菜、ミールキット(食材セット)を自宅などに配達する宅食事業のウェートが約6割に達し、外食事業を逆転した。現在、ワタミを支えているのは宅食事業だ。
「から揚げの天才」を軸にFC展開
ワタミの経営に復帰した渡邉氏はコロナ禍にどう立ち向かおうとしているのか。夜の営業が中心の居酒屋は、ハンバーガーなどほかの外食と比べて客の戻りが鈍い。
渡邉氏は、ポストコロナ時代の居酒屋は7割程度まで縮小すると予測している。今後は家族や女性が利用しやすい業態開発を進める。
その1つが「から揚げの天才」。揚げたてのから揚げと、実家が東京築地で卵焼き屋さんを営んでいるテレビタレントのテリー伊藤氏のノウハウを掛け合わせて誕生した業態。18年11月、大田区梅屋敷に1号店がオープン。19年4月には、(一社)日本唐揚協会が実施した全国の唐揚げ店人気投票企画「第10回からあげグランプリ」(東日本しょうゆダレ部門)で金賞を受賞した。
テイクアウト・デリバリーを主体とする「から揚げの天才」を軸にフランチャイズ(FC)出店を加速する。21年3月期末には92店だったが、22年3月期に200店の出店を計画している。現在は、から揚げがブームで多くの外食企業が参入しており、かつてのタピオカブームの二の舞になる恐れも否定できない。
韓国の人気フライドチキンチェーン「bb.qオリーブチキンカフェ」の日本国内の運営はワタミが行っている。20年に韓国ドラマ『愛の不時着』がNetflixで放送され、「bb.qオリーブチキンカフェ」がドラマに登場すると、日本でもブームになった。21年3月期末に6店だったが、22年3月期には80店を出店する計画だ。
「焼肉」に業態を転換
もう1本の柱が「焼肉の和民」だ。ワタミは20年10月5日、居酒屋全店の3割強にあたる約120店を新業態「焼肉の和民」に転換すると発表した。かつての主力業態だった「和民」も全店が対象で、1号店を大鳥居駅前(東京都大田区)にオープンした。「三代目 鳥メロ」や「ミライザカ」といった主力の居酒屋約330店のうち約120店を「焼肉の和民」に切り替える。
ワタミは昨年6月、焼肉食べ放題の新業態「かみむら牧場」の第1号店「京急蒲田第一京浜側道店」を大田区南蒲田に出店した。ワタミが(株)カミチクホールディングス(鹿児島市、上村昌志会長、非上場)と設立した合弁会社ワタミカミチク(株)が「かみむら牧場」の運営にあたる。こちらはロードサイド店の位置づけ。居酒屋業態で出店してきた駅近での展開となる「焼肉の和民」とは異なる。
22年3月期には「かみむら牧場」37店、「焼肉の和民」32店を出店する。居酒屋からの業態転換は120店舗としているが、全店で業態転換が完了した後はFC展開し、5年間で400店舗を目指す。
ワタミ会長兼グループCEOの渡邉氏は、「焼肉業態の売上は外食産業全体の売上平均を上回っている。焼肉業態はアフターコロナ時代の外食産業の中心になる」と言明。「売上目標はコロナ発生前の前年比150%」と、強気の数字を掲げた。
今後回復しても店舗の客足は7割程度しか戻らないとみて、新業態への転換を決断した。かつて「居酒屋新御三家」と称された居酒屋「和民」のブランドは消える。
(つづく)
【森村 和男】
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