コロナを経たこれからの建築的考察 「復興されるべき新しい都市」とは―(前)
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建築家 有馬 裕之 氏
消滅可能性から持続可能性へ
世間では「コロナ前」や「コロナ後」というような言われ方をしますが、我々建築家の立場から見ても、世界の在り方というか、考え方のスキームが、コロナをきっかけとしてガラッと変わってきていることを感じます。そこで今回は、まだ模索中ではあるのですが、コロナ禍を経たうえで「復興されるべき新しい都市」というテーマで論じてみたいと思います。
まだコロナが出てくる前の2014年時点での話ですが、日本の自治体の約半数は2040年までに消滅する可能性がある、という試算が話題になったことがありました。この「消滅可能性」というのは、日本全体の人口が減っていくなかで、一部の都市を除いた地方都市では、もう自治体としての体をなし得ない状態まで追いやられてしまう、というものです。このときに、東京都区部内で唯一、消滅可能性都市であると指摘された東京都豊島区は、その後、持続発展都市になるための独自のまちづくり政策を進め、昨年7月には「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」にダブル選定されています。いわば、「消滅可能性都市」から「持続可能性都市」へと、うまくシフトできた例だといえるでしょう。
現在、SDGsが世界的な潮流になってきていますが、都市が持続しながら発展していくためには、何が必要でしょうか。たとえば17年に野村総合研究所が発表した、国内100都市を対象にした成長可能性ランキングでは、1位が「東京都特別区部」で、2位が「福岡市」、3位が「京都市」、4位が「大阪市」というような結果になりました。こうしたランキングを見る限り、日本においては、本当に魅力的な都市づくりを進め、周りから人口が流入してきているごく一部の都市しか生き残れないように思います。
「復興」を考えるうえでのレジリエンス
今回のコロナで、それぞれの都市は、これまでの近視眼的な利益中心主義での既存の価値観からの脱却を余儀なくされています。効率性や機能性の向上だけを第一義に追求してきた都市の在り方がコロナで立ち行かなくなり、これまでとは違う魅力的な都市づくり、それも持続性をもった魅力をいかにつくっていくかが問われる方向に移行しつつあります。それはある意味で、コロナで既存の価値観が破壊されてしまった都市の「復興」といえるでしょう。
今回のコロナに限ったことではなく、大規模自然災害などでもそうなのですが、復興が進んでいくにあたっては、3つの段階にわかれています。まず初めに「応急対応」の段階があって、次に以前のかたちに戻す「復旧」、そして最後が、前以上のものを目指す「復興」です。自然災害などにおける復旧復興事業を例にとるならば、まず最低限のインフラ機能などを取り戻す応急対応の段階を経て、次に被災箇所を元の状態に戻す復旧の段階に進み、そして次に同じような災害が発生しても被害を受けないような状態にもっていくのが復興だといえます。
今現在はまだコロナに対する応急対応の段階であって、この先、どのように「復興」していくかのビジョンが共有できておらず、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーン・トランスフォーメーション)などを絡めて模索中です。また、復興を考えるにあたっては、「元に戻す」と「前以上のものを目指す復興を行う」という2つの方向性があります。今のコロナ禍の日本においては、とりあえずコロナ前の「元に戻す」方向ばかりが打ち出され、本当の意味での復興に対する政策が見えていないのが実情です。
ここで考えておきたいのは、「レジリエンス」という概念です。レジリエンス(resilience)とは「自発的治癒力」を意味する言葉で、「回復力」や「復元力」「弾性」などの意味もあります。これまでに政府は「GoTo」などのキャンペーンによるカンフル剤で、コロナ前の経済状況や都市の賑わいなどを少しでも取り戻そうとしてきました。たしかにそれらは、復興の上昇勾配をある程度上げていく効果はあるかもしれません。ですが、やはり根源的な回復力みたいなものをさらに伸ばしていく方策を、この機会にもっと考えていくべきだと思います。
たとえば建築でいうと、オフィスビルなどに対する考え方は、コロナ禍をきっかけに大きく変わってくる可能性があります。これは、以前のようなオフィスビルの在り方ではなく、オフィスというものをどう捉えて、そこでどのように働いてもらうのか、もっと分散型にするのか、あるいは地方の人口が減少している地域にサテライト的にもっていくのか――など。オフィスを今までの単なる「人が働く場所・箱・空間」という捉え方から、もっとレジリエンスを考えた、根源的な「オフィスとは何か」「そこに人が来る意味」などを問い直す段階にきているのではないかと思います。
都市にしても、交通系の機能はかなり落ち込んでいて、もう元には戻らないかもしれません。飛行機や新幹線などが良い例で、コロナ前までは出張などで実際に現地に行って打ち合わせていたのが、今ではリモートで事足りてしまいます。建築の現場でも、リモートの活用が始まっています。そうすると、これまでのような利用は見込めなくなるでしょうし、都市における交通インフラの在り方も変わってくると思います。そうした流れを見ながら未来を考えていくべきときが、今まさにきているのではないでしょうか。
(つづく)
【坂田 憲治】
<プロフィール>
有馬 裕之(ありま・ひろゆき)
1956年、鹿児島県生まれ。80年に(株)竹中工務店入社。90年「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、イギリスでar+d賞、アメリカでrecord house award、日本で吉岡賞など、国内外での受賞暦多数。作品群は、都市計画から建築、インテリア、グラフィックデザイン、プロダクトデザインなど多岐にわたり、日本・海外を含めたトータルプロデュースプログラムを展開している。法人名
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