地場企業に伴走して存続を支援 コロナ後を見据え攻めの姿勢を(前)
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福岡商工会議所会頭 谷川 浩道 氏
新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業が苦しむなか、地場企業を支援する商工会議所の役割の重要性が改めて認識されている。福岡商工会議所は昨年のコロナ禍発生以来、事業者を対象とした経営相談や資金繰り支援などに奔走し、コロナ禍のなかにおいても会員数を増やしている。6月に会頭に就任した谷川浩道氏は、事業者の存続のために、そしてコロナ後の福岡市の発展を見据え、職員の質と人間力を高め、事業者に伴走して支援すると強い決意を語る。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)
コロナ禍で企業支援に奮闘
――新型コロナウイルスの感染拡大で中小企業の存続が厳しいなか、商工会議所のサポートの必要性が改めて認識されました。
谷川浩道氏(以下、谷川) 昨年は、コロナ禍でマイナスの影響を受けている企業の出血を止め、その存続を確保することが商工会議所の最大の使命と考え、全力で取り組みました。国や自治体が、苦境に陥っている企業に対してこれまでにない多くの支援策を準備し、金融庁は金融機関に積極的な貸出しだけでなく、既存借入れのリスケにも真摯に対応するよう要請しました。このような中、当所は経営相談に応じるだけではなく、コロナ関連特別融資に関する情報提供や各金融機関への斡旋を多く行うことにより、企業の命綱として大きな役割をはたしたと思っています。
――商工会議所は中小企業に必要なサービスを提供しており、それが会員数増加につながっていると思います。
谷川 職員は日頃から事業者と真摯に向き合って業務に励んでおり、その姿勢を会員の方々に評価していただいたと考えます。会員および自治体が当所の役割に期待し、活用する機運が高まっていると実感しており、この期待の大きさが会員数の増加にも現れていると思います。今年4月〜7月の会員数増加は、昨年度1年間の増加数に匹敵するほどで、総会員数は今年度中に1万7,000社を超えるのではと期待しています。既存会員からの口コミで入会した企業も増えており、「何かあれば商工会議所を訪ねてほしい」というメッセージが多くの方々に届いているように思います。
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支援事業実施企業が大海においてさ迷わないためには羅針盤が必要です。当所は企業が生き残るために必要な自治体の補助金など、各種支援施策の情報をタイムリーに提供しており、近年では提供手段としてSNSなども活用しています。小規模な事業者の場合、経営者が自身で申請書類を作成する場合が多く、記入ミスなどでうまく手続きが進まないことがあります。当所は会員が最短の時間で支援を受けられるよう、申請方法や書類の書き方などについても丁寧にガイドしています。もちろん平時においても多くの情報を提供しています。
コロナ禍で攻めに転じる
――商工会議所として中小企業の活性化、スタートアップの増加が大事です。
谷川 企業の業績をみると、7割の企業がコロナでマイナスの影響を受けており、とくに1〜2割は非常に厳しい状況です。しかし、残る3割はあまり影響を受けていません。この3割は2つに分けられます。1つはコロナにうまくマッチしたところです。たとえば小売業では巣ごもり消費によりホームセンターの業績が最もよくなっています。自宅で過ごすためDIY関連商品がよく売れました。また、昨年はマスク不足の状況下でミシン関連、手芸関連の商品が驚くほど好調でした。
もう1つは攻めた結果、非常に良い業績を上げているところです。そのなかには、虎視眈々と企業買収を狙っているところがあり、M&Aが増えています。どの金融機関でも取り扱いが増えており、これからさらに増えると思います。売る方から考えると、事業者が売却に踏み切る理由は2つです。第1にコロナ禍で経営が厳しさを増したため、第2に高齢の経営者が承継を望んでも後継者がいないためというものです。
――企業が減るのは地域の活性化の観点から好ましくないようにみえます。
谷川 企業数減少は主に廃業によるものであり、福岡市は廃業率が高いです。
大半は高齢化による後継者難か、あるいは収益が改善されないことから自身の代で廃業を決意したというものであり、ここ10年ほどはこのような廃業が増えています。最も大変なのは借金を返済できず途方にくれている事業者で、こうした事業者に対しては、福岡県中小企業再生支援協議会、福岡県経営改善支援センター、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターと連携しながら支援にあたっています。なお、これらのうち福岡県事業承継・引継ぎ支援センターは、今年4月、小さな企業から中小企業までさまざまな企業の相談に対応しようと、事業承継に携わる2つの支援団体を統合して新たに設置されたもので、商工会議所が運営を受託する公的な支援機関です。同センターは、親族内承継から第三者承継まで幅広く、安心して相談できる場を提供しています。廃業の一方で、福岡市においては創業も多いですね。行政の指導も効果を発揮しており、とくにFukuoka Growth Nextが大きな役割をはたしています。商工会議所は創業意欲のある方の相談に丁寧に対応しています。銀行でも創業資金の相談などを受けていますが、商工会議所は中立的な組織ですので、銀行の色がついてないことを好む方などに向いています。また中小企業診断士などの専門家もいて、支援のノウハウも蓄積しています。このように、いろいろな機関が起業希望者に対してアドバイスをし、相談に乗ることが地域で新しい企業を起こすことにつながっていきます。
当地のデベロッパーの創業者には、「バブルが崩壊したから起業を考えた」と話す方も何人かいます。バブル崩壊後という逆境においてどんどん業績を伸ばしていったのは、ピンチをチャンスに変える覚悟をもって仕事をされてきたからでしょう。
国は攻めに転ずる企業への支援として、新分野展開、業態・業種転換や事業再編を促すための補助金を出しています。5月7日締め切りの第1回事業再構築補助金では、当所が支援した事業者の採択数は31件と、全国の商工会議所・商工会で最多となりました。支援にあたっては、事業者が実行可能で成果が上がるような事業計画を策定するよう丁寧にアドバイスしています。
(つづく)
【文・構成:茅野 雅弘】
<プロフィール>
谷川 浩道(たにがわ・ひろみち)
1953年福岡市生まれ。76年東大法学部卒業、大蔵省入省。財務省横浜税関長、大臣官房審議官、(株)日本政策金融公庫常務取締役などを経て、2014年、(株)西日本シティ銀行代表取締役頭取就任。16年、西日本フィナンシャルホールディングス代表取締役社長就任。21年6月、西日本シティ銀行代表取締役会長兼西日本FH代表取締役副会長、福岡商工会議所会頭に就任。法人名
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