地場企業に伴走して存続を支援 コロナ後を見据え攻めの姿勢を(後)
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福岡商工会議所会頭 谷川 浩道 氏
新型コロナウイルスの感染拡大で多くの企業が苦しむなか、地場企業を支援する商工会議所の役割の重要性が改めて認識されている。福岡商工会議所は昨年のコロナ禍発生以来、事業者を対象とした経営相談や資金繰り支援などに奔走し、コロナ禍のなかにおいても会員数を増やしている。6月に会頭に就任した谷川浩道氏は、事業者の存続のために、そしてコロナ後の福岡市の発展を見据え、職員の質と人間力を高め、事業者に伴走して支援すると強い決意を語る。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)
心を込め、企業に伴走
――会頭に就任し、心がけていることは。
谷川 商工会議所に求められていることは、事業者の存続を図ること、そしてやる気のある事業者が伸びていくよう一緒に考え伴走していくこと(伴走型支援)です。そのためには、職員のレベル向上が必要です。皆が自分の仕事が社会や地域の役に立っていると実感すること、成功体験を積むことなどが大事です。職員が持ち場で自身の創意工夫によって成果を上げられるように、その環境整備に取り組んでいきたいと思います。
また、職員がレベルを向上させるだけでなく、心を込めて仕事をすることが大切だと思います。当所が掲げる伴走型支援を実のあるものとするためには、相手を良くしようという情熱をもち、議論をして一緒につくり上げていくという相互関係を構築する必要があります。良い支援メニューをそろえるだけでは十分ではないのです。人間力は研修のみで向上させられるものではなく、1人ひとりが向上しようという意識をもち、自己研鑽をする、いわば「学習する組織」が理想だと思います。
さらに、商工会議所だけでは成し遂げられない部分を補うためにも、ネットワークを構築することが必要であり、九経連などの経済団体・企業との連携も図っていきます。
――先日、政府による最低賃金引き上げの方針に対し異議を唱えました。商工会議所としては珍しいことだと思います。
谷川 最低賃金の引き上げそのものに反対というわけではありません。労働者、とくに非正規労働者の生活が厳しいことはよく理解しています。しかし、コロナで大変な状況に陥っている事業者がたくさんあるなかでの最低賃金引き上げは、事業継続ができなくなるか、あるいは雇用を減らさざるを得ないという結果をもたらしかねません。
昨年はコロナ禍において最低賃金引き上げを急速に実施するのは難しいと大激論をしました。国の審議会として具体的な引き上げ額は示さず、各地方で実情に応じて実施するということになり、結果的には1円引き上げになりました。
今年は国の審議会が政府の意向を踏まえて28円の引き上げを答申し、各県の審議会でもそれに倣う動きが起きました。福岡県の審議会では、労働者側、使用者側の議論が平行線をたどりました。識者の公益委員は国に倣って28円+αを主張しましたが、彼らは有識者、研究者であり、引き上げを主張するのであればもっとデータに基づいてその根拠を示すべきであったと思います。国が28円というから28円+αという理屈では地方審議会の存在意義はありません。他の中小企業団体とも一緒に論陣を張りましたが、最終的には28円という結論に落ち着きました。
福岡の実情を考えてみると、福岡市では低賃金労働に依存する飲食業、宿泊業などサービス産業が圧倒的に多く、これらの経営は目下大変な状況にあり、しかも昨年より深刻さが増しています。最低賃金を上げるタイミングとして今はふさわしくありません。県全体でみると、朝倉、久留米、大牟田のように度重なる豪雨で受けた被害から立ち直っていない地域の事業者もいます。福岡地方審議会では、当所から出席した境専務理事が尽力し、付帯決議をつけてもらいました。第1に、中小企業の体力以上のものを求めるということであれば、体力を超える部分について補助金というかたちで手当てすべきであり、検討していただきたいということ、第2に、過激な議論かもしれませんが、審議会の今後の在り方について検討するということを決議していただきました。また、私たちの意見も別紙というかたちではありますが、きちんと盛り込んでいただきました。
最低賃金を28円引き上げるとなると引き上げ率は3.1%と社員全般の昇給率を上回るでしょう。一番苦しんでいる中小企業が今、賃金を引き上げるのは好ましくないということについて、我々は各種データを示しながら理路整然とした反論をしたつもりです。今後も、会員に対してしっかりと説明ができるよう、筋を通して発言していく所存です。
サービス産業、消費を支援
――福岡市では従来にない都市づくりが進行しています。国際都市としての存在感をさらに高めていくために商工会議所がはたす役割は。
谷川 大きな仕掛けの1つは国際金融機能誘致のTEAM FUKUOKAであり、皆で福岡の魅力を発信し、香港などに人を派遣してシティセールスを行うことが大事です。商工会議所の役割は、福岡にきて事業を行う人たちに良いサービスを提供し、彼らに快適な街だと思ってもらえる態勢にすることです。そのための準備を行い、実際に態勢づくりが進展していたものの、残念ながらコロナにより、立ち行かなくなくなってしまいました。福岡市にインバウンド関連企業や外国の金融機関などが将来進出してくる素地を回復し、形づくるまで、今後最低2、3年かかると思われます。
国際金融都市を東京・大阪以外で実現できる都市は福岡市くらいでしょう。簡単にはいかないと思いますが、長期的に努力を続けていけば、アジアに開かれた地域性と相まって、徐々に実を結んでいくと思います。福岡は商人のまちとして、鎌倉時代からの歴史があります。韓国への入り口、中国との交流拠点として、またアジアに向けられた国際都市としての歴史をもち、対外的にオープンという地域性があります。商人たちが一緒に商売をしてきた伝統が脈々と受け継がれています。
福岡市の特性をみると、サービス産業の占める比率が大きく、消費を維持するための努力が必要です。そこで当所では消費喚起策に取り組んできており、過去にはラグビーワールドカップ日本大会の福岡への誘致や市内事業者へのインバウンド対策支援、食やファッションのイベントなどを実施してきました。残念ながらコロナのため、現在は人が集まって賑わいを生む取り組みをまだできませんが、そのようななかでも今年は、当所独自の事業として、苦境に立たされている飲食店を応援する「GOOD UP FUKUOKA」事業や、行政との連携による福岡市プレミアム付電子商品券「FUKUOKA NEXT Pay(通称:ネクスペイ)」発行事業、さらに市内商店街で使えるプレミアム付地域商品券の発行支援などを行い、落ち込んだ消費を何とか取り戻そうと尽力しています。
コロナが世界的に落ち着く時期は必ず来ます。その時期に向けて、福岡市の事業者の皆さんが困難ななかでも生き延び、復元する「レジリエンス」を発揮できるよう支援していく所存です。
(了)
【文・構成:茅野 雅弘】
<プロフィール>
谷川 浩道(たにがわ・ひろみち)
1953年福岡市生まれ。76年東大法学部卒業、大蔵省入省。財務省横浜税関長、大臣官房審議官、(株)日本政策金融公庫常務取締役などを経て、2014年、(株)西日本シティ銀行代表取締役頭取就任。16年、西日本フィナンシャルホールディングス代表取締役社長就任。21年6月、西日本シティ銀行代表取締役会長兼西日本FH代表取締役副会長、福岡商工会議所会頭に就任。法人名
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