2024年11月25日( 月 )

「家庭教師のトライ」を英ファンドのCVCが買収~1,000億円で売却、元女優・二谷友里恵社長は超セレブに(中)

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 「家庭教師のトライ」を展開する(株)トライグループ(東京都千代田区、非上場)を英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが1,000億円ほどで買収を検討している。10月11日、報道各社が一斉に報じた。トライの社長は元女優の二谷友里恵さん。M&A(合併・買収)には縁がなかった芸能メディアが早速飛びついた。

コロナ禍で対面ではなく、オンライン授業を展開

 トライグループを英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが買収する。報道によると、〈両社は月内にも買収契約を結ぶ。CVCは買収のためにSPC(特別目的会社)を設立し創業者の平田修会長らからトライ株を全株取得する。その後、平田会長と二谷友里恵社長は売却で得た資金を活用してSPCに再投資することで、経営に関与する。人工知能(AI)関連の投資を増やし競争力を高め、3~4年後の上場を目指す〉という。

 少子化で教育関連の市場は頭打ちになっている。学習塾・予備校・家庭教師の市場規模は、ここ数年1兆円近く((株)矢野経済研究所調べ)で推移している。少子化が進む一方で、1人あたりにかける教育費は増えている。子どもの教育に親は出費を惜しまない。

 教育業界はIT化が遅れていた。もともとペーパーによるアナログの世界で、デジタル化は進まなかった。だが、コロナ禍で教育現場も対面でなく、オンラインで授業を行う取り組みを始めた。

オンライン教育「エドテック」に注力

オンライン授業 イメージ オンライン教育のキーワードは「EdTech(エドテック)」。Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語。インターネット上で好きなときに学習できるサービスを指す。

 (株)野村総合研究所の調査によると、エドテックの市場規模は2020年時点では2,320億円だが、25年度には3,210億円に成長すると見込まれている。

 エドテックに力を入れている企業の1つがトライグループ。15年7月から、完全無料の映像授業サービス「Try IT(トライイット)」を始めた。無料会員登録をするだけで、すべての映像事業が無料で視聴できる。どの動画も1本15分程度なので、通学中など空き時間にスマホを見て学習できる。

 講師が映像を配信しながら質問にも即時に答えていくのは、15年当時では業界初の画期的なサービスだった。「トライイット」を窓口に、「家庭教師のトライ」「個別教室のトライ」の会員につなげるのが狙い。「トライイット」は100万人の子どもたちが利用しているという。

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 20年には、ソニーグループのAIの会社であるギリア(株)(東京都台東区)と資本業務提携を行い、共同制作により「トライ式AI学習診断」を開発した。数学などの論理系教科だけでなく、国語や社会を含めた主要教科の学力をAIの活用によって約10分で診断する。19年度「教育AI賞」を受賞した。

CVC、トライをAI企業に変身させて株式上場を企図

 英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズがトライグループを買収する狙いは何か。それは、トライグループが教育のデジタル化で先行しているエドテック企業であることを高く評価しているからだ。

 デジタル化で欠かせないのが、デジタル技術と投資資金の2つの要素。トライグループはデジタル技術で他社よりも先行しているので、資金をつぎ込めば圧倒的な勝ち組になる。AIを駆使するデジタル教育企業として上場すれば、株価は高値を付け、確実に上場利益をたたき出すことができると計算しているのである。

 それにしても買収額が1,000億円程度とは凄い金額だ。上場企業の買収額は、時価総額に2~3割程度上乗せするのが一般的。だが、トライは非上場なので物差しがない。

 買収予定額の1,000億円を上場している学習塾会社の時価総額と比較すると、その凄さがわかる。

 高校生向け受験塾「東進ハイスクール」の(株)ナガセの売上高(連結)は458億円で、時価総額は552億円(10月15日終値時点)。トライグループの売上高は500億円弱と推定され、売上規模は同程度。だが、買収予定額1,000億円はナガセの時価総額の約2倍だ。

 買収価格を高くしても、確実にリターンを得ることができると弾いている。トライグループをAI企業に大変身させれば、金の卵を産むと計算しているのである。

 トライグループの資本金5,000万円の株主構成は非公開だが、平田修・二谷友里恵夫妻が大半を所有しているとみられ、会社を1,000億円で売却することで、「超」が付く大富豪になる。

 しかも、夫妻はトライグループに再投資する。3~4年後の株式上場により、売却益の次は上場益を手にする。2度おいしい果実を口にできるのである。

(つづく)

【森村 和男】

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