2024年11月17日( 日 )

小売こぼれ話(12)関西スーパーをめぐる攻防(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 しばらく経済紙面を賑わせた関西スーパーの争奪戦が同社の株主総会で賛否僅差ながらH2O傘下のスーパーマーケット2社との統合で決着した。
 統合効果や企業価値の向上など、一般的な記事とは別に、現場事情という視点でこの結果を見てみたい。

伝説のスーパー

スーパーマーケット 新鮮野菜 イメージ 関西スーパーは伝説のスーパーだ。創業者の北野裕次は1960年代、アメリカのスーパーマーケットを視察し、そのシステムと商品管理に感動した。そして、それを徹底して踏襲すると決めた。ロッククライマーでもあった彼は万全の準備こそ、目的達成のカギだと認識したという。
 やがて関西スーパーは我が国屈指の売り場レベルを誇るスーパーマーケットになり、全国から同業者が見学に押し寄せた。

 見学者だけではない。積極的にそのノウハウを公開したいと考えた北野は、同業各社の中堅社員を研修生として受け入れた。その結果、最低限の自社社員人時で十二分な労働量をこなすスーパーとして話題にもなった。いわば他社の社員が無償で関西スーパーの業務を請け負ってくれたということにもなる。

 その鮮度管理は科学数値的根拠に基づく半ばアカデミック的なもので、専門業界誌に何度も特集で取り上げられたものだ。典型例が「ほうれん草の鮮度を58日たもつ」という、半ばスーパーマーケットらしくない試みだ。生鮮の原則は生産から販売までの時間をいかに短くするかということに尽きる。そんな意味ではほうれん草の鮮度を2カ月保つという管理手法はスーパーマーケットにとって実質的な効果はもたらさない。

 水産物もK値という化学的鮮度基準を基にした魚種別の保鮮管理に挑戦して業界の耳目を集めた。アデノシン二リン酸がイノシン酸を経て、ヒポキサンチンに至るという化学的見地から、魚種による鮮度管理の手法を追究したりした。

 しかし、生鮮物のポイントは長く持たせることより早く売り切るのが最優先のテーマだ。最後は野菜の冷塩水処理といった半ば荒唐無稽なことにも挑戦してしまった。もちろん、生鮮食品の管理に彼らが挑戦して完成したかたちは今でも十分な意義がある。とくに水産品は少しでも温度管理の鎖が切れると、お客からの売り場評価が低下することも少なくない。だが、必要以上の商品管理はそのまま管理コストに跳ね返る。他社からの研修が一段落すると、当然作業コストが増大した。

(つづく)

【神戸 彲】

(11)-(後)
(12)-(後)

関連キーワード

関連記事