衰え続ける日本、根本的問題はどこにあるのか~政治と教育(3)
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失われた10年(1990年初頭から2000年初頭)は、もはや「失われた30年」になろうとしている。いざなみ景気など景気向上の時期がありながらも、かつての経済大国日本は過去の栄光にすがりつくしかなく、驚異的躍進を遂げた中国に圧倒的な差をつけられた。そして、リーマン・ショックや新型コロナウイルス蔓延を理由に、日本は根本的解決から目を反らす、いわば他責とし、みるみる衰退の一途をたどっている。
では、日本衰退の根幹はどこにあるのだろうか。OECD(経済協力開発機構)で日本人初の事務次長を務めたことのある谷口誠元国連大使・元岩手県立大学学長。日本有数の大手商社マンとして世界を駆けめぐり、現在、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、名古屋市立大学特任教授などを務める中川十郎氏。2人が行き着いた答えの1つは、「教育」の在り方と向き合い方であった。(聞き手・構成 麓由哉)
中川氏 確かに日本の教育、とくに研究機関・大学への注力具合は世界でも疎かになっている部分があります。英国の教育調査機関による2021年の最新の調査によれば、世界の有名大学200校に入っている日本の大学は東大と京大のわずか2校のみでした。シンガポール、中国、韓国、香港などの大学が上位に位置していることが判明。日本は経済のみならず、教育の分野でも急速に衰退しています。その結果、政治家とともに官僚も劣化しています。多くの優秀な人材は、官僚や政治家を目指すことなく、国内民間企業や外国に目を向けています。
日本の元文部科学省官僚で大臣官房総括審議官、大臣官房長、初等中等教育局長、事務次官を歴任した前川喜平氏によれば、日本の公的教育支出は第2次安倍政権成立前の12年度文科省予算で5兆6,377億円、防衛省予算は4兆7,138億円だったとのことです。これが9年後の21年度には教育予算5兆2,980億円(12年度比6%減)、防衛予算は逆に5兆3,422億円(同13.3%増)に増加。防衛予算が教育予算を上回り、逆転しました。
武器など消耗する防衛予算ではなく、日本の未来を背負う若者の教育に予算を投入すべきであるにもかかわらず、自民党政権では真逆のことを公然と行っている状況です。確かに、10月中旬に行われた中国・ロシアの軍艦10隻による津軽海峡、太平洋、大隅海峡、東シナ海を周回した「海上合同パトロール」などがあり、防衛に注力しなければならない状況は理解できるものの、それは教育を蔑ろにして良いという理由にはなりません。
国立大学運営交付金も04年度の1兆2,415億円から21年度には1兆790億円と1,625億円も削減されています。主なOECD加盟国の教育機関への公的支出割合は、ノルウェーの5.5%を筆頭に、カナダ・フランス・米国・英国が4%台でOECD平均は4・1%です。これに対し、日本は2.9%と、韓国の3.6%に比べても低位にある由々しき事態となっています。
谷口氏 中川先生がおっしゃるように日本の教育には問題が多々あります。一方で、先ほどお伝えしたように、日本人の国民性は世界各国のなかでも最も優れているものです。それを日本の政治や経済にいかせていない状況です。私は教育においては、国民性よりも政治家に対して大きな懸念をもっています。
国民性と政治家の質、これはまったく別のものと考えられがちですが、まったくそんなことはありません。過去の偉人たちを見ても、どれだけ立派な経歴や実績があったとしても彼らは日本代表として謙虚さとしたたかさをもって外交や政治を行ってきました。だからこそ、資源も土地も諸外国に比べて恵まれない日本が、国家が1つとなり、成長し、世界から認められる国となっていったと思います。
国のリーダー、もしくは牽引する人々の考え方や世界との向き合い方もずれてしまっている部分があります。それがそのまま国民に波及してしまっています。
ここ数年でグローバル化が進み、日本では政治家やメディアを通じて「国際人」を増やすという発想が生まれています。しかし、そのようなことを謳うのは日本だけです。国際人という言葉を使うのは日本だけですし、海外ではそのような言葉もありません。たとえば、英国でいえば立派な英国人であれば、世界中のどこでも通用すると自負をもっているのです。それは英国に限らず、フランスやイタリア、アメリカもそうです。
世界とつながりをもち、うまく付き合いながらやっていくことはたしかに重要です。しかし、それは日本人の良さを捨てることではありません。むしろ、日本人の国民性のレベルの高さを出してこそ、世界で通用するようになります。
(つづく)
【麓 由哉】
<プロフィール>
谷口 誠(たにぐち・まこと)
1956年一橋大学経済学部修士課程修了、58年英国ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ卒、59年外務省入省。国連局経済課長、在ニューヨーク日本政府国連代表部特命全権大使、OECD事務次長(日本人初代)、早稲田大学アジア太平洋研究センター教授、岩手県立大学学長などを歴任。現在は「新渡戸国際塾」塾長、北東アジア研究交流ネットワーク代表幹事、桜美林大学アジア・ユーラシア総合研究所所長。著書に「21世紀の南北問題 グローバル化時代の挑戦」(早稲田大学出版部)など多数。
中川 十郎(なかがわ・じゅうろう)
東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。
著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。関連記事
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