2024年11月23日( 土 )

バイデン・習近平会談を受け、岸田総理の外交の焦点はどこに向くのか

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年11月19日付の記事を紹介する。

台湾 イメージ 「台湾有事」が第3次世界大戦の導火線になるのでは、との懸念が広がるなか、バイデン大統領と習近平国家主席による3時間半におよぶオンライン首脳会談が開かれました。安全保障、人権問題、知財侵害など、さまざまな問題が横たわっている米中関係ですが、ほぼすべての課題を議論し、最終的には「最悪の事態は避けたい」という両者の思惑が合致したようです。

 冒頭、習主席からはバイデン大統領に対して「古くからの友人」との呼びかけもあり、バイデン大統領は台湾問題に関しては「1つの中国」との認識を改めて表明し、習主席に花をもたせました。今後の閣僚レベルで継続される議論の行方が気になります。

 とはいえ、政治、経済、軍事などあらゆる側面でアメリカを追い抜くべく虎視眈々と力を付けてきている中国です。アメリカとすれば、座して№1の座を譲るわけにはいきません。「自由で開かれたインド太平洋政策」を掲げ、日本など同盟国との連携を強化し、中国の台頭を押さえ込もうと必死になっています。

 アメリカが追求する中国封じ込め戦略にとって、大きなカギを握るのは日本にほかなりません。また、アメリカとの関係を有利に展開するうえで、中国としては日本があまりにアメリカと一体化することは回避させたいはずです。そのため、アメリカからも中国からも岸田総理の元には、「日本との関係の一層の強化を願う」とのメッセージが相次いで届いています。

 それだけ岸田新政権への期待が高まっているわけです。日本が直面するコロナ禍はもちろん、経済や安全保障に関する諸課題を克服するためにも、国際社会との連携は不可欠であるため、岸田内閣にとっては米中双方から寄せられている好意的なアプローチを外交上の「追い風」とすべきでしょう。

 その意味でも注目すべきは、「令和の所得倍増計画」です。アベノミクスは大企業の株価の底上げには効果があったものの、多くの国民にとっては貧富の格差を拡大させてしまいました。いわゆる「新市場主義」の弊害が日本社会全体の活力を奪ってしまったことは否定できません。そこで、岸田総理は「富の再分配」を実現するための「新たな日本的な資本主義の道」を目指すと宣言しています。

 問題はその理想を実現するための具体的な手段と道筋です。日本には1,072兆円もの個人が所有する現金と銀行預金が眠っています。企業の内部留保も484兆円を超えているほどです。こうした眠れる資金をどう覚醒させ、新たな産業やサービスに投入するか、未来への投資ビジョンが求められます。と同時に、気を付けなければならないのは、日本国の財政赤字が1,600兆円に達している厳しい現実です。

 バブル期のような大盤振る舞いはもはやできません。日本人の生活を真に豊かにするにはどうすればよいのか、真剣な議論と健全な発想がなければ、すべては「絵に描いた餅」になってしまうはずです。外務大臣として5年近くの経験を持つ岸田総理であればこそ、日本の復活にとって海外との協力が欠かせないことは百も承知のはず。

 その観点でいえば、日本のみならずアジアも世界も懸念しているのは「米中対立の行方」です。中国からの挑戦を受け、バイデン政権では対中戦略を強化する動きを鮮明に打ち出していますが、「アメリカの国益にかなう場合には、中国との協調も必要になる」との柔軟な姿勢も見せています。具体的には環境問題、なかでも地球温暖化対策に中国の関与が不可欠との認識です。今回の米中首脳会談でも、こうした協力ができる分野を広げ、「常識のガードレール」を構築することで意見が一致したといいます。

 今こそ米中の対話と信頼関係の構築が求められることは論を待ちません。日本にとってアメリカは安全保障の面では最大の同盟国ですが、経済通商の面では中国が最大のパートナーですから。アメリカとも中国ともバランスのとれた関係を維持、発展させなければ、日本の未来はあり得ません。

 2022年は日中国交正常化50周年と日中平和友好条約締結45周年が重なる記念すべき年です。2月には北京冬季オリンピックも予定されています。この絶妙のタイミングを生かさない手はありません。

 いずれにせよ、日米中3カ国が協力して取り組むべき課題は山積しています。たとえば、TPP11やRCEPを最大限に生かす方策も日米中3カ国の共通のテーマになるでしょう。RCEPへの加盟を実現した中国はTPPへの参加申請手続きを始めました。バイデン政権の対応は不透明ですが、日米中が参加する巨大な経済圏が誕生することも視野に入ってきたわけです。日中の貿易額は米中とEU中の合計を上回っています。

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 もともと中国の封じ込めを意図して構想されたTPPでしたが、中国がRCEPの次のステップとしてTPPへの加盟を目指す動きを見せ始めたことで新たな局面が見えてきました。20年の中国のGDPはアメリカの73.6%でしたが、31年には98.7%とアメリカとほぼ同等になることが確実視されています。

 また、20年の中国の国防予算はGDPの1.15%でしたが、アメリカの場合は3.6%であり、この傾向が続けば、31年のアメリカの国防予算は9,110億ドルに達する見込みです。これはアメリカ経済にとって大きな足かせとなります。

 軍事面での競合ではなく、経済面での協力の枠組みを構築することこそが、「ポスト・コロナ時代」を切り拓くうえで最重要課題となるはずです。アメリカのランド研究所によれば、もしアメリカが中国との戦争に突入すれば、「アメリカの経済は30%以上の落ち込みを余儀なくされる」とのこと。しかも、アメリカが勝利する保証はないわけです。もし日本がアメリカの同盟国として参戦を余儀なくされれば、日本の命運も尽きかねません。

 そうした無益な軍事衝突に人命や巨額の資金を投入する意味はないに等しいもの。日本は米中両国に呼びかけ、偶発的な危機を回避するコミュニケーション・チャンネルの復活と強化を図る時です。人間の健康という新たな安全保障の在り方を模索するよう、コロナ危機が人類の共存共栄への道筋を模索するように促してくれているのです。

 感染症対策はもちろん、環境問題もエネルギー危機も、そして安全保障問題も、すべてが連動しているのが21世紀の世界の実態です。日米中3カ国が新たな発想で協力することが強く望まれます。広島出身で核兵器廃絶に熱意を見せる岸田総理には、世界の平和と繁栄に向けて米中双方を巻き込む大胆な外交を展開してもらいたいものです。

 次号「第273回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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