世界1の資産家に躍り出たイーロン・マスク氏の次なる標的
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年11月26日付の記事を紹介する。
イーロン・マスク氏といえば、電気自動車「テスラ」や宇宙ロケット「スペースX」の創業社長として世界的に認知されている起業家です。2021年頭には「アマゾン」のジェフ・ベゾス社長を抜いて、世界1の大富豪の座を射止めました。しかも、派手な言動で世界を騒がせています。その情報発信力は半端なく、ツイッターのフォロワー数は6,000万人です。トランプ前大統領も太刀打ちできません。
そんなマスク氏ですが、最近では「ニューラリンク」という新規事業に力を入れており、人間の脳を人工知能(AI)と合体させることで、人間の能力を飛躍的に向上させ、「AIに支配されないようにする」との主張を展開しています。人間の身体をインターネットと一体化させるというわけで、いわゆる「IOB(Internet of Bodies)ビジネス」に他なりません。
その技術は人間の運動能力や判断力を飛躍的に拡大する可能性を秘めています。実際、そうしたノウハウを活かして、2021年夏に開催された東京オリンピックで最多の金メダルを獲得したのがアメリカ選手団でした。いわば、アメリカチームを陰で支えてきたのがマスク氏であったといっても過言ではありません。
ところが、ツイッターなどで自己宣伝を繰り返すマスク氏ですが、アメリカの国防総省やNASAと連携し、人体能力の飛躍的向上のための支援も惜しみなく提供していることはほとんど表に出そうとしません。マスク氏はもともと、「不死身の兵士」いわゆる「ロボット兵士」を生み出す研究を国防総省からの資金を基に進めてきていたのです。
そうした研究で得られた知見をオリンピック選手の能力強化に役立ててきたわけで、政府資金の獲得レースでは常にトップを走っています。その流れで「ニューラリンク」と呼ばれる会社を立ち上げ、「脳とAIを合体させる技術開発」に邁進中というわけです。サルやブタを使った実験では動物たちの脳に埋め込んだチップを動かし、動物たちがゲームを楽しむ模様を公開して話題を集めました。
その会社をマスク氏とともに立ち上げた脳科学の専門家でもあるホダック社長が2021年夏、突然、マスク氏の元を離れたというので、アメリカでは憶測が飛び交っています。というのも、同年4月の時点では、「ニューラリンクのノウハウを活かして本物の恐竜を蘇らせ、ジュラシック・パークを建設する」と、ホダック氏は息巻いていたからです。一体全体、どうしたというのでしょうか?
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バイデン大統領を手玉に取り世界制覇を狙うイーロン・マスクの戦略(前)実は、ホダック社長の指導教官であった脳神経科学の大権威から「いつまでもショーマンの片棒を担ぐのはやめたらどうか」と忠告を受けたらしいのです。マスク氏は「人類はこのままではAIの奴隷となる。それを回避するには人類がAIと合体するしかない」との発想の持ち主ですから、遅かれ早かれ、人へのチップ埋め込み実験を始めると豪語しています。
そうした技術への過信傾向の顕著なマスク氏の様子を懸念し、「人間の脳を弄ぶな」と、真正面から反対してきたのがホダック社長を長年指導してきた大学教授でした。ホダック社長にとっては難しい決断だったに違いありません。
というのも、2021年7月末にはGoogleやドバイの投資ファンドから多額の追加研究資金を調達したばかりの「ニューラリンク」です。今後の進展が十分期待できる分野であるだけに、ホダック社長も後ろ髪を引かれる思いだったと想像されます。けれども、優秀な右腕を失ったマスク氏は、まったく怯む様子など見られません。それどころか、iPS細胞の研究でノーベル医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授を口説き落とし、新たな研究の実用化に向けて動き始めたといわれています。
マスク氏の読みでは、「2030年代までには体内にマシーンが当たり前のように装着される」というわけです。彼の指揮の下で、思考を司る脳の一部である外皮をクラウドと接続する実験も進んでいます。
現在もパーキンソン病の患者は脳内にコンピューターを埋め込むことで、治療に活路が見出されてきているわけですが、2030年代には脳内に埋め込んだチップで記憶力も判断力も格段に向上することが期待されています。
もちろん、まだ動物実験の段階ですが、間もなく人への応用実験が始まることは間違いありません。すでにアメリカの食品医薬品局からは「革命的なデバイス」とのお墨付きを得ているわけですから。ニューラリンクの技術を使えば、人は埋め込まれたチップから直接、音楽を聴くこともできるようになるでしょう。ホルモンの分泌も思いのままです。
そうなれば、不安心理も解消できるし、理性や判断力も飛躍的に高めることもできるはずです。うつ病など過去のものになると言われています。はたして、どこまで実現するかは定かではありませんが、見方によっては、人間が自然な人間であり続けることが難しい時代が迫っているといえるかも知れません。このような技術の良し悪しの判断とは別に、現実の世界ではどんどん進められているのです。私たちはそうした状況を知っておく必要があるでしょう。
次号「第274回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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