2024年11月23日( 土 )

2024年大統領選に影を落とす米中対立の行方(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

対中政策で衝突、トランプ×バイデン

米中関係 イメージ    先頃、南シナ海で発生した米原子力潜水艦が正体不明の物体と衝突し、10人の負傷者も発生した件を受け、国防総省傘下の海軍戦争大学校のゴールドスタイン教授は「キューパ・ミサイル危機に匹敵する」とまで危機感を煽る発言を繰り出しています。

 これでは「攻撃を仕掛けてきたのは中国の潜水艦だ」と暗に訴えているようなものです。
 こうした好戦的な発言は極めて危険なもの。同じく、アメリカのメディアは「アメリカの特殊部隊が台湾にて極秘の軍事訓練をこれまで2年にわたって行ってきた」ということをリークしています。要は、中国との開戦を前提としているとしか思えません。日本にとって、その一翼を担うようなことは百害あって一利なし。

 とはいえ、アメリカといえども、水面下では中国とのパイプの維持に腐心しています。
トランプ前大統領の娘イバンカが展開していたファッション・ブランドの商品は大半が「メイド・イン・チャイナ」でした。しかも、最近、トランプ氏が2024年の大統領選挙を意識し、立ち上げを宣言した独自の情報発信サイトも、資金源は中国の投資ファンドと言われています。

 一方、バイデン大統領の場合も、息子ハンターは中国最大の石油・天然ガス会社の関連企業の株を大量に保有していることが知られています。また、ハンターの投資会社BHRはアフリカのコンゴにあるコバルト鉱山の開発権をアメリカの企業Freeport-McMoRanから買収し、中国へ提供して、莫大な利権を確保しています。何しろ、コバルトは電気自動車(EV)のバッテリーに不可欠な材料に他なりません。グリーン政策の一環としてEVを推進するバイデン大統領にとっては、コバルトがなくてはEV事業が成り立たないわけです。

 そのことを見越して、父親のコネも最大限に活かしながら、中国企業から資金を調達し、コンゴのコバルト鉱山を確保したバイデン一家の動きは、中国を利することは明らかでしょう。それゆえ、トランプ氏からすれば、「アメリカの国益を損ねた」と批判できる材料にもなります。

 両者はそれでなくとも、対中政策で激突を繰り返しています。トランプ氏曰く「バイデンは中国に対して弱腰過ぎる。俺が大統領のときは、中国はアメリカを尊敬していた。ところが今では中国はアメリカを見下している。その原因はバイデンだ」。

 バイデン氏は「誰も中国との対立や戦争を望んでいない。自分は中国との競争は必要だと思うが、対立は避けねばならないと考えている。トランプのようなケンカ腰ではアメリカの利益は維持できない」とやり返しています。

「台湾侵攻防止法」に関する議論が活発化

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 バイデン大統領は就任後、習近平主席と3度の電話会題をこなしています。また、両国の側近レベルでは3月のアンカレッジ、7月の天津、10月のチューリッヒと、舞台を変えながら、話し合いを継続しているのです。表向きは「言葉のミサイル」を打ち合っているように見えるアメリカと中国ですが、テーブルの下ではガッチリと手を握るという強かな外交に他なりません。

 そうはいうものの、このところ、アメリカ議会では「台湾侵攻防止法」の議論が活発化しています。これは共和党議員が提出している法案です。中身は米台関係の強化と有事の際の米軍の関与を謳っています。

 その背景にはアメリカ軍部の対中・対ロ戦略が大きな影を落としているといえるでしょう。なぜなら、ペンタゴンでは2019年、「中国とロシアとの戦争」シナリオを検討し、対中、対ロ封じ込めの動きを理論化しているからです。遡れば、2015年、米陸軍はランド研究所に「中国との戦争:想定外を想定する」と題する研究を委託していました。その後、トランプ政権下では、核戦略見直し(2018)を進めてきた背景もあるからです。そのなかには、中国、ロシアとの核戦争の可能性も含まれていました。

 2018年にまとめられた超党派議員による研究では「2024年、中国が台湾へ奇襲攻撃、占領する事態が想定されるが、米軍は対応できない。なぜなら、技術、予算両面でアメリカは中国に遅れを取っているからだ」との結論になっています。よって、「最善策は先制攻撃しかない。今なら、アメリカは中国に勝てる」との分析結果なのです。先のランド研も同様の提案を行っていました。

 とはいえ、こうした好戦的な報告書の狙いは中国上層部に読ませることにあるに違いありません。アメリカの覚悟と実力を誇示することで、中国の動きをけん制し、方向転換を促すことに期待を寄せているものと判断できます。万が一、アメリカに対抗しようとしたとしても、中国の資源を台湾作戦に注入させれば中国の国内経済に負担増を強いることになるため、中国の発展を食い止めることができるとの読みもあるようです。

(つづく)


浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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