2024年12月23日( 月 )

ストラテジーブレティン(296号)2022年の米金融政策展望と米国で進化する株式資本主義(3)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年12月9日付の記事を紹介。

(3) 長期的な金利低下趨勢まだまだ続いている、株価押し上げ効果も持続

グリーンスパンの謎、なぜいまだ続く? 

 1980年頃のアメリカの長期金利は15%、これが昨年8月には0.5まで低下した。この約40年間にわたる金利低下、これがアメリカの金融市場の最も重要なアンカーとなった。これによって株価も住宅価格も大きく押し上げられた。この長期的金利低下趨勢がもう終わった、これから金利上昇だ、と多くの人々は考えた。武者リサーチも昨年はそのように主張した。ところが、この長期的金利低下趨勢が終わったとはいえないのかもしれないということが、今の情勢である。今年3月1.7%まで上昇した米国10年債利回りが、その後1.2%割れまで低下し、テーパリーグや利上げの前倒しが視野に入ってもなお1.4% 台で推移している。2005年、相次ぐ利上げにもかかわらず一向に上昇しない長期金利を見て当時のグリーンスパン議長は謎(conundrum)と呼んだが、それが今の最大の焦点の1つになっている。

図表7: 米国名目成長率と長短金利推移

なぜ自然利子率は低下し続けているのか

 金利低下の趨勢を見る上で理論的尺度となっているのが自然利子率、つまり景気を加速も減速もしない中立的実質金利水準である。図表8の赤で示した自然利子率は、ニューヨーク連銀が計測しているものである。コロナ直後にほぼ0になり、以降発表が取りやめられているが、今さらに、大きく落ち込んで、多分マイナスになっているのではないかと推察される。自然利子率と連動し続けてきた米国実質金利(TIPS=物価連動国債利回り)が大幅に下落し、-1%以下で一年以上にわたって低迷していることはそれを示唆する。

図表8: 米国自然利子率と実質金利推移

 つまり金利低下趨勢はコロナで終わったのではなく、コロナの後もまだ続いていると考えられる。このように金利低下趨勢が続いているのであれば、まだ株価の上昇余地(バリュエーションの上昇余地)があり、ここからでも株を買えるということになる。

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 なぜ長期的にこれほどまでに金利が下落を続けたのか?そしてこれからどうなるのか。多くの人々はこの金利低下を見て先行き景気が悪くなるからだと考えたが、そのような見方は明らかに誤りだった。40年間金利が下がり続け、経済は基本的にブームを維持し、株価も基調的上昇を続けたのであるから、金利低下がリセッションの前兆だったとは到底いえない。また金利低下を債券バブルだという説もあった。債券バブルということは、金利が急上昇してバブルが崩壊するということであるが、それがいつまでたっても起きない。債券バブル崩壊と言い続けてきた債券のファンドマネージャーの多くは、運用に失敗をしたということが見受けられた。

資本生産性上昇によるカネ余りが原因

 とすればこの長期に続く金利低下はいったい何が原因なのか。まだはっきりとした定説はないが、武者リサーチはこの金利低下の背景にあるものは顕著な金余りだ、と考える。ではなぜ金余りなのか、それは資本生産性の上昇である。DX革命、コンピューターやインターネット活用によって労働生産性が大きく上昇し、より少ない人手でたくさんの仕事ができる時代に入ったことを多くの人は認識している。ただし重要なことは、経済にとって生産性は2つあることである。1つは労働生産性、もう1つは資本生産性である。経済の2大資源、労働と資本、これが新産業革命により大きく生産性を高めている。より具体的にいえば、10年前、たとえば10億円であったコンピューターがおそらく今は1億円もしてない。コンピューターの値段が1/10に下がったということは、同じ機能のコンピューターを買う資本の効率が10倍に高まったということ、これが資本生産性の上昇である。生産性が高まって人が余り、そして生産性が高まって金が余る、その金余りが長期的な金利低下趨勢をつくっていると考えられる。

 実際、図表9を見ると、米国企業部門の資金余剰つまり、設備投資を大きく上回るキャッシュフローが2000年代から顕著になっている。そしてコロナ以降、企業の資金余剰が一段と増加していることが明らかである。とすれば、現在の金利低下趨勢というのはかなり持続性があり、その低金利をベースとして株を買うというような動きには合理性があると考えられる。

図表9: 米国企業(非金融)のキャッシュフロー、設備投資、資金余剰(フリーキャッシュフロー)の推移

金利低下を所与とすれば株価のアップサイドは大きい

 ここで株と金利の関係について説明したい。図表10は米国S&P500の株式益回り(市場価格ベースの利潤率)と10年債の利回りの推移であるが、2000年まで両者はほぼ連動していたことがわかる。長期金利が10%なら株式の益回りは10%、PERは10倍というのが2000年までの相関である。しかし2000年以降、金利が大きく低下したのに株式の益回りはまったく連動せず、債券と株のバリエーションにギャップが起きている。図表10の上半分にはFEDモデルに基づく理論株価を示している。それは株式益回りイコール10年債利回りで計算される妥当株価水準であるが、2000年以前はこの式がほぼ当てはまっていた。今そのFEDモデルが妥当であると考えて妥当株価を計算すれば米国長期金利が1.3%で、この1.3%の益回りで株を買えば、妥当なS&P500はいくらになるかというと146,070ポイント、現在の4,538ポイントに対して3倍となる。金利低下を所与のこととすれば実は株価の上値余地は極めて、大きいということになる。

 ここ数年米国株式市場では、TINAが合言葉になっている。There is no alternative(株以外に投資対象がない)、投資家は運用難に陥り株式以外に合理的に投資できる対象がなくなっている事情を示している。

図表10: 米国10年国債利回りとSP500益回り、 およびFEDモデルの推移

(つづく)

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