2024年12月23日( 月 )

【BIS論壇No.363】米中対立と日本の安全保障

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は2021年12月17日の記事を紹介。

鳩山会館 イメージ    11月11日の日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)30周年記念第175回情報研究会でご講演いただいたBIS顧問の孫崎享・元外務省国際情報局長は、日本におけるインテリジェンス分野の第一人者である。

 12月15日に鳩山会館で開催された世界友愛フォーラム主催の勉強会で講演されたので参加した。演題は「岸田政権の外交課題~米中対立と日本の安全保障を考える」。

 同氏によると、米国諜報機関CIAのWorld Fact Bookは、購買力平価ベースの1位が中国の23兆ドル、2位が米国の19.8兆ドル、3位がインドの8.4兆ドル,4位が日本の5.2兆ドル、5位がドイツの4.2兆ドルと報告している。 

 医療・運輸・建設などのさまざまな分野の技術革新を生む5Gの特許保有は、1位中国・ファーウェイ、2位韓国・サムスン、3位韓国・LG、4位フィンランド・ノキア、5位中国・ZTE、6位スウェーデン・エリクソン、7位米国・クアルコム、8位米国・インテル、9位日本・シャープ、10位日本・NTTドコモと日本は下位に落ち込んでいる。

 このように日本の研究開発力の低下は危険水域に達しているとのことだ。トップ10の“優れた論文”の国別シェアを見ると、1997~99年に世界シェア6.1%で第4位だった日本は、20年後の2017~19年に10位、世界シェアは2.3%に沈下。中国は同年にシェア24.8%で首位に立ち、米国が22.9%で2位。英国、ドイツ、イタリア、オーストラリア、カナダ、フランス、さらにインドにも追い抜かれたという情けない状況にある。

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 岸田内閣は経済安全保障担当大臣を置き、とくに中国については警視庁なども巻き込み、知識・技術移転を監視する作戦を展開中だ。そうなると、先端技術で首位の中国に対し、日本が逆に被害を受ける。台湾や尖閣周辺で戦争になれば中国が圧倒的に有利というのが、防衛大教授も歴任し、軍事問題にも詳しい孫崎氏の見解である。その意味で、敵基地攻撃力を強化するという岸田政権の方針は時代錯誤であり、専守防衛の日本国憲法に違反すると孫崎氏はみている。

 かつて筆者がニュヨーク駐在時に、「昭和10年生まれNYイノシシ会」メンバーで、キヤノンNY社長・御手洗冨士夫氏(元経団連会長)、朝日新聞の故・筑紫哲也氏などと筆者が折に触れて面談していた米ハドソン研究所首席研究員で元NHK・NY支局長の日高義樹氏の講演が、12月16日に都内ホテルで行われ、参加した。

 同氏は、自民党がいまだに米国に依存していることに警鐘を鳴らし、米国とは距離を置き、日本独自の外交政策を遂行すべきであると強調した。米国に長年滞在し、世界をグローバルな視点から考究している同氏の意見は塾考すべきである。

 16日夜に放送された日本テレビの番組に、米ユーラシア・グループのイアン・ブレマー代表が出演。米中経済戦争を仕掛けている米国は太平洋の彼方にあり、それと比べて日本は中国とは歴史的にも経済的にも密接な関係にあり、日本の国益を考慮し、一衣帯水の中国に対しては独自の政策をとるべきではないかとの発言に、さすがは未来研究家のブレマー氏だと感銘を受けた。

 かつて筆者のコロンビア大学時代の恩師、ノーベル経済学賞受賞の故・ロバートマンデル教授も、日本は中国との関係を大切にすべきだと強調していたことを思い出す。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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