2024年12月22日( 日 )

H2Oとオーケー、関西スーパー争奪戦の異様~「勘定」より「感情」で決まった!(前)

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 「人は勘定より感情で決める」。ダニエル・カーネマン教授がノーベル経済学賞を受賞し脚光を浴びた行動経済学は、簡単にいえば、人は合理的な判断をするとは限らないという立場に立つ経済学である。関西スーパーマーケットをめぐるエイチ・ツー・オーリテイリングとオーケーの争奪戦は、「勘定」より「感情」で決まった典型例となった。

法廷闘争を制した関西スーパーがH2Oと統合

阪急・阪神百貨店 イメージ    (株)関西スーパーマーケット(兵庫県伊丹市、東証一部)とエイチ・ツー・オーリテイリング(株)(以下H2O、大阪市、東証一部)は12月15日、経営統合した。関西スーパーはH2Oが58%出資する子会社となり、H2O傘下の食品スーパー、イズミヤ(株)(大阪市)と(株)阪急オアシス(大阪府豊中市)を完全子会社化した。約240店舗で売上高は4,000億円と関西のスーパーでは最大規模。首都圏地盤のディスカウントスーパー、オーケー(株)(神奈川県横浜市)との法廷闘争を制し、統合にこぎつけた。

 関西スーパーをめぐっては、8月末にH2Oとの経営統合を発表後にオーケーが買収の意向を表明。10月末の関西スーパー株主総会では僅差でH2Oとの統合案が可決されたものの、集計作業に疑義があるとしてオーケーが神戸地裁に統合差し止めを申請。神戸地裁は差し止めを命じたが、大阪高裁では取り消された。12月14日の最高裁決定は総会決議の有効性を認め、高裁判断が確定。オーケーの主張が退けられるかたちで決着した。

大きく異なる買収方法

 M&A(合併・買収)の歴史上、関西スーパーをめぐるH2Oとオーケーの争奪戦は異例かつ異常なものだった。買収方式がまるっきり異なるため、どちらが株主に有利かがわかりにくいためだ。

 オーケーは1株2,250円での株式公開買い付け(TOB)を提案。H2O案は同社の子会社の株式と関西スーパー株を交換するものだ。異なる構図の提案がぶつかる珍しいケースのうえ、H2Oの子会社が非上場のため市場価格がつかめないことが比較を難しくした。

 双方がTOBを提案しているのであれば、どちらが高いか低いかで判断できる。上場会社の関西スーパーとの株式交換でも、市場価値は比較できる。H2Oは関西スーパーの買収にあたって、100%子会社のイズミヤ、阪急オアシスとの株式交換を選んだ。イズミヤも阪急オアシスとも非上場で市場価値がない。オーケーのTOB価格とどちらが優れているのか、判断するのは容易ではない。

 非上場会社との株式交換は、市場価値を算出できない。H2Oの提案は、オーケーのTOB価格と比較できないことがミソだ。比較できる案を出したら、劣勢になるからだ。

 オーケーが提案した上場来高値の1株2,250円のTOB価格と、赤字が続いたイズミヤ、阪急オアシスと統合するH2Oの案。「勘定」で判断すれば、オーケーの案を選択する。

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 だが、そうはならなかった。関西スーパーの株主は、ヨソ者に売り渡すのではなく、地元企業との統合を選んだ。「勘定」より「感情」でH2Oとの統合を決めた。「人は勘定より感情」で決めるという行動経済学の典型的な実例となった。そこには、東京を嫌う大阪の風土が作用している。

東京と大阪のビジネス風土は「水と油」

 東京と大阪は「水と油」で、ビジネス風土が異なる。その異質さは、江戸時代から形成されてきた。江戸は武士の町、大阪は商人の町だ。大阪出身の社会評論家、(故)大宅壮一氏は東京で活躍する大阪人を「阪僑」と称した。中国本土から海外に移住した中国人の「華僑」になぞらえたのである。

 かつての大阪商人は、サンプルを背負って世界のどこにも行ったように国際性が強い。さらに、反政府、反官僚的で、法律や官制よりも人と人との関係を重んじる。なるほど「華僑」的である。経済規模では、大阪は東京に大きな差をつけられ、一地方都市になってしまった。だが、お笑い芸人だけは全国ネットのテレビで活躍している。「阪僑」ここにありだ。

 日本文化が集団の調和を尊び、欧米の文化が個の特性を重視することはよく知られている。この異国間の文化の違いは東京と大阪の間にもある。日常会話で、大阪人はお笑い芸人さながらに相手の言葉に「突っ込み」を入れる。東京人はカチンと頭にくるが、大阪人は、あの「突っ込み」がないと、つまらない会話になってしまう。

 東京人が好きなものは、巨人、落語、そば、もんじゃ焼き。大阪人が好きなものは、阪神、漫才、うどん、お好み焼き。

 ことほどさように、大阪と東京の文化風土は異質。大阪から東京にビジネスの拠点を移す企業は多いが逆はない。そのため東京の企業が大阪に進出しても成功しないと信じられてきた。関東のオーケーによる関西スーパーの買収は失敗するだろうと、思っていたが、実際、その通りになった。

東京は大阪が鬼門。三越伊勢丹が敗北したワケ

 東京の企業は大阪では成功しない。そのジンクスを敗れなかった前例がある。

 (株)三越伊勢丹ホールディングス(HD)と西日本旅客鉄道(株)(JR西日本)は14年1月、経営不振が続くJR大阪三越伊勢丹(以下・大阪三越)の売り場面積を大幅に縮小する再建案を発表。翌15年4月、百貨店を閉鎖。ブランド名「ルクア イーレ(LUCUA1100)」というファッションビルに転換した。2011年5月の開業からわずか4年で、「東の雄」(株)三越伊勢丹は大阪から撤退した。

 では、大阪三越はなぜ敗れたのか。敗因として、よく指摘されるのが、東京流が大阪では受け入れられなかったというもの。

 三越伊勢丹のセールスポイントは「自主編集売り場」。テナントに頼らず、社員自らが商品を目利きして仕入れることから売り場の編集、販売までを一貫して行う。ファッションごとの縦割りの展示ではなく、ジャケットやパンツなど品目別に並べることで、商品を比較しやすくしている。ファッションに関心の高い女性をターゲットにした百貨店としては、斬新な売り場だ。

 しかし、関西ではブランドごとに区分して販売するため、複数ブランドが商品別に並ぶ自主編集売り場は、買い物客にわかりにくかったと指摘された。

 それだけではない。梅田地区のライバル店が、高級ブランドのテナントに、三越伊勢丹への出店を控えるよう求めたのが大きかった。これが最大の要因だ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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