「第8回 花とみどり・いのちと心展」開催~自然への思いをアートで表現(後)
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「第8回 花とみどり・いのちと心展」が国営昭和記念公園・花みどり文化センター(東京都立川市)で開催されている。数々の作品を通して、明るい未来へ希望をもって生きる力を感じ取ってほしいとの思いから、29人の作家がアート作品を出展。絵とスペースデザインや彫刻が同じ空間に並び、新たなアートに挑戦する場となっている。
公園に訪れた人が楽しめるパブリックアート
花みどり文化センターは、美術館や博物館と違い、展示を目的に来場する人々は少なく、公園に遊びに来る途中で立ち寄る人々がほとんどだ。加えて、公園の中の施設であるため、子どもから老人まで幅広い世代が来場する。そのため、辻氏は「特に芸術に関心がない世代も含めてさまざまな人々に受け入れられるよう、たとえば子どもが現代彫刻を知るきっかけとなる工夫など、公園施設ならではの演出を目指しています」という。
辻氏は、展示の場を与える側の立場として、作家の自由な表現を理解することも重要な役割と考えており、作品への要望は作家の表現の自由を限定してしまう可能性があることを懸念してきた。そのため同展の事務局との話し合いを重ねて、作家の協力により、緑豊かな自然の中での公共空間で明るい未来につながる数々の作品に囲まれた同展覧会を開催できたという。
佐藤氏は「この展覧会は各自の思いで作品を自由に作ってよいという、アーティストへの信頼がある斬新なアート展です。多くの日本の美術展では額縁を付けなければいけないことが多いのですが、私が長く住んできた米国の展示会では額縁を付ける、付けないということも個々の自由だったところが多く、何よりも大切なのは自分の想いを創造し、最大に生かすことだと教わりました。また、私はアートを見るときも、同じ作品でも人によって見方、解釈、受け止め方が異なるのは当たり前だと思うため、題名にとらわれず、恐れずに自分なりの感性で作品を見て作家の思いを感じてほしいと考えています」と話す。
自然を尊び、「尊厳」に目を向ける社会へ
河野太郎規制改革相はアート作品の取引の規制緩和により、日本の美術市場拡大を目指している。一方、海外のアートへの取り組みに目を向けると、中国では現代美術に力を入れており、使われなくなった工場の建物が立ち並ぶ北京の「798芸術地区」には、現代アート美術館やアーティスト施設が数多くひしめきあっている。またドイツ・メルケル首相、当時のモニカ・グリュッタース文化相は「アーティストは生命維持に必要不可欠な存在」と断言し、コロナ渦中の大規模な芸術支援を約束したのは記憶に新しい。今もアートの活性化に向けて、活発な取り組みがなされている。
「たとえば、欧州では教会を中心として街並みができあがっているため、街並みの根底に美を意識していますが、日本では、アーティストの思いが飛び交う非日常的な美のスペースが少ないと感じます。日本でも、京都の古い地区やかつての江戸の街のように美を日常的に意識する心を持つことで、心豊かな社会になるのではないでしょうか」(中垣氏)。
「パブリックアートが盛んな米国では1935年~43年まで連邦政府アートプロジェクト(The Federal Art Project)と称して1万人のアーティストがフランクリン・ルーズベルトの時代に大恐慌のための経済救済として活用された歴史があります。メキシコ人アーティストのディエゴ・リベラの壁画もそうですが、これが今日の、特にアートに溢れるNYの街を作ったベースなのです。中国でも、パブリックアートとして若手の作品が北京などの街に多く見られ、なかでも中国の798芸術地区は2016年に私が行った時も勢いは非常に強かったです。元は反体制を訴えることやアートがきっかけでしたが、今では世界的にメディアに取り上げられた故に、政府はこの地区を正式に発展させた、という経緯があります。日本にもこうしたパブリックアートを街中に溢れさせる“何か”のきっかけができれば良いのではないかと常に思っていますし、私はそんな想いでいつも作品を作っています」(佐藤氏)。
イギリスでは、人々が歴史的な建物を生かせるよう寄付をして街の尊厳を大切にしており、自然・文化財保護団体のナショナルトラストにより、歴史的な建物を保存する慈善事業が行われている。
「今の人々に必要なことは、緑の回復を含めて自然と人類への尊厳に再度、新たな目を向けることです。さらに政治でも、すべての人々を尊ぶことがどういうことなのかを考えることから始めなければなりません。尊厳とは良心であり、善であり、愛であり、美であり、まとめてそれを『智』と言ってよいでしょう」(中垣氏)。アートを通して、自然の大切さと人間の尊厳に目を向ける『智』のある社会を構築したい。
(了)
【石井 ゆかり】
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