2024年12月26日( 木 )

イデオロギーではなくテクノロジーで〜経済人が啓く日本再生の処方箋(前)

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(株)ブロードバンドタワー
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋 氏

 今年2022年は日中国交正常化50周年にあたる。この50年を振り返るに、初めこそ日本がODAなどを通じた中国の近代化の支援者であったが、バブル崩壊を機にみるみる衰退、2000年代以降は中国が豊富な労働力と巨大な市場を提供し、日本経済を支えるようになった。同時に世界は情報化社会へと急速に変化していったが、IT技術でめざましい経済成長を遂げた中国は米国のヘゲモニーを脅かすものとして敵視されるようになり、民主主義vs共産主義のような古めかしいイデオロギー対立論がまたぞろ浮上、いまや「有事」さえ取り沙汰される事態に――。「同盟国」米国と重要な貿易相手国たる中国との狭間にあって、我が国は、経済を再生し国際的プレゼンスを高めるために今後どのような道を模索すべきか。インターネット協会理事長で(株)ブロードバンドタワーCEOの藤原洋氏がデータ・マックスに語る、現実的かつ力強い日本再生論。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

国富の源泉はテクノロジーの理解と活用

(株)ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO 藤原 洋 氏
(株)ブロードバンドタワー
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋 氏

    私は、経済を発展させ国を豊かにするものはイデオロギーではなくテクノロジーであると考えています。私自身がもともと科学技術系の人間であるということもありましょうが、各国の歴史的事例をみてもそれは明らかです。かつて英国を大国にしたものは18世紀に進行した産業革命ですし、アメリカも19世紀から20世紀にかけて、主に鉄鋼業の領域で産業革命を押し進めました。スコットランド移民のアンドリュー・カーネギーが鉄鋼業を育て、ロックフェラーが石油資源を活用した巨大な産業をつくった。そして、ヘンリー・フォードに代表される自動車産業。これが戦後のアメリカの豊かさと覇権の礎となったことは疑いを容れません。

 つまり、国や企業のリーダーがテクノロジーの本質を正しく理解し活用することで、その国の経済は大きく発展するわけですね。日本もそうでした。戦後、アメリカに追いつけ追い越せと官民一体で技術革新を重ね、1989年には世界の企業の時価総額トップ50のうち30を日本企業が占めるまでになりました。中国も同じです。鄧小平氏以来、テクノロジーの重要性を指導者が理解し、それを政策に反映していったからこそ、目覚ましい経済発展を遂げたのです。このテーゼに国家のイデオロギーは関係ないことは明らかと思います。

イデオロギー対立は問題のすり替え

 アメリカは昨今、中国にイデオロギー戦争のようなものを仕掛けていますけれども、その本質は経済競争なのだと私は思います。21世紀に入り、中国が日本に代わる経済大国としてアメリカの前に立ちはだかってきた。GDPをぐんぐん伸ばし、あっという間に日本を追い越して、いまやアメリカに迫っている。こうしたことからアメリカは中国をライバルとみなすようになり、その勢いを減じるための策をあれこれ講じ始めたわけです。トランプ政権で中国企業の締め出しをやりましたが、最近バイデン政権が開催した「民主主義サミット」もそのバリエーションに他なりません。どのような基準で招待国を選んだのかわかりませんが、ともかく民主主義陣営で団結して中国に対抗するという構図をつくったのですから。「自由」と「人権」の理念は、そこでは経済をめぐる対抗意識に根ざす、1つの方便として用いられていることがわかります。

 我が国は最近、アメリカに同調して露骨な中国批判を行い、敵意をかき立ててきました。まずは「2プラス2」。防衛大臣と外務大臣を2人ずつペアにして設けられた対話の枠組みですけれども、日本はそこで名指しの中国批判をやりました。韓国もアメリカと「2プラス2」を行いましたが、やはり中国に対する経済依存が大きいためでしょう、文在寅政権は中国を名指しで批判することはしませんでした。それで日本はすっかり目立ってしまい、中国から批判を浴びることになったのですね。さらに「クアッド」――日米豪印の非公式な軍事同盟の枠組みですね―でも、日本は豪印の慎重さとは対照的に、アメリカと一緒になって反中国のポジションを鮮明にしすぎ、日中関係をますます悪化させてしまいました。これは、あまりに外交下手とはいえないでしょうか。

(つづく)

【文・構成:黒川 晶】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:藤原 洋
所在地:東京都千代田区内幸町2-1-6
設 立:2000年2月
資本金:33億4,500万円
売上高:(20/12連結)160億7,700万円
URL:https://www.bbtower.co.jp


<プロフィール>
藤原 洋(ふじわら・ひろし)
 1954年生まれ、福岡県出身。77年京都大学理学部卒業。東京大学工学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エム(株)、(株)日立エンジニアリング、(株)アスキーを経て、96年12月、(株)インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、2012年4月、(株)ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。現在、(一財)インターネット協会理事長、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授、SBI大学院大学副学長を兼務。11年4月(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学評議会評議員、13年12月総務省ICT新事業創出推進会議構成員、14年1月同省電波政策ビジョン懇談会構成員、16年10月同省新世代モバイル通信システム委員会構成員、18年12月から同省デジタル変革時代のグローバルICT戦略懇談会構成員に就任。
【主な著書】1998年『ネットワークの覇者』日刊工業新聞社、2009年『科学技術と企業家の精神』岩波書店、10年『第4の産業革命』朝日新聞出版、14年『デジタル情報革命の潮流のなかで~インターネット社会実現へ向けての60年自分史~』アスペクト、16年『日本はなぜ負けるのか~インターネットがつくり出す21世紀の経済力学~』インプレスR&D、2018年『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』PHP研究所、『数学力で国力が決まる』日本評論社 ほか多数。

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