【鮫島浩・特別寄稿/2022政界徹底解読】ポイントは「安倍・麻生」盟友関係の軋み 二大キングメーカーの狭間で岸田政権長期化も(前)
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ジャーナリスト 鮫島 浩 氏
自民党は昨年の衆院選目前、菅義偉首相を引きずり下ろして岸田文雄首相にすげ替える「疑似政権交代」を演出して圧勝し、自公連立政権を維持した。立憲民主党は共産党などとの「野党共闘」で対抗したものの惨敗し、枝野幸男代表が辞任して47歳の泉健太氏が新代表に就いた。第三極の日本維新の会は衆院第三党に躍進し、立憲民主党に蹴落として野党第一党の座をうかがう勢い――与野党トップが入れ替わった日本政界。第二次安倍政権が発足して以来の大きな地殻変動が進行しつつある。今夏の参院選に向けて政局はどう動くのか。ここに至る流れを総括し、今後の行方を展望する。
岸田政権誕生への道
憲政史上最長の7年8カ月におよんだ安倍政権の基軸は、安倍晋三氏と麻生太郎氏の盟友関係だった。共通の政敵である石破茂氏を封じ込めるため首相と副総理兼財務相として手を結び、政界に君臨した。二階俊博氏を幹事長に、菅義偉氏を官房長官に起用して政権運営したものの、両氏は結託して主導権を渡さなかった。
ところが、安倍首相は2020年9月、「コロナ失政」で支持率が低迷し、体調不良を理由に退陣に追い込まれる。安倍・麻生両氏は自分たちに従順な岸田氏を後継に据えることを目論んだが、二階氏が石破氏擁立の動きをみせると「石破氏と岸田氏の一騎打ちでは勝てない」と判断し、二階氏と「菅政権」で折り合った。策士・二階氏にしてやられたのである。
菅政権では二階氏が幹事長として権勢を誇り、安倍・麻生両氏は不満が募る日々となった。その菅政権がまたしても「コロナ失政」で支持率が低迷すると、安倍・麻生両氏は21年9月の自民党総裁選にむけて岸田氏を後押しし「菅おろし」を仕掛けた。菅氏は二階氏の幹事長交代を表明してまで安倍氏の支持を得ようとしたが、安倍氏は黙殺。菅氏は退陣を決意し、国民的人気の高い河野太郎氏を後継に担いで安倍・麻生両氏に対抗する道を選んだ。
河野氏は麻生派のホープである。河野政権が誕生すれば麻生派の代替わりが一気に進み、麻生氏は「過去の人」となる。安倍氏も世代交代の歯車が回ることは避けたかったため、安倍・麻生両氏は河野政権阻止で結託した。安倍氏は極右的な政治信条を共有する高市早苗氏(無派閥)を、麻生氏はハト派の宏池会(岸田派)会長・岸田氏を担いで左右から河野支持の党員票を切り崩し、決選投票に持ち込んで2・3連合で河野氏勝利を阻む戦略に出た。
安倍氏を強固に支持する極右言論人やインターネットで左派攻撃を展開する「ネトウヨ」は高市氏を熱狂的に支持。安倍氏は背中を押されるように高市氏支持へ傾倒する。麻生氏は業界団体など旧来の自民支持層を岸田支持で固めることに奔走した。一方、河野氏は安倍・麻生両氏との対決姿勢を鮮明にできず、持論の脱原発や女性天皇問題で譲歩して失速。第1回投票から岸田氏にトップを譲る大惨敗を喫した。
この自民党総裁選は、安倍氏が高市氏、麻生氏は岸田氏、菅氏は河野氏、二階氏は野田聖子氏を支援し、安倍・菅政権を牛耳ってきた4長老の支持が見事に分散するかたちとなった。安倍・菅政権を支えた権力構造の崩壊を物語っているといえよう。総裁選に敗れた二階氏と菅氏は完全失脚し、河野氏と彼を支持した石破氏や小泉進次郎氏も居場所を失った。安倍氏と麻生氏という2人のキングメーカーが岸田政権を支配する時代が始まったのである。
麻生氏の1人勝ち
政治というものは摩訶不思議である。共通の敵が姿を消した途端、安倍氏と麻生氏の盟友関係が軋み始めたのだ。安倍氏は高市氏を幹事長に、最側近の萩生田光一氏(安倍派)を官房長官に推薦したが、ともに実現しなかった。代わって幹事長に就任したのは麻生派重鎮の甘利明氏である。官房長官には安倍派の松野博一氏が起用されたが、松野氏は甘利氏の派閥横断的グループに属し、安倍氏というよりは甘利氏に近かった。自民党の要である幹事長と、内閣の要である官房長官を「安倍人脈」ではなく「麻生・甘利人脈」で固めたことは、岸田政権が安倍氏よりも麻生氏の「傀儡(かいらい)」であることを明確に示すものであった。
最大派閥・清和会(安倍派)を率いる安倍氏が無役にとどまったのに対し、第二派閥・志公会(麻生派)を率いる麻生氏は自民党副総裁に就任。閣僚20人中13人が初入閣という超軽量級内閣の政府よりも、麻生副総裁―甘利幹事長の麻生派ラインが牛耳る自民党が圧倒的に強い「党高政低」型の政権が誕生したのである。安倍政権下の「官邸主導」はすっかり色あせた。
そのうえ、安倍氏と対立を重ねた福田康夫元首相の長男で当選3回だった福田達夫氏(安倍派)を自民党総務会長に抜擢したことは、安倍氏への強い牽制となった。清和会は「安倍派」と「福田派」の抗争の歴史がある。安倍氏に近い下村博文氏や萩生田氏、西村康稔氏、稲田朋美氏らはいずれも決め手に欠け、安倍派は後継者不在が大きな課題だったが、福田氏が総務会長に抜擢されて一気に派閥継承者の有力候補に浮上したことは、安倍氏の派閥内の求心力を削ぐ効果が十分にあった。安倍氏の意向を無視したこれらの人事を第五派閥・宏池会(岸田派)の岸田首相が独断で決定できるはずがない。もう1人のキングメーカーである麻生氏の了解なくして断行することは到底無理である。
衆院選の公認争いでも安倍氏は思わぬ苦戦を強いられた。清和会重鎮だった尾身幸次氏の長女・朝子氏が現職でありながら群馬1区の公認争いで中曽根康弘元首相の孫康隆氏(二階派)に敗れた。安倍氏の地元の山口3区には安倍氏の長年の政敵である林芳正氏(岸田派)が参院から鞍替え出馬し、現職の河村建夫氏(二階派)を制して公認を得た。いずれも安倍氏の影響力低下を強く印象づけることになった。極め付きは、衆院選小選挙区で敗北した甘利明氏に代わって幹事長に就任した茂木敏充外相の後任に、林氏を起用した人事である。林氏は岸田派ナンバー2で、派閥内では岸田氏より有望視されてきた。衆院へ鞍替えした直後に外相に抜擢され、「ポスト岸田」の有力候補に急浮上したのだ。
安倍氏は林氏の外相人事に露骨な不快感を示している。山口県では一票の格差是正にともない次期衆院選で選挙区が4から3に減り、安倍氏か林氏が比例区に押し出される可能性がある。地元では林氏の勢力が勝り「安倍氏は総理を終えた。次は林氏を総理に」との声も強い。林氏が「ポスト岸田」の有力候補に踊り出たことで安倍氏の立場はますます弱まっている。
岸田政権の人事をみるにつけ、21年秋の総裁選―衆院選の政局を制したのは、麻生氏であったといえよう。二階氏や菅氏らは次々に失脚して安倍氏の影響力も陰り、麻生氏1人勝ちの様相を呈しているのだ。なかでも林氏の外相抜擢は、安倍氏の政治基盤を弱体化させる強烈な人事であった。安倍氏が憤慨する人事を岸田首相が独断で行えるはずがない。「安倍外し」はもう1人のキングメーカーである麻生氏の意向に従って着実に進められている。麻生氏はどんな政局を思い描いているのか。分析を続けよう。
(つづく)
<プロフィール>
鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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