最先端を走る企業、今の時代に欠かせない「挑戦」の秘訣（前）

（株）APIコンサルタンツ　松本 洋 氏

「官民一体」で産業改革を実現する米国

    ──いつの時代でも強い経営を行うための戦略的な実践論をお聞かせください。

　松本洋氏　企業マネジメントのコンサルタントやM&Aを手がける（株）APIコンサルタンツを2011年に設立するまでに、1999年から5社を起業してきました。94年からは1,000億円で買収したナショナル・スチール社が累積800億円の赤字を出したため、代表取締役副社長（COO）として派遣されました。そして、その再建を成功させて99年に帰国しました。

　76～99年に在籍していた日本鋼管（株）（現・JFEスチール（株））では、86年から8年間ワシントンD.C.に駐在し、「鉄鋼のダンピング戦争」が起こるなか、米国の政治・経済情報を本社に届けるとともに、米国の競合企業と渡り合えるようにロビイストとして議員やエコノミストにアプローチし、日本政府と連携して、日米摩擦の緩和に貢献しました。当時は「東芝機械ココム事件」、トヨタ自動車（株）のディーラーでの人種差別問題、住友商事（株）のセクハラ問題などが起こっていました。『BUYING INTO AMERICA』（日本がアメリカを買い占める）というトルチン教授夫妻による日本人黄禍論の本まで88年に出版されました。

　日本では官僚が法案をつくっていますが、米国で実質的に法案をつくっているのは、弁護士事務所や政治家、官僚、シンクタンク、大学教授とつながりがあるロビイスト事務所です。企業はロビイストをコントロールしていますが、ロビイスト事務所は議員の政治生命を一手に握っているため、議員はロビイストの意見を聞かざるを得ません。

　当時はバブル崩壊前であり、日本企業はロックフェラー・センターなど米国の多くの不動産を買い占めるほどの勢いがありました。それを見た米国企業は「米国の国益のため」という名目でロビイストを動かして、米国に技術や商品を提供している日本企業に対するバッシングを主導し、米国企業にとって有益になるように法律を変えました。

　たとえば、米国通信企業モトローラの当時の常務は、米国通商代表部（USTR）と密接なつながりをもっており、まさに「官民一体」となっていたのです。USTRやCIT（国際貿易裁判所）で、モトローラの雇った弁護士が働いていました。日本も国を挙げて大きな産業改革を目指すのであれば、米国企業の姿勢を見習い、日本企業が国際取引をしやすいよう法律を変えていくべきではないでしょうか。

　またワシントンでは、鉄鋼業界での経験やノウハウを生かし、民主党系のシンクタンク、ブルッキングス研究所で客員フェローを3年間務めました。共和党系のシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所やフーバー研究所などとともに、米国ではシンクタンクは富裕層の寄付で運営されています。

　一方、日本は相続税が高く、富裕層が海外に財産を移しがちであるため、寄付制度がほとんど機能していないことが課題です。富裕層が財産を日本に戻したくなるように税制度を改正して、篤志家が財産を寄付することで社会を活性化できる制度づくりが必要です。

（つづく）

【文・構成／石井　ゆかり】

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＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：松本　洋
所在地：東京都港区白金台5-22-12
設　立：2011年8月
資本金：4,000万円
ＴＥＬ：03-6277-3730
ＵＲＬ：https://www.api-c.co.jp

＜プロフィール＞
松本　洋（まつもと　ひろし）
1951年生まれ。APIコンサルタンツ（株）代表取締役社長。東京大学法学部卒業。米国コロンビア大学MBAおよび法学修士取得。日本鋼管（現・JFEスチール）の米子会社ナショナル・スチールを上席副社長（COO）として再建し、通信革命を起こしたKVHテレコムや間接材コストの削減をEコマースで手がけるアルファーパーチェスを創業、代表取締役を歴任。米・企業再建コンサルのアリックス・パートナーズ日本代表や米国の6兆円ファンドであるアドベント・インターナショナルの日本代表に就任。主な著書に『なぜ、誰もあなたの思い通りに動いてくれないのか』（ダイヤモンド社）、『他責病にサヨナラ』（エムオン・エンタテインメント）。