2024年11月23日( 土 )

コロナ禍の店舗経営で気づく変化 需要と人間関係におけるトランジションとは?(前)

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(株)一平ホールディングス
代表取締役社長 村岡 浩司 氏

 「九州パンケーキ」を手がける(株)一平ホールディングス代表取締役社長・村岡浩司氏は宮崎県出身の生粋の九州人。九州を愛し、九州とともに生きる村岡氏は著書『九州バカ 世界とつながる地元創生起業論』(2018年4月)を上梓するなど、九州への強いこだわりを見せる。なぜ「宮崎」ではなく「九州」を掲げるのか。九州の今をどのように見ているのか。村岡社長に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 緒方 克美)

各県ではなく「九州」で戦う

(株)一平ホールディングス 代表取締役社長 村岡 浩司 氏
(株)一平ホールディングス
代表取締役社長 村岡 浩司 氏

    ──村岡社長が九州にこだわる理由は何でしょうか。

 村岡浩司氏(以下、村岡) 現在の九州は東京などの都市圏に向けて、市場(マーケット)を取り合う産地間競争が続いている状態です。たとえば、宮崎のマンゴーが全国的に有名になったのを見て、九州のほかの県でも生産が開始されましたが、次第に価格競争が激化していきました。ほかの生産地との差別化を図るための1つの手段として勃発するのですが、これではせっかく良い物をつくった農家の方が利益を得られず、誰も得をしません。宮崎は宮崎、福岡は福岡といった県境による地元意識ではなく、九州という1つの同じ島としての意識で捉えられていれば、マンゴーの生産は宮崎に任せ、他県はほかの部分に力を入れることができたのではないかと思います。九州には1,400万人もの人々が住んでいて、そこには土地ごとに輝く魅力がちりばめられていますから、ほかの得意ジャンルを見つけ、十分戦うことができるはずです。

 ──現在の海外のマーケットはいかがでしょうか。

 村岡 台湾の場合、すでに世帯あたりの可処分所得は九州を超えています。富裕層のマーケットとはいえませんが、九州で売れるものは台湾で売れるということを示しています。日本の経済はこの20年間停滞していますが、島国ということもあり、周辺諸国との相対比較はしてこなかったと思います。しかし、いざ目を向けてみると、アジア諸国の富裕層ではなく、中間層が九州の食を買いに来ることができる。そのような時代がやってきたと捉えています。

 当社の台湾のカフェは3店舗ありましたが、コロナ禍によって現在1店舗となってしまいました。その一方で、輸出自体は過去最高を記録しています。コンテナ単位で手配しなければ間に合わないような状態で、物流の乱れやコストの高騰によってうまくいかないところも出てきましたので、そこは課題と捉えています。また、現地に行かないと商談やプロモーション、販路開拓、商品開発などが難しく、離れた場所からでは現地の方々の需要に合わせたものを提供できません。ただ、我々の場合は現地にパートナーがいますので、国境を感じることなくニーズをつかめていると思います。

九州パンケーキCafe
九州パンケーキCafe

    ──現在、「九州」というブランドの浸透度はどの程度だと思われますか。

 村岡 私たちは「九州アイランド」というプロジェクトを立ち上げ、2021年5月からはクラウドファンディングサイト「マクアケ」で26の企画をリリースしています。すべてが100%を達成していて、ここだけで3,000万以上の流通が生まれています。福岡県うきは市の75歳以上の女性が働くうきはの宝(株)が運営する「ばあちゃん食堂」発の万能調味料「万能まぶし」や、イノシシをはじめとした野生動物問題に取り組む農家ハンターのジビエ加工品、宮崎県椎葉村で生産される「平家キャビア」など、九州各地から参加した人が「九州」というくくりのなかで新たなプロジェクトを続々と生み出し、戦っている姿が見られます。

 現在、プロジェクトのグループSNSなどで150人近くの九州の経営者とつながっていますが、沖縄や離島を含め、九州のなかで大小関係なく、横断的に関係性が構築されているのではないかと感じます。「みんなでものづくりをしていこう」という考え方でつながっていますが、複数の県で構成される広域経済圏や文化圏をローカルビジネスの文脈でつなぐというのは珍しいことではないでしょうか。この盛り上がりはさらに高まっていくと思います。

コロナ禍は時代の変化を露呈させた

 ──コロナ禍はパラダイムシフトのきっかけになるという見方もありますが、村岡社長はどのように考えられますか。

 村岡 「居住する場所」が急激に都会から九州へシフトするとは思っていません。ただ、九州内での流動性は高くなっているため、九州の地域間での移住であれば可能ではないかと考えています。新幹線なら福岡から鹿児島まで2時間で行けるようになるなど、交通面の整備がかなり進んでいますし、観光という面ではマイクロツーリズムが人気になり、郊外レジャー施設の人気が高まっていることを肌で感じます。最近では、上天草や人吉の球磨川下りスポットの駐車場が週末には満車になっていることも多いです。

 郊外の店舗となると顧客へのアプローチ方法を考えなければなりませんが、最近では多くの人がGoogleマップを使うため、立地の問題はあまり関係ないようになってきたと思います。中規模以上の企業にしかできなかった事業範囲に、中小零細企業が県の境目なく進出できる可能性に期待感を抱いています。コロナ禍はもう少しだけ続くと思いますが、コロナへの警戒レベルが高いときは宮崎県内だけで、比較的落ち着いている状況のなかでは九州圏内に規模を広げて楽しむ。こうして徐々に国内観光が活発になっていくのではないかと考えています。

(つづく)

【文・構成:杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:村岡 浩司
所在地:宮崎市高岡町小山田字麓973-2
設 立:2019年3月
資本金:1,500万円
URL:https://ippei-holdings.com


<プロフィール>
村岡 浩司
(むらおか こうじ)
1970年生まれ、宮崎市出身。“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念に掲げ、九州産の農業素材だけを集めて作られた「九州パンケーキミックス」をはじめとする「KYUSHU ISLAND®/九州アイランド」プロダクトシリーズや「九州パンケーキカフェ」を国内外に展開。九州・沖縄で連携、ものづくり産業を支援する共創・共同体マーケティング「九州アイランドプロジェクト」の運営リーダー。ハチドリ電力九州顧問、テラスマイル(株)社外取締役、くまもと農家ハンター顧問、アトツギU34メンター、ONE KYUSHUサミット代表発起人などコミュニティー活動にも取り組んでいる。

(後)

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