都市間戦争の目玉は空港移転? 24時間化で首都機能の受け皿に(前)
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福岡大学工学部社会デザイン学科
教授 柴田 久 氏
(株)R.E.D建築設計事務所
代表取締役 赤樫 幸治 氏
(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘 氏「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」をはじめ、都心部を中心とした市内各地で複数の再開発プロジェクトが進行している福岡市。全国的にも疲弊していく地方都市が多いなか、人口増を背景にいまだ成長を続けている福岡市は、これからどのような方向性で都市開発を進めていくべきなのだろうか。マクロからミクロな視点まで、都市開発やまちづくりについて造詣の深い3人に語り合ってもらった。
進む再開発のなかで何を残していくべきか
──現在、都心部をはじめとした各地で再開発の動きが進んでいますが、そうした福岡のまちの現状については、それぞれどのように見られていますか。
下川弘氏(以下、下川) 今は天神ビッグバンや博多コネクティッドといった大規模な再開発プロジェクトが進められていて、ビルの建替えにより、中心部の様相が一変しようとしています。新たなビルが開発されることによって、中心部に一定の活気や賑わいが創出されることが期待されており、それ自体は良いことなのだと思う一方で、再開発によってその時代を象徴する建物がなくなってしまうのはいかがなものか、という懸念も抱いています。たとえば、博多駅前にあった西日本シティ銀行の本店ビルなんかは、建築家・磯崎新氏の有名な作品でもあり、外壁全面に茶褐色のインド砂岩を張りめぐらせた斬新なデザインの重厚感ある外観が特徴的で、長らく博多駅前のランドマーク的な存在でしたが、すでに解体されてしまいました。再開発の進行とともに、昭和や平成を象徴する建物、都市の文化が失われていってしまうのは、何だか寂しい感じもします。
赤樫幸治氏(以下、赤樫) 私個人としては目の前の設計実務に追われて、ちょっと立ち止まって都市の現状について振り返る機会はなかなかなかったのですが、今おっしゃった西日本シティ銀行・本店ビルのようなケースは、たしかに「もったいない」という気持ちになりますね。ただ、天神ビッグバンなどは全国から注目を集めていて、外から見ると「福岡って元気があるなぁ」「福岡って魅力的だなぁ」という意見も少なからず聞こえてきますし、今の福岡市は都市としての勢いは感じられるのではないでしょうか。
柴田久氏(以下、柴田) おっしゃるように、やはり評価すべきところは多いと思います。全国的に人口が減少していくなかで、地方都市でこれだけ元気が良いまちというのは、他に類を見ません。まちの勢いを「スピード感」をもって維持、向上させる、活力ある都市づくりの取り組みが全国に先駆けていろいろと進められていますが、これは評価すべきポイントだと思います。
その一方で、福岡の人たちはやはり「新しいもの好き」な面があると思いますが、そのなかで先ほどの下川さんのお話にあったように、都市の文化としての建築物をいかに守っていくのか、ということは私も心配しているところです。何でもかんでも新しいものに刷新していくことで、従来あった“福岡らしさ”をなくすことにならないよう、留意していく必要があると思います。どこで線引きするのかは難しいのですが、残すべき建物と、そうじゃない建物というのは、やはりあると思います。単純に長い年月が経っていれば価値が高いかといえばそうでもなくて、逆に築年数が短くても残すべき建物はあります。大名小学校跡地再開発では旧校舎を保存・活用することが決まっていますし、箱崎キャンパス跡地でも一部建物が残されています。再開発を進めるなかで、都市としてどの建物を戦略的に残していくのか、その見極める作業自体が結構重要になってくると思います。
コロナ禍の前後で変わる都市開発の意義
──コロナ前とコロナ後とで、都市開発の在り方のようなものが、ガラッと変わってしまった印象を受けます。
柴田 天神ビッグバンも博多コネクティッドも当初は、建替えによって床面積を増やすことで人が集積でき、ビジネスができる場所を増やし、それを都市の活力や賑わいにつなげていこうというものでした。しかし、コロナ禍を契機にテレワークなどが普及してくると、単純に「床が増える=都市の活力・賑わいにつながる」という考え方は、もしかしたらもう古くなってきているかもしれません。
ただし、都心の位置づけとか価値というものは、やはりそんなに変わらないのではないかとも思っています。とはいえ、これまでのように単なる仕事をするためだけの場所として都心に集まるのではなく、「都心に行くといろいろな人に会える」とか「さまざまな文化と出会える」「いろいろとアイデアを生み出せる」といったように、仕事以上の付加価値をどれだけ見出せるかというのが、今後の都市開発のなかでのポイントになるのではないでしょうか。
──個々の建築物の設計において、コロナ禍での変化などはいかがですか。
赤樫 新型コロナの感染拡大の当初から、「現行の生活スタイルが変わる」みたいな話が出ていたと思いますし、たとえばマンションの間取りのなかで、「テレワークができる書斎スペースを確保しよう」みたいな提案も行ってきました。ですが実際のところは、やはり分譲マンションなどはいろいろな方が買いに来られるので、ベースプランとして最初から盛り込むのではなく、個々のお客さんのニーズに応じて、設計変更で対応するケースがほとんどです。
(つづく)
【坂田 憲治】
<プロフィール>
柴田 久(しばた ひさし)
1970年、福岡県生まれ。福岡大学工学部社会デザイン工学科教授。博士(工学)。2001年、東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻博士課程修了。専門は景観設計、公共空間のデザイン、まちづくり。カリフォルニア大学バークレイ校客員研究員などを務め、南米コロンビアの海外プロジェクトや九州を中心に、四国、東北を含む約50の公共空間整備、地域活性化に向けた事業、計画、デザインの実践に従事している。赤樫 幸治(あかがし こうじ)
1993年、立教英国学院(イギリス)高等部卒業。97年、日本大学生産工学部建築工学科神谷宏治・川岸研究室卒業後、(株)穴吹工務店設計部入社。2009年7月に(株)R.E.D建築設計事務所設立。下川 弘(しもかわ ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻課程修了。工学修士。一級建築士。専門は、建築計画・都市計画・まちづくり・教育部門。87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。本社建築設計部、技術本部、経営企画部、ベトナム現地法人VINADECOのGMなどを経て、21年11月末に退職。現在は(株)アクロテリオンを設立し、代表取締役を務める。ほかにC&C21研究会・理事やハートフルリンクアジア協同組合・代表理事、TOKYO BASE 096・幹事、熊本市企業誘致アドバイザーなど。
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