2024年12月23日( 月 )

都市間戦争の目玉は空港移転? 24時間化で首都機能の受け皿に(中)

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福岡大学工学部社会デザイン学科
 教授 柴田 久 氏
(株)R.E.D建築設計事務所
代表取締役 赤樫 幸治 氏
(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘 氏

 「天神ビッグバン」や「博多コネクティッド」をはじめ、都心部を中心とした市内各地で複数の再開発プロジェクトが進行している福岡市。全国的にも疲弊していく地方都市が多いなか、人口増を背景にいまだ成長を続けている福岡市は、これからどのような方向性で都市開発を進めていくべきなのだろうか。マクロからミクロな視点まで、都市開発やまちづくりについて造詣の深い3人に語り合ってもらった。

波及効果を広げるための交通ネットワークの再編

 柴田 私は、以前より都市開発やまちづくりにおいては、「波及効果」というキーワードが非常に重要だと思っています。今の天神ビッグバンや博多コネクティッドでも、新たにできる建築物は「点」の存在であって、その点だけに人が集まるだけでなく、そこを中心にいかに周りに波及効果を広げていけるかという観点で、都市開発・まちづくりを進めていかなければなりません。そういう意味では、その点と点を結ぶ「線」、さらには「面」的な整備をどうしていくかも重要です。

(株)R.E.D建築設計事務所 代表取締役 赤樫 幸治 氏
(株)R.E.D建築設計事務所
代表取締役 赤樫 幸治 氏

    赤樫 個々のマンションの場合は収益性重視というところもありますので、周りへの波及効果まで考えていくのは、なかなか難しいところはあります。ただ、21年9月に完成した「トラストレジデンス基山」(佐賀県基山町)の設計・監理を担当させていただきましたが、この物件では基山町を巻き込むかたちで、官民連携によるまちづくりおよび地域振興へ寄与する建物となるような工夫を凝らしました。具体的には、建物1階部分に保育施設を併設し、若い住民を呼び込むだけでなく、地域の子育て支援にも役立ててもらおうというものです。こうしたまちづくりの観点を取り入れた、それこそ周囲への波及効果にも留意した設計には、今後も機会があればぜひ取り組んでいきたいですね。

 ──大きなくくりで都市とはいうものの、結局のところは1つひとつの建築物の集合体ですからね。理想論でいえば、そうした周囲への波及効果まで考えられた建築が増えていくことで、都市全体の魅力も向上していく気がします。

 下川 先ほど柴田先生が「点と点を結ぶ」とおっしゃっていましたが、天神と博多を考えると、どうしてもまだまだ双方の点同士が競争してしまっている感じを受けます。都市計画の観点からいくと、どうやって天神と博多を結んでいくのかと、人の流れを考えながらまちづくりをしていかなければなりません。そのためには、やはり交通ネットワークが非常に重要だと思います。

 たとえば福岡ではバスが便利ですが、現状では天神と博多の両方に大型のバスターミナルがあり、長距離バスなどはどちらにも必ず停まるので、それが天神と博多間の交通渋滞の要因にもなっており、本末転倒というかおかしな話です。地下鉄も便利ですが、何万人という多くの人々が訪れるPayPayドームやベスト電器スタジアムなどには地下鉄の駅が通っていません。そうした交通ネットワークを、もう一度整理すべきじゃないかと思います。都市高速道路についても、今の環状線だけでなく、朝夕の交通渋滞や防災時の移動などを考慮し、さらに二重、三重の環状線のネットワークをつくるべきだと私は思っています。

 赤樫 たしかに、福岡の交通ネットワークの脆弱性みたいなことは以前から指摘されていましたし、とくに都心部を車で通過するのに要する時間は、全国の大都市のなかでもワーストではなかったかと思います。

 下川 都心の周辺部あるいは郊外に大規模な駐車場やバスターミナルをつくり、そこからパーク&ライドで都心部に向かう、そうした大胆な仕組みなども考えていかなければ、今の交通渋滞の解消は難しいのではないでしょうか。

 柴田 今、全国的にも「ウォーカブルなまちづくり」「歩いて楽しいまちづくり」などをどう進めるべきか、という話が出てきています。交通ネットワークの再編も考えながら、回遊性があって歩いて楽しいまちづくりを行い、そこに都市の賑わい創出をどうリンクさせていくかを考えることが、福岡においてはとくに重要になっていくように思います。

(つづく)

【坂田 憲治】


<プロフィール>
柴田 久
(しばた ひさし)
1970年、福岡県生まれ。福岡大学工学部社会デザイン工学科教授。博士(工学)。2001年、東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻博士課程修了。専門は景観設計、公共空間のデザイン、まちづくり。カリフォルニア大学バークレイ校客員研究員などを務め、南米コロンビアの海外プロジェクトや九州を中心に、四国、東北を含む約50の公共空間整備、地域活性化に向けた事業、計画、デザインの実践に従事している。

赤樫 幸治(あかがし こうじ)
1993年、立教英国学院(イギリス)高等部卒業。97年、日本大学生産工学部建築工学科神谷宏治・川岸研究室卒業後、(株)穴吹工務店設計部入社。2009年7月に(株)R.E.D建築設計事務所設立。

下川 弘(しもかわ ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻課程修了。工学修士。一級建築士。専門は、建築計画・都市計画・まちづくり・教育部門。87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。本社建築設計部、技術本部、経営企画部、ベトナム現地法人VINADECOのGMなどを経て、21年11月末に退職。現在は(株)アクロテリオンを設立し、代表取締役を務める。ほかにC&C21研究会・理事やハートフルリンクアジア協同組合・代表理事、TOKYO BASE 096・幹事、熊本市企業誘致アドバイザーなど。
 

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