バイデン大統領をも手玉に取り世界制覇を狙うイーロン・マスク
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は2月18日付の記事を紹介する。イーロン・マスクといえば、リコール問題があるにせよ、電気自動車「テスラ」の製造販売で世界1の地位にある。また、「スペースX」を通じて宇宙ロケットビジネスにも挑戦し、将来は火星にコロニーを建設するとも息巻いている。
実は、スペースXは2024年までに航空機産業を飲み込む戦略を秘めており、従来の飛行機をスペースXの「スターシップ・ロケット」に取って代わらせることで、地球上のどこにでも40分以内に移動できるようにするとのこと。しかも、燃料はクリーンなメタン(CH4)を使うので、環境に負荷をかけないらしい。
さらには、人の脳と人工知能(AI)を合体させる「ニューラリンク」という未来ビジネスも立ち上げた。これは人間の身体を直接インターネットと結ぶ(IOB)計画にほかならない。すでに豚や猿を使った動物実験を重ねており、22年には人体実験に入るという。人の髪の毛の10分の1以下の薄いワイアを脳にはめ込むことで、記憶力や五感の感覚を飛躍的に向上させるという触れ込みである。
こうした新規事業を実現するうえで、政治を味方につけることが重要となる。マスクはトランプ前大統領と一時は親密な関係となり、ホワイトハウスで開催される大統領諮問委員会のメンバーにも就任していた。環境問題やエネルギー政策に助言をすることになったのだが、トランプ氏がパリ協定から離脱したのみならず、電気自動車への支援策を講じようとしないため、袂を分かつことになった。そして、トランプからバイデンに乗り換えたのである。
バイデン候補の選挙事務所の資金集めの責任者にテスラの幹部を送り込むなど、バイデン大統領の誕生に向けて、水面下で支援を惜しまなかった。その甲斐あって、バイデン新政権からは電気自動車の普及に欠かせない充電設備やインフラ整備の予算を勝ち取ることに成功。何しろ、バイデン大統領が掲げる2兆ドルの社会インフラ整備予算の大半がマスク関連と言っても過言ではないからだ。
環境対策の面からも、アメリカでも中国でも電気自動車の普及は確実視されている。「40年までに電気自動車の占める比率は現在の4%から70%に伸びる」と予測されているほどである。バイデン政権では政府の公用車をはじめ、消防車、救急車、郵便配達車などもすべて電気自動車に変える方針を打ち出している。
そんな資本主義の権化のようなマスクだが、18年6月、自らのTwitterで「自分は社会主義者だ。真の社会主義とは万人のために尽くすこと」と宣言し、続けて「マルクスは資本主義者だった。そんな本を書いていただろう」と勝手気ままな解釈をぶちまけた。
加えて、「だいたい自分で社会主義者と言っているような連中は性格が暗くて、ユーモアのセンスがない。自分は国の税金を皆が喜ぶような事業に生かすことのできる真の社会主義者だ」と自己PRに余念がない。しかも、「将来、火星に移住し、コロニーを建設する予定だが、そこでは真に平等な社会を目指す」とまで発言。
そんなマスクが新たに立ち上げたニューラリンクの究極の狙いは「人間のサイボーグ化」と言われている。30年代までには体内にマシーンが当たり前のように装着されるというわけだ。思考を司る脳の一部である外皮をクラウドと接続する実験も進んでいる。
現在もパーキンソン病の患者は脳内にコンピューターを埋め込むことで、治療に活路が見出されてきているが、30年代には脳内に埋め込んだチップで記憶力も判断力も格段に強化されることになるらしい。
カリフォルニア大学での動物実験を経て、間もなく人への応用実験が始まる。すでにアメリカの食品医薬品局からは「革命的なデバイス」とのお墨付きを得ている。ニューラリンクの技術を使えば、人は埋め込まれたチップから直接、音楽を聞くこともできる。ホルモンの分泌も思いのままだ。そうすれば、不安心理も解消できるし、うつ病など過去のものになるという。
とはいえ、アメリカの医療従事者の間では懸念も出ている。17~20年に行われたニューラリンクの実験において、深刻な動物虐待があったとの告発が農務省に出されているほどだ。それによれば、実験に使われた23匹の猿に対しては十分なケアが施されておらず、過度の苦痛が発生していたらしい。カリフォルニア大学の側では事態を重く受け止め、検証委員会を立ち上げ、問題点を精査することになったという。
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ポストコロナ時代の新薬開発は血液ビジネスがリードする!?いずれにせよ、新たな生命の在り方を模索するビジネスが進んでいることは間違いない。人体のサイボーグ化に関しては軍事的観点からの研究が世界各地で進んでいる。いわゆる「ロボット兵士」であり、「サイボーグ戦闘員」にほかならない。飲まず食わず、睡眠も休息も必要としないうえに、行動力や判断力も人間の比ではない「優れもの」というわけだ。
どこまで実現するかは定かではないが、人間が自然な人間であり続けることが難しい時代が迫っていることは間違いないだろう。今や世界1の大富豪の座を手にしたイーロン・マスクである。彼が目標として掲げる「50年までには火星に移住する」との夢を実現するうえでも、想定外の環境を生き抜く「人体のサイボーグ化」は必要不可欠なのかもしれない。
注目すべきは、そんなマスクが中国との関係を深めていることだろう。上海で稼働中のテスラのギガファクトリーに加えて、22年には北京に設計センターを立ち上げると発表。また、スペースXの技術を中国の宇宙船開発に応用する計画も進行中とのこと。恐らくニューラリンクの人体サイボーグ化の治験についても、すでにロボット女子大生が誕生している中国とは共同研究の可能性が話し合われているに違いない。
政府間では対立が続いているが、ビジネスの分野ではWin-Winの関係を目指す動きが加速する一方なのが米中関係である。ことさら対立関係を取り上げる「煽りニュース」に騙されないことが肝心ではなかろうか。
次号「第284回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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