【長崎県知事選】自民・維新推薦の大石候補が初当選
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現職知事の中村法道候補、医師で元厚労官僚の大石賢吾候補および会社社長の宮沢よしひこ候補との新人2人が三つ巴となった長崎県知事選が20日投開票され、自民党長崎県連と日本維新の会が推薦した大石氏が初当選した。
20日付の『長崎新聞』は「『経験』か『刷新』か 知事選きょう投票」という見出しで報じたが、県政ウォッチャーは「“金子・谷川影響下県政” の『刷新』か『継続』かを問う選挙だった」と正反対の見方をしていた。県知事を3期12年(1998年~2010年)務めた金子原二郎農林水産大臣・参議院議員(長崎県選挙区)と、(株)谷川建設創業者の谷川弥一衆議院議員(長崎3区)が有する影響力が削がれるのか否かが大きな争点の一つだったというのだ。県政ウォッチャーはこう続けた。
「石木ダム反対派住民(13世帯)を強制的に追い出す『行政代執行』に慎重な姿勢の中村知事に対して、金子氏と谷川氏は早期執行を求めていたと聞いています。19年11月に行政代執行が可能となったのに2年以上経っても中村知事はゴーサインを出さず、しびれを切らした“実力者コンビ”が新人候補擁立に舵を切ったと囁かれています」。
過去3回の県知事選では金子氏と谷川氏は中村知事を支援したが、今回は袂を分かつことになり、その結果、保守分裂になったというのだ。
中村知事の陣営関係者もほぼ同じ見方をしていた。「石木ダム問題だけではないでしょうが、金子氏と谷川氏の実力者コンビの言うことを中村知事が聞かなくなった話は私の耳にも入っています。役人出身の中村知事は、真面目で頑固な性格。知事選での応援を理由に要求を突きつけられても、そのまま『イエス』というタイプではない。それで『中村知事降ろしを始めた』と私たちも見ています」(選対関係者)。
実際、自民党長崎県連は大石氏の推薦を決めて金子氏と谷川氏は賛同したものの、同じ県内選出の国会議員である北村誠吾衆院議員(長崎4区)と加藤竜祥衆院議員(長崎2区)は中村氏支援に回った。自民党県議も真っ二つに割れ、支持団体も県医師連盟が大石氏、県農政連が中村氏と対応に食い違いが出たのだ。
「金子氏の娘と谷川氏の息子が結婚、『県内実力者コンビの政略結婚』とも言われましたが、この夫婦がかかわる親族会社が諫早干拓地に入植。政治力が働いたのではないかと県議会に百条委員会で追及されました。追及の急先鋒だった小林克敏県議ですが、この問題を取り上げた写真週刊誌『フライデー』に登場したことから名誉棄損で訴えられました」(県政ウォッチャー)。
11年12月30日号の『フライデー』のタイトルは「2人の国会議員が暗躍した『諫早湾干拓地不正取得』疑惑」。提訴されても小林県議は実力者コンビとの対決姿勢を変えず、今回の県知事選でも中村氏支援に回った。自民県議が金子谷川派(KT派)と反KT派に割れるのは、今に始まったことではなかったのだ。
「過去2回の県知事選で中村知事を支援したKT両氏が今回、大石氏を推した。大石県政誕生なら両氏の影響力は削がれることはないが、中村県政が続いた場合、両氏の影響力は大きく低下するのは確実。中村知事がフリーハンドを得れば石木ダム見直しに舵を切るのではないかと囁かれているのはこのためです」(県政ウォッチャー)。
KT両氏の影響力の継続か刷新かをも決定づける今回の県知事選は、石木ダム計画の行方を左右するに違いない。こうした見立てに基づいて私は選挙戦最終日の2月19日、両候補を直撃して石木ダムの強制代執行について聞いてみた。
長崎市矢上町での街宣を終えた中村知事に「石木ダムについて一言、お願いしたいが」と声をかけると、「ここ(長崎市)では話せません。その地域ではないので」と回答。「再選されたら強制執行をすることはないのか。慎重な姿勢を続けるか」と再質問をしたが、中村知事は無言のまま、車で走り去った。
新幹部3人(鈴木宗男副代表、藤田文武幹事長および足立康史政調会長)が応援に駆けつけた大石氏には、長崎市中心街での街宣を終えたところで「石木ダムについて一言。知事になったらどうするのか」と質問した。回答は「今まで訴えた通りに、しっかりと対話を軸に頑張って参ります」。そこで「強制執行をするのか」とも聞くと、「強制執行は、ありきの話ではないので」と答えたので、さらに「応援している金子・谷川さんは『強制執行するべき』と言っていないのか」とも聞いてみたが、大石氏は「移動します」と言って質疑応答を打ち切った。
そこでマイク納めを終えた大石氏に再び石木ダム関連の質問を行った。
ーー石木ダム、「対話をする」と言ったが、住民が納得、合意しないと強制執行はしないという立場か。
●大石候補 まずはしっかりと対話するというところです。まず対話をやっていかないと、その先は言えませんので。そこですね。
ーー(反対住民の)合意、理解、納得なしには強制代執行はしないと。
●大石候補 まずは対話をすると、そこがスタートです。
ーー「まずは(対話)」の後はどうなのですか。
●大石候補 まずは対話をするということです。
ーー対話を打ち切って代執行をする可能性があるのではないですか。
●大石候補 仮定の話はできませんので、それは、まずは対話を求めると。
ーー(強制代執行の)可能性はあるということですか。対話をした後、(反対住民が)納得しないまま、代執行に踏み切る可能性はあると。
●大石候補 何度も申し上げますが、仮定の話はできませんので、まずは対話をしっかりと持っていく。そこです。
ーー金子・谷川コンビのダミー候補という指摘もあるが。
●大石候補 そこは私は承知をしていないので。
ーー金子・谷川コンビが、中村知事が強制代執行をなかなかしないので、大石さんを担ぎ出したと(いう情報も流れていた)。
●大石候補 それは全く知らない。
石木ダム計画を左右するもう1つの要素は、反対を掲げる宮沢候補の得票数。前回の共産支援候補を上回れば上回るほど、石木ダム反対の民意が根強さを示すことになり、新知事が強制代執行に踏み切るハードルが高くなるということだ。
宮沢陣営は、最終日午後6時半から長崎市内でリレートークを開始、候補者が午後7時半前に合流したが、その時に石木ダム反対派住民で川棚町議の炭谷猛氏もマイクを握り、「宮沢さんが立候補したことで県知事選で初めて石木ダムが争点になった」と感謝の弁を述べ、不必要な石木ダム計画に反対し続ける決意表明もした。現地に張り付いていた前滋賀県知事の嘉田由紀子参議院議員も、ダム見直しを掲げて奇跡の逆転勝利をはたした06年の滋賀県知事選と今回の長崎県知事選を重ね合わせ、宮沢氏への支持を改めて訴えた。
投開票の結果は、大石氏が初当選。石木ダムの強制代執行の可能性が高まるのは間違いないだろう。
【ジャーナリスト/横田 一】
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