2024年10月01日( 火 )

【論点】ロシアのウクライナ侵攻と日本の役割 唯一の被爆国として

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DEVNET International/Japan
総裁 明川 文保 氏

(1)侵攻の目的

 ロシアがウクライナへ侵攻した目的は3つだと言われています。1つ目は、ウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州にいるロシア系住民の保護。そのうち70万人は、ロシア国籍をもっています。2つ目は、ウクライナから軍事的な脅威をなくすこと。すなわち、ウクライナを武装解除させてNATOへの加盟を阻止することです。さらに、これはあくまでもロシアの主張ですが、アメリカがウクライナに極秘に維持していた「生物化学兵器」の研究開発拠点11カ所を押さえようともしているようです。また核武装化につながる恐れがあるとして原発を次々に制圧下に置こうとしている可能性もあります。3つ目の目的は、親米で反ロシア路線のゼレンスキー政権を倒してウクライナの体制を2014年以前の親ロシア路線に戻すことです。

ウクライナ国旗/プーチン大統領

(2)ロシアにとってのウクライナ

 ロシアがウクライナにこだわるのはなぜでしょうか。プーチン大統領は2021年夏、「ロシア人とウクライナ人の歴史的な一体性について」と題する論文で「我々は一体」と強調しました。ウクライナは、首都キエフを中心に九世紀以降、「キエフ・ルーシ」と呼ばれる国が誕生し、ロシア人にとって「ルーツ」とされる土地なのです。ヨーロッパの国々は単一民族ではなく多民族国家であることが多いですが、ロシア人とウクライナ人の場合は民族的な違いも宗教上の違いもほとんどありません。

マトリョーシカ人形/キエフ
マトリョーシカ人形/キエフ

(3)ミンスク合意

ドネツクスタジアム
ドネツクスタジアム

    今回の侵攻が起こる前の2022年2月8日にフランスのマクロン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領と会談してロシアの侵攻を避けるためミンスク合意を履行するよう促しました。ミンスク合意は、2014年9月に、欧州安全保障協力機構(OSCE)が支援して、ベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ、ロシア、ドンバス地域の未承認の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の4者が署名したドンバス戦争の停戦合意です。これが機能しなかったため、さらにドイツとフランスが仲介するかたちで、2015年2月に改めて署名された包括的措置がミンスク2です。その内容は、1.ウクライナと分離独立派双方の武器使用の即時停止、2.停戦のOSCEによる監視、3.ウクライナ・ロシア間の安全地帯の設置とOSCEによる監視、4.ウクライナ領内の不法武装勢力や戦闘員・傭兵の撤退、5.ドネツク・ルガンスクの特別な地位に関する法律の採択、両州での選挙などです。

 クリミア併合時にロシア軍に大敗を喫したウクライナは、不利な条件で合意を結ばされたとの思いが強く、2019年に選出されたゼレンスキー大統領は2021年にかけてミンスク合意を反故にしようとしてきました。ミンスク合意がある限り、ドンバス地域で選挙を実施し、高度な自治権を認めざるをえず、分離独立に法的根拠が生じてしまうからです。ゼレンスキー大統領もその前のポロシェンコ大統領もドネツクやルガンスクの代表と直接対話をしてこなかったのです。

(4)NATO加盟

NATO軍戦闘機
NATO軍戦闘機

    NATOは、第2次世界大戦後の東西冷戦時代に旧ソ連と東欧諸国に対抗するためにできた軍事同盟です。ソ連が崩壊したときには16カ国だったNATO加盟国は、その後、東欧諸国が次々に加わって今は30カ国に増え、欧州の大半の国が参加しています。2008年のNATO首脳会議の宣言では、ウクライナやジョージアの将来的な加盟もうたいました。ウクライナのゼレンスキー大統領もNATO加盟を目指すと語っています。ロシアは長い国境を接するウクライナのNATO加盟を自国への脅威ととらえています。のど元に剣を突きつけられるようなものなのです。NATOに「だまされた」(プーチン氏)という怒りもあります。ロシアは1990年の東西ドイツ統合をめぐる交渉で当時のゴルバチョフ・ソ連書記長に「NATOは東方に拡大しないと約束した」と伝えられたからです。

(5)日本の役割

 ウクライナの危機は対岸の火事ではありません。ロシアとの間に領土問題を抱え、また
唯一の被爆国でもある日本には単に国際社会に連帯するのみにとどまらないメッセ―ジを発信する責任があるのではないでしょうか?

 日本とロシアの間でいまだ結論が出されていない北方四島について改めてその帰属を訴えるとともに、その根拠である「戦争による領土拡大を認めない」という方針は国連憲章の原則に基づくものであり、今回のロシアの軍事行動によるウクライナ侵攻はまさに実質的な「戦争による領土拡大」を目指すものとして断固として認めないという立場を明確にすべきなのです。中国と台湾の問題、竹島、尖閣という日本周辺の別の領土問題に与える影響も考えなければいけません。

 また、今回の侵攻が核保有国による核をもたない国への侵攻であるという点も唯一の被爆国である日本が主張すべき大事なポイントです。ウクライナはソ連崩壊当初は世界3位の核保有国として保有継続の意思をもっていましたが、国際社会との交渉の末、核兵器を放棄したのです。核保有国の非核化の先行モデルとして注目しなければなりません。日本は核兵器禁止条約に参加し、とくに核保有国が核をもたない国を攻撃することを禁止するルール形成を主導していくべきなのです。

 第2次大戦後の日本は工業生産力を中心とした国づくりに集中し成功を収めました。1994年の世界全体のGDP(国内総生産)のうち、17.9%を日本が占めていたのです。ところが、現在では5~6%に過ぎません。経済力が埋没するなかで核戦争の可能性も含んだ今回の危機に対して、日本は米国に追従するだけの立場から脱して、多極化を迎える世界のリーダーの一角として平和実現に貢献すべきではないでしょうか?

北方領土/原爆雲
北方領土/原爆雲

(6)国際連合

 国連総会(193カ国)は2日の緊急特別会合でロシア非難決議案を採択しました。第一次世界大戦後にできた国際連盟は25年後に終了しました。国際連合は昨年創設75周年を迎えていますが、その要である安全保障理事会は常任理事国の構成が第2次大戦の戦勝5大国のままです。総会による非難決議は、ロシア軍の即時撤退を求める安全保障理事会決議案がロシアの拒否権行使により否決された結果行われたものですが、安保理決議とは違い法的拘束力をもっていません。実際に起きている戦争を止める機能が果たせていないのです。

国連旗

2022年3月8日

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