2024年11月28日( 木 )

ウクライナ戦争とエネルギー安全保障(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年3月16日の「ウクライナ戦争とエネルギー安全保障」を紹介。

踏み絵を踏まされる中国、窮地に

 米国とNATOは中国に踏み絵を迫っている。ロシア産天然ガスの購入、軍事物資支援などを通して経済支援を行い、西側の制裁に対する抜け道を提供することが疑われているが、それへの対応次第では中国が孤立しかねない。中国の1~2月のロシアとの貿易総額は前年同期比38.5%増と急増し、中国全体の貿易総額の伸び率(15.9%増)を大きく上回った。

 中国は国連総会でのロシア非難決議を棄権した。また、欧米の首脳がボイコットした北京オリンピック開幕式に訪中したプーチン氏との間で、「一致してアメリカに対抗する姿勢を鮮明にした共同声明(2月4日)」(NHK)を発表している。

 「中ロの国家間関係は冷戦時代の政治軍事同盟より上位のものであることを両国は再確認する。両国間の友情は無限であり」「両国の協力にタブーも上限もない」、さらに「NATOのさらなる拡大に反対する」「中国側は、ロシアが提案しているヨーロッパにおける長期的で法的拘束力のある安全保障の形成について共感し、支持する」「米国のインド太平洋戦略が地域の平和と安定に与える負の影響を強く警戒する」とうたっている。法的同盟関係ではないが、ロ中協商の成立ともとれる内容である。プーチンロシアの敗北が見えている以上、習近平中国は窮地に立たされていくのではないか。中国封じ込めの新冷戦が現実のものとなり、それはとりもなおさず、米国の覇権強化につながっていくだろう。

新冷戦の時代、エネルギー安全保障の重要性

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 ウクライナ戦争の教訓は、エネルギー安全保障の重要性である。第二次世界大戦の故事を持ち出すまでもなく、エネルギーの遮断は生命線である。プーチン氏はロシアのもつエネルギーのレバレッジを最大限生かしてウクライナ危機をつくり出した。

 ロシア依存というEUのエネルギー供給の脆弱性がなければ、プーチン氏はウクライナ侵攻を思いとどまっただろう。EUは北海やオランダのガス産出が減退するなか、ロシアガス依存度を高め、今ではその4割をロシアに依存している。再生可能エネルギーの推進、石炭火力の廃止、原子力開発の停止などにより、天然ガスのロシア依存は高まる一方であった。プーチン氏はEUのロシアへの天然ガス依存の高さゆえに、制裁が回避されるとの目論見でウクライナ侵攻に踏み切ったとみられる。

 時すでに遅しだが、EUをリードするドイツ・ショルツ政権は政策大旋回に踏み切った。ロシアによるウクライナ侵攻直後の2月28日、ドイツ議会の特別セッションにおいて、1,000億ユーロの軍近代化予算と、軍事予算の増額(対GDP比1.5%から2%へ)が表明された。また、北海ルートのパイプライン・ノルドストリーム2の棚上げも打ち出された。さらにロシアの国際決済システムSWIFTからの排除、ミサイルと装甲車のウクライナへの援助、石炭と天然ガス備蓄の増強、カタールと米国からのLNG受け入れターミナル2つの建設などが、緑の党の同意の下に打ち出された。2022年に全廃が決まっていた原発の運転延長や廃止原発の再稼働なども俎上に上ってくるかもしれない。

日本は新冷戦にどう対応するか、まずは原発の再評価から

 核を保有する現状変更勢力国、ロシア、中国、北朝鮮の3カ国に世界で唯一国境を接している日本の潜在的リスクは極めて大きい。ドイツに見られるように、これまでの政策の抜本的転換が必要である。同盟の強化、軍事力の整備・近代化とともにエネルギー安全保障体制の再構築は急務である。手始めは原発の再評価であろう。原発再稼働論議に、原発の安全性のみならず国家安全保障上の配慮が加わることは必至である。

 エネルギー自給率を国際比較すると、日本は12%と主要国中最低である。米国97%、中国80%には遠くおよばず、ロシアの脅威に晒されているドイツ37%、イタリア23%よりも低い。

 長期的にはゼロカーボンを目指した脱化石燃料化、再生可能エネルギー化の推進が基軸である。しかし、エネルギー供給構造の全面的転換までの長い期間、依然として火力発電が中心になる。米国・オーストラリアなど安定供給先からの天然ガス・LNGへの継続投資が必要である。

 加えて、自給率の向上には、クリーンかつ安全保障に資する原子力発電の再評価が必須であろう。現存する36基の原発のうち、再稼働されたのは10基にとどまる。安全とされる運転期間を現行の40年から60年へ延長することも求められる。加えて、より安全な小型モジュール式原子炉(SMR)の必要性が高まってこよう。フランスでは昨年11月、原子力発電の新増設再開に舵を切った。ウクライナ戦争という新事態に対応して、ドイツやフランスのように日本もエネルギー政策を抜本転換する時であろう。

図表1: 主要国の一次エネルギー自給率比較(2018年) 資源エネルギー庁

図表2: 各国の一次エネルギー自給率推移/図表3:日本の電源構成推移

(了)

(前)

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