2024年11月28日( 木 )

懲罰的円高から恩典的円安の時代へ(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年4月1日の「懲罰的円高から恩典的円安の時代へ~逆内外価格差拡大、日本経済復活の決定打~」を紹介。

恩典的円安時代がみえてきた

 しかし今、日本が貿易赤字国に転落したことで、恩典的円安の時代に入っていくのではないだろうか。それは購買力平価から相当程度(2~3割か)安い為替レートが定着し、日本の価格競争力に為替面からの恩典が与えられる時代である。懲罰的円高時代と同様に、今回も経済合理性とともに、覇権国米国の国益がカギとなる。米国は脱中国のサプライチェーンの構築に専念しているが、その一環として中韓台に集中している世界のハイテク生産集積を日本において再構築する必要性が出てくる。そのためには恩典的円安が必須となる。

恩典的円安で日本にハイテク産業集積が戻る

 注目されるのはTSMCの熊本工場のアップグレードと増強である。日本のコスト高を補てんすべく政府が4,000億円の資金供与を行ったが、1ドル120~130円になると日本工場のコスト競争力が大きく高まる。台湾一極集中のTSMCは工場の多国分散を図らざるを得ないが、日本での生産体制を大きく構築していく可能性も想定される。白川日銀総裁時代の1ドル80円の円高の下でエルピーダメモリが破綻してマイクロンテクノロジーに買収されたが、今日本のマイクロン広島工場は最も高収益の工場になっているはずである。日本が一度失ったハイテク産業集積を取り戻す可能性は大きく高まってくるといえよう。

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 購買力平価を超える円安が定着し日本企業の価格競争力が大きく回復し、企業収益が史上最高を更新している。法人企業の売上高経常利益率は高度成長期から2012年頃までの2~4%水準から大きく上昇し、7~8%となっている。企業にようやく賃金引き上げの原資が備わりつつあることがわかる。また国内生産コストが円安で低下したことで工場の国内回帰の必要性が高まってくる。さらに輸入品をより安価な国産品に切り替える動きが強まってくるだろう。

(3) 長期・国益的観点からの為替論、円安の維持が必要だ

 日経は円安のメリット、デメリットを図15のように整理している。

 円安は輸出業者にプラス、輸入業者にはマイナスなど、関係者によって利害得失は相反する、よって答えは出ない。しかし長期的に日本の国益、日本経済の繁栄を考えればとてもいいことである。国際競争はいかに世界の需要を自国に取り込むかの競争である。円が弱くなれば輸出が増え輸入が減る、また海外移転工場の国内回帰、輸入品の国内生産代替なども起きる。よって日本国内投資と生産が増え所得は増える。かつて超円高の時代はそれが逆回転した。日本企業は海外に工場を移し、国内需要は安い中国品に蚕食された。しかし今、日本企業の(国内で発生する)コストが30年前の半分に低下した。またコロナパンデミック終息の暁には割安になった日本に外国人観光客が殺到するはずである。このように価格競争力回復強化がすべての経済活動の基本である。それには円安が必須であることがわかるだろう。

財界の「悪い円安論」はシンプルに誤り

 メディアでは輸入物価の上昇で家計を直撃する「悪い円安」との議論が多い。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は定例記者会見(3/29)で、輸入物価上昇を通じて原材料を輸入に頼る内需型の企業が苦しむことを念頭に「適切な水準だとはとても思えない」「(円安は輸出企業にメリットが大きいが)輸出企業だけが日本経済を引っ張っているわけではない」と悪い円安論を展開した。急激な変化は混乱を招くのでスムージングの調整は必要だが、円安という趨勢に抵抗すべきではない。輸入企業は円安を嘆き非難するのではなく、国産代替などの戦略転換を図るべきであろう。

 積極的金融緩和姿勢を堅持する日銀の断固たるスタンスは国益という観点から心強い。

(了)

(中)

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