国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
モーター大手のニデックで、創業者・永守重信氏の経営手法をめぐるガバナンス不全が深刻化している。会計不正に続き、1,000件超の品質不正疑惑も発覚し、同社は「脱・永守流」の経営刷新を迫られている。証券取引等監視委員会の検査、旧経営陣への損害賠償請求、「物言う株主」オアシス・マネジメントの圧力が重なり、カリスマ経営の功罪が厳しく問われている。
モーター大手のニデック(旧・日本電産)の創業者である永守重信氏の経営手法をめぐっては、法令違反や不正行為を助長したとして、証券取引等監視委員会による本格的な検査や、社内の役員責任調査委員会による法的責任(損害賠償請求訴訟など)の追及が急ピッチで進められています。
永守氏は日本電産を1973年に創業し、一代で売上高2.6兆円(2025年3月期)という世界的なモーターメーカーへと育て上げました。しかし、「永守氏の承認を得ようとする文化」が蔓延し、会計不正など内部管理体制の不備が深刻化したため、2025年秋には東京証券取引所から、上場廃止もあり得る「特別注意銘柄」に指定されてしまいました。
26年3月に公表された第三者委員会の調査報告書により、2010年代前半からグループ全体で純資産への影響額1,397億円、減損対象2,500億円規模におよぶ大規模な会計不正が組織的に蔓延していたことが発覚。さらに5月には、1,000件を超える「製品の品質不正」も露呈しています。
数字至上主義が生んだ不正の温床
問題は深刻ですが、概ね以下の3点に集約されます。
第一が苛烈な「数字至上主義」と過度なプレッシャーです。永守氏は絶対的なカリスマとして君臨し、非現実的な業績目標を提示していました。目標未達の幹部に対し「徹夜をしてでも利益を捻出せよ」「やる気ゼロの無責任な奴らだ」などと激しく叱責を繰り返し、追い詰められた現場が売上の前倒し計上や費用の先送りなどの不正に手を染める温床となりました。
第二が不正を闇で処理する「特命監査部長」の存在です。永守氏は、直轄の「特命監査部長」を置き、社内で不正や横領の告発があると、公にせず秘密裏に処理させていたと指摘されています。これが結果として、ガバナンスを麻痺させ、不正を長期化・深刻化させる原因となりました。
第三が監査法人への威圧と骨抜きです。外部の監査法人が不正のフォレンジック調査を行った際、財務上の問題が出なかったことを理由に、永守氏が「調査費用の半分を監査法人に負担させろ」と理不尽な指示を出して圧力をかけるなど、チェック機能を無力化させていました。
引退後も残る法的・金銭的リスク
今後の見通しは厳しいと言わざるを得ません。永守氏は25年12月に代表取締役を辞任し、26年2月には名誉会長も退いて経営から完全引退しています。しかし、引退後も極めて重い法的・金銭的リスクに直面していることは憂慮されるところです。
第一が証券取引等監視委員会による検査と「課徴金処分」です。同委員会は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いでニデックへの本格的な検査に着手する方針を固めました。これにより、数億円~数十億円規模の巨額の課徴金納付命令が下る見通しです。
第二が刑事事件化(逮捕・立件)の可能性です。過去の「オリンパス(粉飾決算で経営陣が逮捕)」や「東芝(チャレンジと称したプレッシャーによる不正会計、刑事告発は見送り)」の事例が比較対象となっています。第三者委は「永守氏が直接不正を指示・主導した証拠はないが、一部の会計不正を容認していた評価は免れない」と結論づけています。監視委の調査で「明確な意思疎通や隠蔽への直接関与」の証拠が上がれば、個人の刑事告発・立件の可能性もゼロではないでしょうが、ハードルは高いはずです。
第三が会社側からの「損害賠償請求訴訟」です。ニデックは弁護士らによる「役員責任調査委員会」を設置し、永守氏を含む旧経営陣の善管注意義務違反を調査中です。責任が認定されれば、会社側が永守氏個人を相手取って巨額の損害賠償訴訟を起こすか、あるいは株主が代表訴訟を起こすことになります。
第四が新体制による「脱・永守流」のガバナンス刷新です。現社長・岸田光哉氏のもと、ニデックは6月の株主総会で取締役の過半数(13人中10人)を社外取締役に差し替える大幅な刷新を行い、カリスマ1人に依存しない経営体制への移行を進めています。香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント(Oasis Management)」は「物言う株主」を標ぼうしていますが、6.74%の株式を取得して経営監視を強めており、市場からは「徹底した膿出しと業績回復」が厳しく求められているところです。
オアシスが迫る「脱・個人崇拝」
要するに、永守氏の「赤字は罪悪」として急成長を牽引した経営手法は、法を軽視した「組織的隠蔽と不正の構造」であったと断定され、輝かしいキャリアの幕引きは一転して法的責任の追及を受ける身となってしまったわけです。
なお、ニデックが直面している、オアシスからの要求と今後の「1,000件超の品質不正による業績への具体的な影響」の内幕も注視に値します。彼らが6月の株主総会や対話を通じてニデックに突きつけている要求の核心は、「創業者永守氏の個人崇拝からの完全な脱却と、企業統治の根本的なオーバーホール」です。
具体的な要求の第一は「会計・監査の専門家」の取締役送り込みです。オアシスはニデックに対し、「真に独立した社外取締役が必要である」として、独自に選定した取締役候補1名を会社側に推薦しています。この候補者は「会計や監査に極めて強い知見を持つ人物」であり、永守氏のワンマン体制下で完全に形骸化していた社内の財務チェック機能を外側から厳しく監視・再建するための「目」として送り込もうというわけです。
第二は永守氏ら旧経営陣への「株主代表訴訟」と責任追及の要求です。オアシスのCIOであるセス・フィッシャー氏は、「ニデックは永守氏を提訴すべきだ」と公に明言。4月に第三者委員会が累計1,607億円にのぼる純利益へのマイナス影響(会計不正)を公表したことを受け、「まるでドラマのようだ」と驚きを隠さず、現経営陣に対し、永守氏ら旧経営陣の善管注意義務違反を理由とした巨額の損害賠償請求訴訟を起こすよう、強烈なプレッシャーをかけています。
もし会社側が提訴に躊躇すれば、オアシス自身が株主代表訴訟に踏み切る構えを見せているほどです。
さらに、5月中旬、ニデックは会計不正に続き、顧客に無断での材料・デザイン変更や試験データの改ざんなど、「1,000件を超える製品の品質不正の疑い」を発表しました。これは主に車載(自動車向け)や家電向けのビジネスで発生しており、製造業としての根幹を揺るがす甚大な経済的損失をもたらすと試算されています。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








