2024年11月22日( 金 )

ウクライナ危機で漁夫の利を狙う中国:ドルからデジタル人民元へ

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、4月8日付の記事を紹介する。

デジタル人民元 イメージ    ウクライナ危機は出口の見えない泥沼にはまり込んだようです。

 「自由と民主主義を代表するゼレンスキー政権を守る」と訴えるアメリカと「ロシア系ウクライナ人を守るため」と主張するロシアの間ではフェイクニュースをはじめ、凄まじい情報戦が展開されています。

 アメリカから「ロシア軍によるウクライナ人の大量虐殺」の証拠とされる映像が流されると、即座にロシアからは「ウクライナ兵が捕虜となったロシア兵を虐殺している」との画像が提示されるという状況です。

 現代のCG加工技術を駆使すれば、どんな映像でも思い通りに生み出すことができるに違いありません。

 日本ではアメリカ発の映像が圧倒的に多いため、ウクライナを支援する世論が盛り上がっていますが、世界を見渡せば、8年前からウクライナ軍が東部のロシア系住民を殺害してきたことに触れ、ロシアに同調する声も多く聞かれます。

 いずれにせよ、戦争や殺戮が一刻も早く終わることを望みますが、なぜこうした悲劇が生まれたかについては、その真実を見極めるのは実に難しいといえるでしょう。

 そんな中、血なまぐさい戦争とは別の「通貨覇権をめぐる金融戦争」が深く静かに進行していることにも注意を払う必要があります。

 思い出してほしいのですが、北京冬季五輪の開会式に合わせて、ロシアのプーチン大統領は訪中し、習近平国家主席と会談しました。

 そのとき、印象的だったのは会談後に発表された中露の共同声明です。

 30ページを超える長文で、全文に目を通した人はほとんどいなかったでしょう。

 しかし、この共同声明には「アメリカとの対決姿勢」もにじみ出ていますが、大きなポイントは「国際社会の大転換」を受け、これからの時代を動かすのは「一部の豊かな国ではなく、国連のような国際機関を通じて世界的な課題を解決しようとする中小国家の連携」だと定義している点です。

 また、当時、アメリカが関与するウクライナ危機への言及はありませんでした。

 実は、アメリカはEU諸国や日本に呼びかけ、ウクライナ危機にかこつけ、ロシアへの経済制裁を強化しようと動いていました。

 一方で、プーチン大統領はそうしたアメリカの動きは十分把握していたと思われます。

 そのため、経済制裁が発動された暁には、中国はロシアからの天然ガス輸入量を拡大するなど、ロシア支援に回ることで合意していたはずです。

 とはいえ、中国がロシアとの経済関係を強化するにしても限度があります。

 大事な点は、ウクライナにとって中国は最大の貿易相手国だということです。

 中国初の空母「遼寧」も元はウクライナから洋上ホテルにするといって輸入したものを改造しただけのこと。

 小麦など穀物はもとより旧ソ連時代の核ミサイル技術などもウクライナから調達しているのが中国なのです。

 その点を見越して、アメリカは中国に働きかけを水面下で強めています。

 何かといえば、経済危機に陥っているウクライナを支援するため、中国に対してウクライナへの投資と人材交流、そして貿易拡大を要請しているのです。

 こうしたロシアとアメリカからのアプローチを「これ幸い」として、ロ米双方に恩を売るという戦略を中国は取ろうとしています。

 「孫氏の兵法」極まれり、といったところでしょうか。

 実は、世界最大の1,500億ドルの資産運用を行うヘッジファンド「ブリッジウォーター」の創業者にして会長を務めるレイ・ダリオ氏ですが、1993年から中国の国有財産の管理を請け負っているのです。

 しかも、2021年11月、13億ドルのプライベートファンドを中国で立ち上げ、中国としては最大のヘッジファンドに育て上げようとしています。

 ダリオ氏に言わせれば、「ウクライナ危機によって、アメリカの一極支配の時代は終わった。歴史を紐解けば、永遠の超大国は存在しないことがわかるだろう。アメリカにはロシアとの戦争を勝ち抜ける経済力はない。この戦争が終わった後、2023年には中国がアメリカを凌駕することになる」。

 世界最大のヘッジファンドを築き上げたダリオ氏の分析では「価値の裏付けのない通貨ドルは長持ちできない」とのこと。

 まさに、今回のウクライナ戦争は「アメリカのドル一極支配の終わりを告げることになる」との見立てに他なりません。

 そのうえで、近い将来、「ドルに代わって金(ゴールド)やエネルギー資源に裏付けされたデジタル人民元への移行が加速する」というのです。

 こうした脱ドル化に関する予測は国際通貨基金(IMF)のゴピナート筆頭副専務理事(インド系アメリカ人)も同調する発言を行っています。

 実際、アメリカ主導の経済制裁にもかかわらず、ルーブルの価値は下落するどころか、急騰しているのです。

 その背景には中国もインドもドルではなく自国通貨やビットコインを通じてロシアのエネルギーの輸入拡大を図っていることが影響しています。

 その意味で、ウクライナ戦争は「国際通貨の多極化」の幕開けとなったと言っても過言ではないでしょう。

 次号「第291回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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