2024年11月14日( 木 )

【福岡IR特別連載79】長崎IRの申請は墓穴を掘るもの

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長崎県庁 イメージ    長崎IRの区域認定申請に関する報道が過熱している。政府への申請締切日が今月28日なので、これに間に合うかどうかに注目が集まっているからだ。現状では、締切日の変更・延長等は告知されていない。各報道機関は、すべてが28日に決まるかのように報道しているが、あくまでも申請受付の締切日であり、今後延長するか、順次受け付けるのかについては、いまだに決まっていない。

 先日、ネットで公開されている長崎県行政と議会が主催する区域認定申請に関する「長崎IR特別委員会」を観たが、あまりにも酷かったので途中で観るのをやめた。質問側も、回答をする県のIR担当者も、杜撰で抽象的な「政治的質疑応答」に終始していたからだ。たとえば「先日、Bally'sによる福岡IRの記者会見があったが、九州経済連合会との連携は大丈夫か?区域認定申請後の政府との連携は大丈夫か?」という質問に対して、県のIR担当者は「先日も九州経済連合会に確認済みです。政府にも根回し済みですので問題ありません」というやり取りがあった。これ以外もピントが大きくずれた質疑応答ばかりで、肝心のIR誘致の成否に関わる質問と回答は皆無だった。まるで、締切に間に合わせる為の申請が最大の目的のように見える。

 区域認定申請に関する内容も、公開されているが、政府が指導する本件開発運営事業母体(コンソーシアム)の組織組成には程遠い内容だ。総事業費4,383億円の自己資本が1,753億円で、借入金が2,630億円、年間売上高は5年目で2,715億円諸々というものだ。

 事業主体のカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン(CAIJ)と突如現れた米国の大手不動産投資企業CBREが仲介のプライベートエクイティ(未公開株の発行等)に本件のすべての投融資資金を任せることで賄うとしているのだ。彼らはプロ中のプロである、近いうちに答えが出るだろう。これらは長崎県行政と県議会の能力で判断・理解できるはずもない。

「絵に描いた餅」集客計画670万人
 

福岡IRの年間集客計画
福岡IRの年間集客計画

 添付資料は「福岡IRの年間集客計画数値460万人」の内訳である。これらは、3月30日に行われたBally'sによる記者会見において、元デロイトトーマツの担当者より、詳細な説明がされた。だが、参加していた長崎新聞は翌日一切報道せず、RKB毎日放送もそれには一切触れず、一方的かつ恣意的な報道をしている。報道機関としてあるまじき行為であるし、一体何に忖度しているのだろうか。嘆げかわしい限りである。

 福岡IRの集客計画は、海の中道から所要時間60分圏内の訪問者で60%を占めており、巨大な都市圏人口を背景にした根拠のあるものだ。さらに海外からのインバウンド集客計画は、今回のコロナ禍を加味して全体のわずか5%未満である。

 一方、長崎IRは、670万人の集客計画におけるインバウンドの割合は約25%で、中国人、韓国人来訪客を中心とした151万人となっている。ちなみに「【福岡IR特別連載77】米国Bally'sが記者会見開催~民間先行の現実的計画」でお伝えしたように、コロナ禍前の2019年の訪日外国人旅行者3,188万人のうち、長崎県を訪れた旅行者はわずか1.5%である。習近平政権による「カジノ観光規制」により、中国からカジノの観光客が来られないにも関わらず、このような集客計画を立てるとはあきれてモノが言えない。

 また、ハウステンボスは年間300万人以上を集客したことは過去に数度しかないが、これが、今回の区域認定申請書の年間集客計画数値の根拠となっているのだ。各種交通インフラ等のすべてがある福岡IRとの比較は「一目瞭然」である。とにかく、この集客計画はとんでもない数値なのだ。

福岡市近郊路線図(福岡賃貸情報専門サイト「ドリームステージ」より引用)
福岡市近郊路線図(福岡賃貸情報専門サイト「ドリームステージ」より引用)

東京IR、近い内に発表

 昨年、菅政権は自民党総出で横浜市長選挙を闘い、予想外の敗北を喫した。セガサミーにスーパーゼネコン三社(鹿島、竹中、大林)が徒党を組み挑んだが、横浜IRが“飛び”、結果は皆さんご承知の通りだ。自民党にとって、これほど「安倍政権の宿題」は重く、現在の岸田政権においても同様である。

 大阪IRの米国MGMは、橋下徹氏を筆頭とした維新の会の実績であり、自民党の実績ではない。自民党政権は米国との約束事(安倍・トランプ密約)で、絶対にこれを履行する必要があるのだ。だからIRは日本の首都圏で実現させることが命題となっている。そうした経緯から考えても、米国Bally'sによる福岡IRは効果的な候補・候補地でもある。

世界で唯一残ったカジノ市場、日本

 筆者は、当初から、後背地人口に恵まれた東京中心の関東都市圏、大阪中心の関西都市圏、福岡中心の北部九州都市圏の3カ所しか、本件IR事業の採算はとれないと断言している。IR事業は米国からの圧力、依頼であり、その為のIR法案であり、関連法でもある。

 とくに、施設施工令では、地方では採算が取れないよう、MICE施設(ホテル、コンベンションセンター等)の延床面積の下限制限をし、入場者数(キャパシティ)も多人数可能な施設に制限している。従って、長崎、和歌山、北海道の苫小牧などでは完全に採算が取れないようになっている。

 最後に、長崎IRの管轄行政も県議会も、また福岡財界の一部関係者も、もっと本件の経緯と根幹について勉強すべきだ。九州IR推進協議会の名誉会長は麻生泰氏、実の兄に聞けば容易に判断できる話である。あとは、今回の区域認定申請の関係者全員が、自己保全に走らず、国への責任転嫁をせず、長崎県の大石新知事のもと、IR誘致についてのすべてを再考し、可能な限り、速やかに撤退することだ。

 年間集客数670万人など絶対にあり得ない。

【青木 義彦】

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