2024年11月21日( 木 )

【再掲:福岡大学の変貌(2)】牧歌的な校風

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    昔の福大がどんな大学だったか、先のインタビューに答えてくれた先生が面白い話をしてくれた。曰く、

コーヒー イメージ「私が福大に勤め始めたのは1995年4月、その前年の秋に七隈キャンパスに行ったのが初めての福大体験で、今とちがってキャンパス内にビルが少なく、がらんとした空間でした。首都圏の大学しか知らなかった私は、こんなに広々したキャンパスがあるのかと目を見張ったものです。

 現在は地下鉄七隈線がありますが、当時は天神からバスで30分以上。東京から福岡まで空路で行って、空港から地下鉄で天神へ行き、そこからバスに揺られたんです。田園風景を眺めているうちに「福大前」というバス停に着き、そこからキャンパスを横断してひときわ高いビルにたどり着く。その7階が面接会場でした。

 7階に上がると担当の先生がにやにやしてエレベーターの出口で待っていました。

『やあ、よく来てくれましたね。面接の開始、少し遅れますけど。』

 予定では午前10時ということだったが、その先生の研究室でしばらく待機ということになりました。ところがその先生、私がソファに座るやそそくさと出ていきました。『ちょっと忘れ物をしたもんで』と。

 少しすると、誰かがドアをノックします。『はい』と返事をすると、今度は別の先生が現れました。「先生、面接まで30分くらいあります。16階の食堂は眺めがいいですから、そっちへ行きましょう」とこの人もニコニコ顔なんです。

 最上階までエレベーターで上がると、たしかに景色がいい。そのときは名前を知らなかったんですが、窓外に油山がゆったりとした広がりを見せてとてもいい眺めでした。

『先生、ビールはいかがです?』

 ニコニコ顔の先生が朝からビールをすすめるのには驚きました。断っては失礼にあたるだろう、しかし自分はめったにアルコール類は飲まない。ちょっと迷ってから、『いえ、コーヒーをいただきます』と答えました。その先生は『自分は学科の長なので』と断りを入れてからコーヒーを頼んでくれました。私に遠慮したのか、ビールは頼みませんでした。

『担当の先生が必要な書類を全部家に置き忘れたようで、それで面接が遅れてるんです。』

 コーヒーをすすっている私に、その先生がそう説明してくれました。でも、別段たいしたことではないかのようでした。相変わらずニコニコです。

 私にはそれが面白かったんです。東京から飛行機で福岡まで行ったその日、すぐ東京へ戻るつもりは毛頭なく、少し福岡周辺を探訪しようと思っていたんです。面接の終了が遅くなろうと、まったく気にならなかったのです。むしろ、こうしてゆったりできるのはありがたい、そう思ったものです。

 担当の先生が書類をもって帰って来ました。いよいよ面接開始です。といっても試験ではなく、対面の儀式でした。すでに就職は決まっていたんです。学部長との面談、雇用条件の提示、そういった形式が済むと、書類を忘れた例の先生の研究室に戻りました。

 『どうです?いい雰囲気でしょう?』とその先生。書類を家に忘れたことなど一向に気にしていないようです。私にはこれがありがたかった。自分もそういう失策をやらかすタイプだからです。

『最上階の食堂はいいですね。』
『そうね。でも、あそこのコーヒーは飲んじゃダメ。このキャンパスにはいいカフェがない。大学としては失態ですね。でも、この大学は雑用が少なくて学生たちは素直。気持ちいいですよ。』

 『先生がたは、どこでコーヒーを?』と思わず尋ねました。

『天神でしょうね。薬院もいいかな。九大のキャンパスがある六本松あたりもいいのがありますよ。』

 天神も薬院も六本松も、福岡を知らない人間には何のことかわかりません。わかったのは、このキャンパスは福岡市のはずれにあるということでした。

 もう少し実用的な質問をしてみました。

『先生、住むとしたら、どのあたりが良いんでしょうか。』
『住むとこ? 最初は様子見にホテルで一ヶ月くらい過ごしたらどうです? 天神に大学関係者が安く泊まれるホテルがありますよ。一ヶ月契約にすれば、もっと安くしてくれるでしょう。』

 いいアイデアだと思ったので、その日のうちにそのホテルの場所と宿泊費をチェックしました。そして、事実、翌4月は丸ひと月、そのホテルで過ごしました。福岡の中心街を知ることができましたよ。

 面接の日は夕方に名物の屋台を試してみました。翌日は唐津まで行ってから東京へ戻りました。唐津の砂浜と松原はよかったです。今から思えば、あの面接のための福大訪問は夢のようでしたね。すべてが気楽で、少しも無理なところがなかったのがよかったんです。これが福大なら、長くいられそうだなと思ったものです」

(つづく)

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