【再掲:福岡大学の変貌(5)】大学が抱えるジレンマ
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福大に話を戻そう。福大が「つまらなくなった」とは、大学運営が「近代化」路線を邁進してきたことを意味する。能率主義に走り、他を顧みなくなったのである。その理由はといえば、少子化と文科省の締め付けの2つである。若者の総人口が激減している以上、学生を確保しなくては大学はやっていけない。そのためには、学生を確保するのに最適の手段を講じる必要があるのだ。だが、それにしては戦略がかなり稚拙に見える。この時代、それにふさわしい人工知能をもっと開発すべきだろう。
文科省の締め付けとは、私学といえども国家の補助金に依存しきっているということで、文科省の要求によく答えることのできる大学だけが生き残れるという意味である。その結果、文科省の指導はバイブル、否、教育勅語となりつつある。文科省は強制こそしないが、その指導に沿わなければ補助金を出さない。これでは強制と変わらない。
以上要するに、かつての福大はバブルの恩恵を受けていたが、日本経済が厳しい時代に入っていくにつれて余裕がなくなり、現在に至ったということである。従って、「近代化」とは「ジリ貧」の裏返しなのだ。優秀なAIなら過去のデータを駆使して、「ジリ貧のときはじっと我慢して、大きいことをしない方がいいですよ」と判断するだろう。はたして、福大に、否、福岡に、否、日本に、そのような選択肢を考えている人がどれだけいるだろう。そういう人もいるだろうが、それを望まない人の方が圧倒的に多いように見える。
この文章の初めのほうで、変貌した福大に「嫌気がさした」と先生の話をした。その先生は、そのように感じない福大教員が増えているように思えると言っていた。日本がジリ貧状態になったところで生まれ育った人たちであれば、「面白かった」時代を知らないのだから、疑問をもたなくて当然であろう。その先生のような団塊世代の人間と、彼らとはまったく体質がちがうのだ。
これを言い換えれば、福大は体力がなくなったということだ。福大が自慢してきたあの体力が・・・。しかし、そうなれば福大はほかの大学と何ら変わらなくなり、メリットがなくなるだろう。現在の福大が抱えているジレンマではないか。
私が福大の中枢部にいたら、嫌われるのを覚悟でこういうだろう。もう大学というシステムを解体し、専門学校をたくさんつくることで生き延びるべきだと。現存のどの専門学校も単科大学に近づいているが、高度な技術が身につくだけでなく、他の専門学校とも連携した総合的専門学校はいまだ少ない。福岡という都市のニーズを考えれば、そういう変身は必要だと思える。
福大をシステムとして見た場合、大きな問題がある。肥大化したために大学全体のシステムと教員1人ひとりの不一致が増大しっぱなしなのだ。教員には「近代化」してもし切れない部分がある。生身の学生を相手にするからである。そこには数値化できないファクターが多すぎて、効率主義を目指す「近代化」と相容れないのだ。ところが、大学にとって教員は単なる被雇用者であり、学生はクライアントに過ぎない。教員が何を考え、学生がどのように思っているかなど問題にならないのだ。
これではシステム障害を起こしてもおかしくないが、はたして大学の中枢部はシステム工学をどこまで理解しているだろう。大学そのものが企業と化し、1つの産業体となっていること自体が問題なのではなく、その企業がシステムとして十全に機能していないことが問題なのである。
システムが機能するにはフィードバックが機能し、自己修正能力をもつことが必要だ。福大がそこに勤める教員と職員、そして学生たちの声を聴きとって自己修正できるシステムをもっていれば、これからの時代を生き延びることができるのである。フィードバック機能が万全なシステムの構築にこそ、福大は金を使わねばならない。それを省いたシステムであり続ければ、なかにいる人々はかつての教職員のように「つまらない」とか「嫌だ」とかはっきり感じないにしても、なんとはなしに元気が出ない、慢性疲労の症状を呈することになるのである。学生にもそれははね返り、大学は死んでいく。
何度も繰り返すが、これは福大だけの問題ではない。日本全体の問題である。生き延びるにはシステムの改革が必要で、そのカギとなるのがフィードバック機能の活性化なのである。これには高度な能力をもつAIの開発とその導入が必要であり、それには相当の金がかかる。しかし、それをしなければ動脈硬化に陥って、システムは死んでしまうのである。
(了)
法人名
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