2024年11月27日( 水 )

自らをイエス・キリストになぞらえる孫正義は世界を救えるのか?(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

東京ポートシティ竹芝オフィスタワー    確かにソフトバンクグループの経営状況は順風満帆とは言い難いようです。2021年10月~12月期(連結)決算は純利益が290億円でした。前年同期の1兆1,709億円から98%も減少したことになります。孫氏曰く「冬の嵐の真っただなかにいる」。同期間の傘下「ビジョン・ファンド」の投資利益は1,114億円で、これも前年同期の1兆3,921億円から925%の大幅ダウンでした。韓国ネット通販大手「クーパン」を筆頭に、投資先15社で計2兆3,793億円の評価損を計上したことになります。

 「厳しい冬が続いている」と言いながら、「必ず春は来る。新たなタネを植えている。芽は着実に出始めている」と強気の姿勢は崩していません。とはいえ、ブルームバーグ・ビリオネア指標によれば、孫氏の個人資産は現在137億ドル(約1兆6,200億円)で、この1年間で250億ドルの減少となっているようです。

 孫氏が金融機関に担保提供している自社株数が増加していることも懸念材料となっています。同社が関東財務局に提出した変更報告書によれば、昨年11月以降、金融機関への担保は805万株増加しているようです。ソフトバンクグループの株価は2021年から下落傾向にあります。このままでは、インドネシアに限らず海外への大型投資案件は軒並み見直しが避けられないでしょう。

 こうした厳しい経営状況を受け、孫氏は傘下のイギリスの半導体設計子会社「アーム」をアメリカの半導体メーカー「エヌビディア」へ売却する計画を断念したことを明らかにしました。その一方で、「アーム」を2022年度中に上場させるとの方針も公表。曰く「半導体業界史上最大の上場を目指す」。ここでも強気一辺倒ですが、はたしてどうなるものでしょうか。孫氏は「アーム」の従業員の数を15%減らし、事業内容も縮小し、限定したプロジェクトに集中投資すると表明。約1,000人の首切りにも言及。しかし、この3月26日、ソフトバンクグループが未上場の「アーム」株を担保に金融機関から1兆円を調達したとのニュースが流れると、同社の株価は急落を遂げてしまいました。

 孫氏の前途は平坦なものではありません。彼が投資する中国のIT関連企業は中国政府の独占企業改革と称する介入の影響もあり自由なビジネスが制限されてきました。またロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって半導体や家電製品の原材料の入手に困難が生じています。加えて、世界的なインフレの波が消費や生産活動を飲み込む有り様です。

 ソフトバンクグループの保有資産に対する純負債の割合も増えています。グループの株価はこの1年で60%近く下落し、純負債の割合は上昇する一方です。この状況が続けば、マージンコール(追加証拠金請求)というリスクに直面することもあり得ます。

 ソフトバンクグループの時価純資産を地域別で見ると、中国が32%でアメリカの22%をはるかに上回っています。その分、中国経済をコントロールしようとする共産党の意向に左右されることになるわけです。「アリババ」のジャック・マー氏ですら、共産党の介入には抗えず、公式の場からは姿を消してしまいました。

 要は、配車アプリ最大手「滴滴」をはじめ中国の新興企業の成長スピードが党の介入を嫌気して鈍化しているわけです。「滴滴」は香港での上場を準備していましたが、結局中止となりました。このように中国銘柄が孫氏のビジョン・ファンドの利益構造を毀損しており、孫氏の投資家としての先を見る目が問われているわけです。

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 さらにソフトバンクグループが手元資金に窮しているとの憶測が急浮上しています。というのは、傘下のビジョン・ファンドが保有する韓国の電子商取引大手の「クーパン」の株式10億4,350万ドル相当を前回と比べ3割もの割引価格で売却したことが明るみになったからです。

 一時は飛ぶ鳥を落とす勢いを内外に誇示していた孫氏ですが、このところの投資判断のブレや損失は大きな痛手になりつつあるように思えます。しかし、孫氏は並みの投資経営者ではありません。2020年に130億ドルの損失を計上した際の彼の言葉は忘れられません。「あのイエス・キリストも誤解され、非難され、罵声を浴びせられたものです。あのビートルズもデビューした当時は人気がまったくありませんでした」。

 自らをイエス・キリストになぞらえるほどの自信家。それが孫正義氏です。まだまだ「復活」の道を目指してばく進するに違いありません。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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