ウクライナ危機をチャンスに イーロン・マスクの商魂(後)
-
国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸今や世界一の大富豪、イーロン・マスク氏。電気自動車「テスラ」の株価が昨年末に1兆ドルを突破するなど、ビジネスチャンスを嗅ぎ分ける嗅覚はますますさえているようです。ウクライナ危機に際しても、マスク氏の動きはほかを圧倒しています。
ツイッター社の筆頭株主に
話題づくりでビジネスを進めるマスク氏ですが、またまた世界を驚かせました。何かといえば、米国サンフランシスコに本社を構える「ツイッター社」の株の買い占めです。今年1月末から密かに買い進め、あっという間に9%を超える株を取得し、筆頭株主に躍り出てしまいました。これまで、マスク氏はツイッターを最も有効活用するヘビーユーザーでしたが、同時に、同社の経営方針や運用手法には批判的でした。
マスク氏のツイッターのフォロワー数は半端なく、8,000万人を超えています。連日複数の投稿を重ね、ツイッターこそが「テスラ」や「スペースX」、最近立ち上げた「ニューラリンク」などの宣伝広告媒体となっているわけです。マスク氏本人が昼夜を問わず、ツイッターを通じて情報発信を続けていることは、テレビCMやネット広告よりも経済効果が抜群です。
大手自動車会社の場合、宣伝費に売上の5%近くを投入するのは一般的です。しかし、テスラの場合、宣伝費は1%以下で収まっています。たとえば、現代自動車は1台売るために2,000ドルの宣伝費をかけていますが、テスラでは14セントに過ぎないのです。なぜなら、マスク氏のツイッターそのものが宣伝広告の役割をはたしているからです。ホンダのフォロワーは110万人、ボルボは23万人です。マスク氏の8,000万人超は桁が違います。
それだけツイッターの恩恵にあずかっているのですが、マスク氏いわく、「表現の自由が十分に確保されていない。不都合な情報や意見が削除され、また表示されないこともある」。3月26日のツイッターでは「民主的な情報伝達手段としては問題がある。皆、どうすればいいと思う?新たなプラットフォームを立ち上げる必要があるかな?」とフォロワーに問いかけているほどでした。
多くのフォロワーからは、マスク氏の意見に同調する反応が寄せられました。しかし、マスク氏は新たなプラットフォームを設立するのではなく、ツイッター社を乗っ取り、自らが内部から変革する道を選んだわけです。これも、したたかなマスク流のビジネス手法と思われます。
▼おすすめ記事
バイデン大統領をも手玉に取り世界制覇を狙うイーロン・マスクトランプ前大統領はツイッターから排除され、自前のプラットフォームを立ち上げると宣言したものの、資金とスタッフの両方が不足しており、掛け声倒れになっています。マスク氏はトランプ氏がやりたくてもできなかったことを自力で成し遂げようとしているようなものです。
アメリカの共和党陣営からは早くも、マスク氏がツイッター社に乗り込み、トランプ氏がツイッターを使えるようにしてくれることを期待する声が出ています。とはいえ、昨年1月6日のワシントンの連邦議会ビル占拠を扇動するため、ツイッターを使ったことはアメリカの議会史上、汚名として刻まれており、トランプ氏のツイッター復活は難しいと思われます。
ツイッターを蘇らせると宣言
マスク氏の批判のターゲットになっていたツイッター社では、社員の間でマスク氏への反感や恐怖心も募っていたようです。今回の筆頭株主のニュースが流れると、「マスク氏の下では働きたくない」といった声も聞かれました。
恐らくマスク氏はそうした事情は百も承知で、水面下でツイッター社の創業者や現社長らと交渉を重ねてきたはずです。なぜなら、マスク氏が筆頭株主になったことが明らかになると、即座に社長から「役員への就任をお願いし、快く引き受けていただいた。新たなツイッターの歴史が始まる。一緒に仕事ができることを楽しみにしている」との声明が発表されたからです。
ニューヨーク市場も好感を示し、ツイッター社の株価は27%も跳ね上がって370億ドルとなり、マスク氏の保有株もほぼ30億ドルになりました。まさに「マスク効果」そのもの。マスク氏とすれば、ツイッター社の乗っ取り作戦を成功させたのも同然でしょう。
実は、ツイッター社は経営的には苦境に落ち込んでいます。投資家や株主からは、「成長速度が落ちており、将来性に陰りが見える」との指摘が相次いでいました。そのため、積極的なユーザー数を現在の2億1,700万人から3億1,500万人にまで拡大し、2023年までに収益を倍増する目標を設定したばかりです。11人いる役員の首のすげ替えも断行しました。しかし、役員の顔ぶれは市場の期待を裏切っており、先行き不安が高まっていたのです。
そこにチャンスを見出したのが、マスク氏にほかなりません。マスク氏の役員就任の任期は当面24年までです。これからの2年間でどこまでツイッター社の改革を達成できるのか、世界が注目しています。従来の役員は会社との契約事項に「会社の基本方針に反しないこと」という項目がありました。しかし、マスク氏はそうした契約には署名せず、独自の未来ビジョンによりツイッター社を蘇らせると宣言。ウクライナを守り、プーチン大統領に決闘を申し出た「嵐を呼ぶ男」の手腕が問われます。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
関連記事
2024年11月20日 12:302024年11月11日 13:002024年11月1日 10:172024年11月22日 15:302024年11月21日 13:002024年11月14日 10:252024年11月18日 18:02
最近の人気記事
おすすめ記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す