2024年12月22日( 日 )

福岡IR誘致(案)の可能性について(前)

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(株)アクロテリオン
代表取締役 下川 弘

1.はじめに

 去る3月30日Bally’s Corporation が福岡IR(カジノを含む統合型シティリゾート)への参加表明の記者会見が福岡市内で開かれ、にわかに「福岡IR」の話が浮上してきた。

 Bally’s Corporationはいうまでもなく、1973年に米国Las Vegasに開業したシーザーズ社系列の世界最大級のホテルを持つ有名なリゾートホテル&カジノ企業である。

 記者会見によると、場所は福岡市東区の国営海の中道海浜公園、総事業費試算約4,800億円(すべて民間負担で計画)、年間来場予定者約460万人程度と想定、年間売上高は2,495億円、1日平均来場者約1万3,000人を見込んでいるという。

 今回のBally’s Corporationの企画提案の事業計画については、よく検討されていると感心する一方、「福岡にIRを誘致する」ことに関して、福岡ならではの政治的な問題点と都市計画的問題点についての整理と解決方法が欠けているように思われる。

福岡IRの完成予想図(NetIB-Newsより)
福岡IRの完成予想図(NetIB-Newsより)

2.IR申請の手続きについて

 まず第1に、福岡ならではの問題点であるが、IR整備法では、地元行政が国に対して申請をしなければ、IR誘致はできない。IR施設への参加希望自治体は、数年前は10カ所近くあったが、現在は、大阪・和歌山・長崎の3カ所だけである。しかも地方行政として国へ申請する締切りは4月28日(木)までとなっていた(図参照)。

 とくに、高島宗一郎福岡市長は、2019年の段階で、「福岡のIR誘致は今考えるような状態にはない。」として、これまで一切IR誘致に対してコメントされていないし、九州経済連合会(会長:倉富純男)および(一社)九州観光推進機構(会長:唐池恒二)は、全面的に長崎IR誘致をバックアップする方針が決まっている。どう考えても今回福岡市がIR誘致の申請手続きをするには、間に合わない。

 しかし、そうしたことは理解されているようで、記者会見での質疑回答にもあったように、「福岡市・九州経済連合会などとの協議は進んではいない。今回Bally’s Corporationの意向を伝えるものであり、福岡市が国に対して申請するかどうかはわからないが、あくまで我々の民意を伝えるものである。」としている。これではIR誘致にはならないのである。

 一石を投じるという意味では、大変重要な意見であり、決して福岡IR誘致を否定しているのではないが、IR誘致の手続きとしては、少しお粗末な印象を受けた。

観光庁作成のIR開業までのスケジュール
 認定の申請手続に関する事項 (1)認定申請期間 令和3年 10 月1日(金)9時 30 分から令和4年4月 28 日(木)18 時 15 分まで(必着)

観光庁ホームページ より
観光庁ホームページ より

3.道路交通アクセス計画の充実について

 第2に都市計画的課題についての整理と解決方法についてであるが、計画地である海の中道海浜公園は、広大な土地が広がり、近くに水族館やホテルもあり、リゾート地として非日常的に遊ぶ所としては申し分ない場所である。しかし、そこに行くまでのアクセスが問題である。

 計画案の説明では、年間460万人、1日当たり1万3,000人を見込んでいるなかで「JRが通っているからアクセスが良い」「市営地下鉄、西鉄、JRの軌道幅が同じであり、乗り入れができる」と説明されていたが、軌道系があれば良いというものではなく、JR香椎線(愛称 海の中道線)は全線単線であること、全線非電化区間であることは、大きな問題である。一日当たり1万3,000人の集客を計算するのであれば、電化と複線化はJR九州に対して申し入れして、交通計画を計画書に入れておく必要があるだろう。

 また、同様に道路系アクセスについては、複数経路によるアクセスができないことや、中央分離帯による長距離間Uターンができない、いわゆる逃げ道のない1本道の海の中道道路(県道59号線)だけを使うことは、奈多地区やアイランドシティ内に大変な渋滞を引き起こす可能性があり、地域住民の生活道路が失われてしまうと思われる。

「ららぽーと福岡」の渋滞状況(撮影・下川弘氏)

    ちなみに4月25日(月)にグランドオープンした博多区那珂の旧青果市場跡地に三井ショッピングパーク「ららぽーと福岡」。敷地内に収容台数3,050台の立体駐車場を確保しているが、この立体駐車場の入り口には駐車ゲートが設けられているため、すんなりと入ることができない。つまり前面道路である「筑紫通り」の交通渋滞は避けられない。とくに朝夕の通勤時は現状でも渋滞するところであるため、しばらくは大変だ。

ららぽーと福岡 HPより
ららぽーと福岡 HPより

 従って、福岡IRの海の中道海浜公園での計画については、複数の道路系交通アクセス計画を検討する必要があると考える。たとえば、博多方面からの軌道系地下トンネルや貝塚JCTからの道路系地下トンネルなど画期的なアイデアを提案することが必要だと思われる。

 さらに、博多港―西戸崎を結ぶ海上アクセスの充実(シャトル便など)も大きなアクセス計画に盛り込まれる必要があると考える。

(つづく)


<プロフィール>
下川 弘
(しもかわ ひろし)
1961年11月、福岡県飯塚市出身。熊本大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了後、87年4月に(株)間組(現・(株)安藤・間)に入社。建築営業本部やベトナム現地法人、本社土木事業本部・営業部長などを経て、20年9月からは九州支店建築営業部・営業部長を務め、21年11月末に退職。現在は(株)アクロテリオン・代表取締役を務める。ほかにC&C21研究会・理事やハートフルリンクアジア協同組合代表理事など。

(後)

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