【新潟県知事選】争点は原発再稼働、ジンクスは繰り返される?
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参院選の前哨戦と位置づけられる与野党激突の「新潟県知事選」(5月29日投開票)は、現職の花角英世知事(自民・公明・国民民主支持)と会社役員の片桐奈保美候補(共産・れいわ・社民推薦)の一騎打ちで、最大の争点は原発再稼働の是非だ。ロシアのウクライナ侵攻で明らかになった原発攻撃のリスクを直視した片桐氏は、世界最大の東京電力「柏崎刈羽原子力発電所」(新潟県柏崎市・刈羽村)の再稼働に反対、原発ゼロを加速すべきと考えている。告示日(12日)には原発近くの砂浜でこう訴えた。
「ウクライナのヨーロッパ最大の原発が攻撃されました。この柏崎刈羽原発も7号機まで動くと世界最大の原発です。これが戦争で攻撃されるようなことがあってはなりません。新潟も他人事ではない。私は原発を再稼働させません。国の言いなりにはなりません」。
一方、「原発を最大限活用」と明言した岸田政権(首相)はラストサンデーの22日、“隠れ原発再稼働派”とも呼ばれる花角知事の応援に茂木敏充幹事長を送り込み、「原発ゼロは非現実的」と強調、原発推進の姿勢を全面に押し出した。茂木氏は新潟駅前でこう訴えた。
「ウクライナの問題は、決して対岸の問題ではない。日本を取り巻く安全保障環境、北朝鮮、中国、厳しさを増しています。これから我が国の新しい安全保障戦略、防衛体制を抜本的に強化していきます。そしてウクライナ情勢。原油価格の高騰が、さらにはエネルギー安全保障を考えたときに何の根拠もなしに『原発ゼロ』と訴えて現実性のない政策を出している。これでは新潟の経済も日本の経済も回っていかないと思っている。現実的で大胆な政策を進めることができる実績経験のある花角英世(64歳)か72歳の新人か。それを選ぶのが今回の選挙です。
自民党は全力で花角さんを応援します。そして公明党、国民民主党、連合の皆さんも花角さんを応援している。共産党、社民党、さらにはこちらの参議院議員(立憲民主党の森ゆうこ参院議員=新潟選挙区)の方が相手候補を応援する。この構図は知事選、そして2カ月後の参院選も同じことになるわけです」。
ロシアのウクライナ侵攻後、エネルギー政策をめぐる国論は二分。原油価格高騰を理由に原発再稼働促進を目指す自民党や維新と、原発攻撃のリスクを直視する野党が激突し始めていたが、その対立軸が新潟県知事にも持ち込まれたのだ。
これに対して岸田自民党こそ、現実的な原発攻撃のリスクと向き合わない無責任体質と批判したのが、片桐候補支援の森参院議員だ。同日(22日)のほぼ同じ時間帯に、茂木氏と正反対の主張をしていた。
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「東京大地塾」ウクライナ侵攻で激論(1)「いまウクライナ戦争があって、『とにかく安全保障だ』と。もちろん国は守らないといけない。自分たちの国は自分たちで守るという気概の下で、そして防衛力を近代化して、しっかり守らないといけない。だけど、どうですか。柏崎刈羽原発という私たち新潟県民が使いもしない電気をつくる世界最大の原発が北朝鮮に向かって立っているではないですか。これを何ともしようとしない。いくら国会で質問しても、誰も武力攻撃に対する安全の担保に、総理をはじめ原子力規制委員会も誰も責任を負っていないのです。原発を新潟からなくしたい。金食い虫の原発を止めて、そして本当に県民サービスを向上させ、子育てナンバーワンの新潟県、医療・介護ナンバーワンの新潟県、新しい産業ナンバーワンの新潟県をつくる。これが片桐奈保美候補です」。
与野党激突とはこのことだ。原油価格高騰を理由に原発再稼働を目指す自民党と、北朝鮮と日本海を隔てて対峙する原発攻撃のリスクを直視して原発ゼロの加速を訴える野党がガチンコ勝負。どちらが現実的な政策を打ち出しているのかを競い合っているかたちだ。
ただし、公開討論会と違って街頭演説ではそれぞれが持論を一方的に訴えるため、双方の主張のギャップが埋まっていくことはない。そこで、新潟駅前街宣を終えて駅改札口に向かう茂木氏を直撃、片桐氏や森氏の主張に対する反論を聞こうとしたが、一言も答えることはなかった。
「茂木さん、原発攻撃のリスクについて一言。北朝鮮から(原発に)ミサイルを撃たれたらどうするのですか。原発を動かさないほうが安全保障上、いいのではないですか」。茂木幹事長は無言のまま新潟駅に向かった(県警の取材妨害でこれ以上の声かけはできなかった)。
新潟街宣の2日後の24日、茂木氏は記者会見で「高い内閣支持率、連合の支援も追い風に良い雰囲気で戦いを進めている」と花角知事勝利への自信を滲ませたが、過去2回の新潟県知事選では連合新潟が支援した候補が2連敗、疫病神のような存在になっていた。6年前も自公と連合新潟が支援した森民夫・元長岡市長が米山隆一・前知事(現・衆院議員)に敗北、4年前にも連合新潟が支援した野党系の池田千賀子県議が花角知事に敗れた。
森参院議員は告示日の柏崎市での街宣で、池田氏の隣で「4年前の県知事選のとき、池田千賀子さん、あともう少しだった。原発の問題を曖昧にしてしまった。最後の最後で『脱原発』という広告を出したのは花角さんですよ」と指摘した。連合新潟が支援した池田候補(現・県議)は脱原発をはっきりと訴えられず、連合が支援しなかった花角知事に脱原発のお株を奪われたのが4年前の敗因と分析していたのだ。
しかし、今回は連合新潟がついた花角知事は「脱原発」を封印、自民党や経産省、電力会社、連合などの原子力村の支援候補(隠れ原発推進派)という実態が露わになってしまった。一方の片桐候補は、6年前に奇跡の逆転勝利をした米山前知事と同様、「脱原発(原発ゼロ加速)」を思う存分に訴えている。連合新潟がついたほうが負けるという新潟県知事選のジンクスが、三度(みたび)現実化する素地はあるのだ。
投開票日の29日、新潟の特殊事情に無頓着としか見えない茂木幹事長が、びっくり仰天することになるのか。知事選の結果が注目される。
【ジャーナリスト/横田 一】
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