2024年09月15日( 日 )

持続可能性を求めて~JR肥薩線復旧の行方(後)

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 被災したJR肥薩線の復旧に熊本県が意欲をみせるにはワケがある。国の対応レベルの高さとコロナ禍によって全国の地方鉄道が存続の危機に直面する実態が分かって、政治の後押しが望める環境が生まれていることが大きい。

 被災鉄道の復旧や復旧後の「在り方」を話し合う「JR肥薩線検討会議」。同様の目的で4年前の2018年4月に設置された「日田彦山線復旧会議」と比較すると、国の”ハマり方”の差が歴然だ。

 復旧会議の委員は、福岡、大分両県知事、沿線の3市町村長、JR九州社長の6人。国は九州運輸局長がオブザーバーだった。

 これに対し、検討会議は、構成員5人のうち3人は国交省の鉄道局担当大臣官房技術審議官、九州地方整備局長、九州運輸局長。残る2人は熊本県副知事とJR九州の常務執行役員。事務局は国交省鉄道局と熊本県企画振興部で国交省側は鉄道事業課が実務を担当する。

 実は、この鉄道事業課は、経営が厳しい地方鉄道の存続の在り方を協議するため、国交省が2月に立ち上げた「地方鉄道の在り方を検討する有識者検討会」の事務局。有識者検討会は7月までに国の支援策などの方向性をまとめる。

 国交省が、数あるローカル線のなかで肥薩線の復旧協議に力を入れる背景に、巨額の復旧費もさることながら、球磨川改修と改修の要になる川辺川ダムの存在があるとみられる。事実、熊本県側で事務を担う交通政策課の中堅職員は「国に川辺川ダム絡みの思惑がないかといえばウソになる」と明かす。

 川辺川ダムは、計画から半世紀経っても地元の反対で完成が見通せず、20年4月に稼働した群馬県の八ッ場(やんば)ダムとともに超長期化したダムだった。ところが、同年7月の熊本豪雨で球磨川が氾濫して流域に大きな被害が発生、熊本県の蒲島郁夫知事が建設反対を撤回して再び建設に向けて動き始めた。

 川辺川ダム建設と肥薩線復旧を併行して進めることは、旧建設省と旧運輸省が統合した国交省の”スケールメリット”を活かせる場だ。

 政治情勢の”追い風”も吹いている。国交省の有識者検討会の設置後、JR西日本が4月1日、17年度~19年度の平均収支が赤字の地方鉄道17路線30区間を公開した。1987年4月の国鉄改革以降初めてで、30区間の19年度輸送密度は国鉄時代に「廃止目安」とされた2,000人/日未満だった。

 関係する沿線自治体に衝撃が走ったのはいうまでもない。前後して自民党の有志国会議員が集まって、「ポストコロナの地方創生実現のための公共交通ネットワークの再構築を目指す議員連盟」が発足、同議連会長に党税制調査会長の宮澤洋一参院議員、特別顧問に岸田文雄首相が就いた。全国知事会は素早く反応し、鉄道など地域公共交通を維持する既存補助制度の拡大や新制度創設を訴えた。

 7月の参院議を前に、同議連は鉄道の「上下分離」や線路跡を使うバス高速輸送システム(BRT)転換などへの予算措置や税制支援を提言。政府が7月に閣議決定する経済財政運営の指針「骨太の方針」にも反映させるという。

 熊本県では、16年4月の熊本地震とその後の豪雨で豊肥本線肥後大津-立野の27.3kmが不通になった。国は鉄道軌道整備法を改正し、被災路線に対する国・県の補助を黒字鉄道事業者にも広げて工事中の豊肥本線に適用。黒字会社のJR九州は、法改正がなかったら復旧費50億円の全額負担だったが、法改正で国・県の補助で半額に軽減された。

 さらに肥薩線と同じ20年7月の熊本豪雨で球磨川第四橋梁などが流され、全線不通になった人吉市の第三セクター「くま川鉄道」(旧・国鉄湯前線、延長24.8km)が昨年11月、一部区間で運行を再開した。肥薩線に比べると”迅速復旧”で「国の被災鉄道への補助制度にある」と熊本県のベテラン職員。

 「くま川鉄道」の概算復旧費は46億円。国が復旧費の実質97.5%を負担する特定大規模災害等鉄道施設災害復旧制度の活用を予定する。復旧後の鉄道は、地方自治体または公共的団体の保有が条件になっており、沿線10市町村などが保有する「上下分離」に移行して4年以内の全線再開を目指すという。

 相次ぐ鉄道災害によって熊本県は復旧制度に精通し、肥薩線復旧への周辺環境も悪くない。しかし今回の復旧費は200億円を超える。はたして鉄道としての持続可能性を国やJR九州が認めるか、予断を許さない。

少し手を入れただけで復旧しそうな区間も
肥薩線の不通区間八代駅-吉松駅を仮に復旧させた場合、
再開までに4、5年必要という。
ただ少し手を入れただけで復旧しそうな区間もある。
上は「西人吉駅」、下は「一勝地駅」。

(了)

【南里 秀之】

(中)

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