2024年12月23日( 月 )

岸田総理がバイデン大統領とともに進めるインド太平洋戦略に隠された狙い

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、6月17日付の記事を紹介する。

台湾 イメージ    日本の対アジア戦略が世界の注目を集めています。なかでも台湾問題に対する日本の岸田政権の動きは危険視されるようになりました。というのも、日本政府は台湾に防衛省の現役職員の文官を派遣する方針を固めたと報道されているからです。現在は退職した自衛官が1名、情報収集のために日本台湾交流協会台北事務所に駐在しているだけですが、今夏から2名体制になるとのこと。

 その背景には岸田総理や安倍元総理の「ウクライナの今日は東アジアの明日」という危機感が横たわっています。アメリカ同様、日本は「1つの中国」政策を堅持していますが、中国による軍事力の増強とアジア地域全般における台頭やロシア軍との合同軍事演習の増加によって、日本国内には中国との戦略的互恵関係を見直すべきとの意見も高まってきました。その急先鋒に立つのが安倍元総理です。

 岸田総理もアメリカのバイデン大統領との協議を重ねるなかで、「日本にとって最大の課題は中国の軍事的台頭」との認識を共有するようになっているようです。そのため、中国の動静を台湾からも把握する考えを強めたと思われます。すでにアメリカは在台協会の台北事務所に現役の陸海空の軍人を派遣しており、日本も将来的には陸海空の現役自衛官を派遣する可能性も検討中と言われています。

 アメリカは台湾有事を想定しての「米日韓」合同軍事対処の図上演習を繰り返しており、日本とすれば、そうした演習をより実戦的なものにするためにも、現地での情報収集や分析能力を高める必要に迫られた結果に他ならないわけです。ちなみに、国防総省とランド研究所が繰り返す「シミュレーション」では日米が軍事的介入を行っても中国による台湾侵攻は1週間から2週間で完了するとの結論となっています。

 また、バイデン大統領はTPPへの復帰やRCEPへの加盟ではなく、新たな「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を先の日本訪問の機会に打ち出しました。しかし、アメリカの指導力や経済力に対しては期待と不安が交錯しているため、実際にインドや東南アジア諸国など13カ国を参加に導いたのは日本です。

 アメリカは軍事面だけではなく、それを支える経済力の面でも中国を押さえる意図をもってIPEFを提唱しており、中国との経済通商的つながりを持つ国々は警戒していました。さらに、アメリカによる関税引き下げなど市場開放策が明記されていないことへの不満の声も聞かれたものです。

 そうしたインドや東南アジア諸国の不信感を和らげるうえでの日本の根回しが功を奏し、辛うじてIPEFはスタートラインに立つことができました。要は、支持率の低下に苦しむバイデン大統領が秋の中間選挙や2024年の大統領選挙に向けての人気取り政策を必要としており、IPEFも「中国と対決する強いリーダー」を印象付けようとするポーズでしかありません。

 安倍元総理は「ウクライナがロシアに攻め込まれたのは「同盟関係」をもたず、「核兵器」ももたなかったからだ」と受け止め、日本も防衛力の増強と核シェアーなど新たな抑止策を講じるべきだと力説しています。その影響もあってか、岸田総理は、台湾有事に備えるためには「拡大NATO」いわゆる「グローバルNATO」が欠かせないとの姿勢を固めているようです。冷戦が終わり、ワルシャワ条約機構も消滅している今日、再度、新冷戦につながるような「グローバルNATO」を提唱するのは時代の流れに逆らっているものとしか思えません。

 今、必要なのは価値観の違いを乗り越えて、ロシアなど紛争を引き起こしている国々とも正面から直談判する勇気と交渉力ではないでしょうか。また、日本にとって中国が最大の脅威と言いますが、そんな中国は日本にとって最大の貿易相手国に他なりません。脅威を取り除くには、その源泉と真正面から向き合うことが重要だと思います。脅威を封じ込めようと仲間を増やすことに汲々としているだけでは問題の解決からは遠のくばかりです。

 もちろん、脅威を煽ることで防衛予算が増え、装備品や武器弾薬が増産されれば、軍事産業はこの世の春になることは火を見るよりも明らかではあります。すでにそうした動きを織り込んでいるせいでしょうか、防衛関連とエネルギー関連株は株価急騰の兆しが見えています。

 次号「第300回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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